白雪姫にも魔女にもなれない
髪の毛がどうしようもなくなってきたので美容室に行った。
美容室は好きだ。美容師さんと話すことは苦手だけれど、それ以上に髪を触って、切ってもらう感覚が好き。シャンプーと共に疲労が流されるし、髪を切るときの鋏の音も心地良い。
だから私は美容室に行くのが楽しみだった。
なりたい髪型を見せて美容師さんにアドバイスをもらう。カットの詳細についての説明を受ける。
そしてシャンプー台に案内されるが、その前に
「マスクが濡れてしまうかもしれないのですが、外しますか?」
と尋ねられた。なんとなくマスクを外した方がシャンプーもカットもしやすいのだろうなと思い、私はすぐにマスクを外した。
シャンプーは気持ちよかった。温泉に入ったときのような声が出そうになった。さすがにやめた。体重が2キロ軽くなったかのような足取りでカットの席に戻る。
座る。
スマホを少し見る。
スマホを見ていると頭が動きそうなのでスマホを置く。
鏡を見る。
「なんだこの顔」
鏡に映った自分の顔がひどく醜く見えた。
それからは楽しみにしていたカットの時間が苦痛で仕方なかった。
大きな鏡に映し出されている私の顔を呆然と眺める。
そして、嫌悪する。私って、私の顔って。
目の前のスマホを再び触れば気がまぎれたかもしれない。でもその余裕すらないほど、私は鏡の中の自分の顔にショックを受けた。
ただひたすら惨めな気持ちになる。
美容師さんがどんなに頑張って切ってくれても私は美しくなれないのではないか。
申し訳なさが私を襲う。
少し疲れていていつもより思考がマイナス方向に引っ張られたことは否めない。
知らず知らずのうちに燻っていたコンプレックスが、疲労と美容室の大きな鏡という二つの触媒投下によって大爆発を起こした。
焼け落ちる私の心。
燃えて、燃えて、燃え尽きて。
最後は目に膜を作る程度の涙により鎮火。
大きな鏡の前で、私は自分の美しさを誇る魔女になれない。
もちろん、この世で1番美しい白雪姫にもなれない。
それならせめて、鏡に映った自分に対して、美しいか否かの判断を下さないでいられないものだろうか。
いたい。