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【徹底解説】BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL」

世界最大の資産運用会社、ブラックロックがビットコイン現物ETFを立ち上げ、仮想通貨を伝統的な金融機関のポートフォリオに組み込むことに成功してから3ヶ月が経ちました。

そして2024年3月21日、ブラックロックとセキュリタイズがパブリック・ブロックチェーンであるイーサリアム上で初のトークン化資産ファンド、BUIDL(ブラックロック米ドル米ドル機関投資家向けデジタル流動性ファンド)を立ち上げ、今度は伝統金融の法的枠組みを仮想通貨業界に適用させようと試みています。

BUIDLファンドの立ち上げは現実資産(RWA)のトークン化における重要な節目となります。仮想通貨と現実資産が垣根を超えて繋がった世界が実現すれば、ブロックチェーン技術は既存の金融システムを根本的に変革する可能性があります。

この記事ではBUIDLファンドの仕組みや法的枠組み、ブロックロックがトークン化を掲げる理由を分析します。


1. BUIDLファンドの仕組み


例えば 1,000ドルをステーブルコインのUSDCに投入するとしましょう。

$USDCの発行体であるサークル社はステーブルコインを発行した後、受け取った$1,000ドルを国債などの資産に投資します。ここから発生した利益は全てサークル社に帰属します。

一方で、ブラックロックのBUIDLファンドに1,000ドルを投じれば、1トークンあたり$1の価値が約束され、さらに利回りを得ることができます。

BUIDLは、一見ステーブルコインに見えますが、実体は「証券」なのです

BUIDLのステーブルコインとしての有用性に触れる前に、まずはBUIDLの「証券」としての性質を整理します。


A. ファンドの主体

BUIDLファンドは、ブラックロックが英領バージン諸島(BVI)で設立した特別目的会社(SPV)です。このSPVは米国証券法と投資会社法の規定に従い、SECにReg Dの登録免除を申請しており、認定された投資家のみが参加できます。

B. トークン化とオンチェーンロジック

BUIDLファンドのトークン化プラットフォームであるSecuritize (セキュリタイズ)は、ファンドのオンチェーンロジックを管理し、規制要件を満たすためにファンドのオンチェーンロジックを必要な文書データに変換する役割を担います。

また、セキュリタイズは転送エージェントとしてトークン化ファンドの証券の管理、取得、償還、配当を実行および報告します。

Securitize Markets(米国の代替取引システムライセンスを保有し、ブローカー・ディーラーとしてFINRAに登録されている)は、ファンドの販売代理店として機能し、適格投資家に商品を提供します。

投資家は様々な仮想通貨カストディサービスの中から、柔軟に選択することができます(Anchorage Digital Bank, BitGo, Coinbase, Fireblocks)。

C. 原資産運用

ブラックロックは、BUIDLファンドの投資決定と運用を担当します。

バンク・オブ・ニューヨーク・メロンは、ファンドの原資産の受託信託銀行およびファンド管理者となります。

ファンドの会計処理および監査は、ビッグ4の一つであるPwCが担当します。

D. 資金管理

当ファンドはBUIDL トークンが安定して$1ドルの価値を保つために、資産の100%を現金、米国債、現先契約(レポ取引)などの流動性の高い資産に投資します。

BUIDLトークンは毎月配布され、配当は新しいトークンの形で、直接投資家のウォレットに「エアドロップ」されます。

E.  24時間365日即時発行/償還

セキュリタイズは、投資家に24時間365日、法定通貨の米ドルでのファンドへのアクセス(発行および償還)を提供します。この即時決済とリアルタイムの償還機能は、多くの伝統的な金融機関が熱望しているものです。

従来の投資信託はほとんどの場合、投資期間が定められており、その間に償還ができません。これは、仮想通貨業界での「ロックアップ」と同様の概念です。

投資家はポートフォリオ戦略に従ってポジションを調整したいとき、通常、自ら取引相手を見つけ、証券を割引価格で売却する必要があります。仮想通貨市場で例えるならば、ETFよりも低い価格でWrapped ETHを販売することに似ています。

伝統金融のファンド運用プロセスは効率が悪いと言わざるを得ません。多くの参加者が独自の台帳(証券台帳や銀行台帳など)を管理しているため、発行や償還の過程には遅れが生じます。

