キケロ「老年について」#01 愚かなまま老いてはいけない
Q「たいていの年寄りは文句が多い。年をとることは辛いという。しかしあなたはまったくそうではない。年を重ねることを少しも苦にしておられないように見える。すばらしいことだ。」
A「君たちは、さほど難しくないことで私をほめてくれているようだね。
どんな年ごろにあっても、恵み豊かで幸せな人生を生きるための術を自分の内に持たない者は、生きるのを辛く感じるものだ。自分の中の良きものを探し求める者は、自然の摂理に従ったものであれば、それがどんなものでも厄介事だとは思わないだろう。加齢というのはその最たるものだろうね。
誰でも長生きしたいと思うが、いざ年老いてみるとたいがい文句を言う。ときに人というのは、それほど愚かで矛盾が多いものだ。
人は、老いが忍び寄るのは思っていたよりずっと速いと言う。こんなお粗末な考え方があるかね。老いてから年をとる速さが子供がいつのまにか若者になる速さよりはやいことがあるだろうか。もし人の寿命が80歳でなく800歳に延びたら、人にとって老いが負担ではなくなるだろうか。
もし老人が愚かなままであれば、人生の残り時間がどんどん少なくなっていくことに対して、どんな慰めもないだろう。いくら長く生きたとしても、過ぎゆく日々を止める術はないのだから。」
※ガリバー旅行記に、不死の者が生まれる国が出てきますね。死ぬことは幸いなりという主張だろうと思います。こうした発想は仏教にも出てくるようですので、古今東西を問わず、賢人たちはそこから翻って叡智を生み出してきたのかなぁと思います。