ゴキブリの味

ゴキブリの味を知っていますか。


あんなにポップで香ばしく、そしてクリスピーな食材を俺は知らない。
いいから一度食べてみなって。
きっと世界が変わる。
知らんけど。


俺が初めてゴキブリを食べたのは、23歳の時だった。
あの時の俺は…、ほんとに金が無く、いつも腹を空かせていた。
稼ぐ金はすべて、吸い取られていた、忌むべきあの野郎に。
俺のポケットには、いつも1円玉か5円玉しかなかった。
昼の食事は水だけ。
かろうじて朝と夜はうちで食えたが、それでも薄い粥を茶碗に半分だけ…。


そんな俺が、床に現れたゴキ野郎をひっ捕まえて、口に入れることに抵抗なんかあるわけがなかった。


口に入れた瞬間、「あぁ、俺、ちょっとやっちゃったな」、とは思ったが、かみしめるごとに広がるその甘いテイストに、飲み下すことが惜しいくらいの口中の至福を感じた。


それ以来、俺はヤツをいつも待つようになった。
夏の暑い夜、どこからともなく現れる。
音はしないが…、マンガじゃないが、「ささささささ」っと擬音が空間に描き込まれる


そいつを俺は
素手を伸ばしてとらえる


何の躊躇もなく口にほりこみ
舌を舌でエロくかき回しながら咀嚼し
そしゃくし
Soshakushi
のみこむ


やってみな。
責任は持てないが、俺は今生きている。

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