これに対して、ファンドのトークン化は、ブロックチェーン上で統一された台帳によるリアルタイム決済を可能にします。これにより取引コストが大幅に削減され、資本効率が向上します。

他にも利点はあります。

ファンド参加者は、ブロックチェーン上のデータにアクセスして閲覧できるため、複数の参加者間での報告や調整が不要となり、登録手続きも大幅に簡略化されます。

また、ファンドの申し込みや償還は直接決済され、投資家の口座(電子ウォレット)に入金されます。取引は即時決済で行われ、市場リスクやカウンターパーティーリスクが排除されます

さらに、ブロックチェーンを利用したより効率的なアトミック性の決済により、24時間体制でのリアルタイムの価格設定や決済が実現されます。

2. USDCを介したBUIDLの流動性

上述の通り、「証券」に付随する規制制限により、BUIDLトークンは適格投資家の間でのみ流通します。したがって、従来の投資信託のように、投資商品の償還のために必要な流動性が不足する可能性があります。

仮想通貨市場には、自動マーケットメーカー(AMM)があり、流動性プールに十分な流動性があればいつでも資産を交換できます。しかし、従来の市場では、そのような流動性は備わっていないため、機関投資家は自ら取引相手を見つける必要があります。

ウォール街の投資銀行家は、AMMと同様の役割を果たし、情報の非対称性を活用して利益を得ます。彼らは一般的に取引額の1%から5%の手数料を請求します。映画で描かれるウォール街のバンカーが裕福な理由の一つです。

この問題を解決するため、ブラックロックはサークル社と提携し、スマートコントラクトが制御する流動性プールを構築しました。BUIDLとUSDCを1:1の比率でリアルタイムの交換が可能となるため、投資家はいつでもトークンを発行・償還することができます。

3. BUIDLファンドの対象

BUIDLトークンはイーサリアム上に発行されたERC-20トークンですが、「証券」の性質や、KYC/AML/CTFの規制遵守、最低投資額の500万ドルなどの要件があります。

法令遵守に焦点を当てた「証券」の性質と、ERC-20トークンの「パーミッションレス」な性質を併せ持つBUIDLファンドは、投資家に十分な安心感を与えます。

具体的には、以下のような要素が挙げられます:

(1)原資産のセキュリティ:カウンターパーティリスクはブラックロックのみに限定され、SPVの倒産隔離、銀行レベルの原資産の保管・管理が行われます。

(2)オンチェーン資産のセキュリティ:厳格なKYCによるアクセス制限、SECの規制に準拠した資本市場へのアクセス、機関レベルの仮想通貨カストディサービスが提供されます。

このような強力なコンプライアンス構成のもと、BUIDLは機関レベルの(あらゆるステーブルコイン発行者、DeFi、L2、およびその他のプロジェクトの保管庫になることを含む)暗号資産の担保レイヤーを構築しました。この担保レイヤーは、資産の安全性を確保しつつ、利回りを生み出すことができます。

例えば、$USDTの発行者であるテザーは、自社の純資産の大部分をBUIDLファンドに投入することで、最大のコンプライアンス問題である純資産の透明性を解決できます。

4. RWA市場のポテンシャル

サークル社の共同創設者であるジェレミー・アレール氏は、RWAのトークン化に肯定的な見解を示しました。「RWAのトークン化は、投資家が直面する不便を解消できる新しい資産クラスとして急速に台頭している」と述べています。

同氏はまた、「この機能をBUIDLの投資家に提供できることを喜んでおり、ブロックチェーン取引の核心的な利点である速度、透明性、効率性を示すことができる」と付け加えました。

Finternetの概念

最後に、国際決済銀行(BIS)の「Finternet: the Financial System for the Future」レポートを引用して締めくくります。

「過去数十年間でデジタル技術が人々の生活を変えてきましたが、金融システムの多くは依然として過去にとどまっています。多くの取引は依然として数日かかり、時間のかかる清算、メッセージング、決済システム、および物理的な紙の記録に頼っています。したがって、金融システムの運用を改善することは重要な公共政策目標です。これらのブロックチェーンベースのFinternetシステムが将来の金融システムになります。

国際決済銀行、2024年


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