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【 徹底解説 】2024年再注目の投資先は? クリプト投資ガイド #5 アカウント抽象化(Account Abstraction)編

前回のガイドでは、既存のDeFiサービスの限界と新規プロジェクトの台頭、RWAの拡大による担保市場の複雑化、そしてPerp Dexの可能性などDeFi分野について包括的に論じた。本稿ではアカウント抽象化の現状把握と今後の展望を考察する。

Web 3.0 はユーザー体験の観点からはまだ使い勝手が悪く、煩雑な手順が多い。一方で、Web 2.0サービスはユーザーの目的や意図に適したサービスをアルゴリズムによって自動的に提供している。この機能は「インテント(意図)」と呼ばれる。

Web 3.0 ウォレットでは、どのようなインテントが考えられるだろうか。最も簡単な例は、ユーザーが「コインAをBに交換したい」と考えている場合、手数料やスリッページなどの付随的な要素を自動的に最適化し、ユーザーが望む結果を提供することである。

最近では、このようなインテントを実現する技術が既に登場しているが、それがまさに「アカウント抽象化(AA: Account Abstraction)」なのだ。

細かい技術的な要素を理解する必要がなく、インテントを通じてDeFiを安全に利用できる時代がやってきている。全人類が簡単にデジタルウォレットを使用できるようになれば、仮想通貨の大衆化が実現するかもしれない。

イーサリアムはもともとAA機能を持っていなかったが、昨年、ERC-4337が標準化されたことでAAアプリケーションが急速に増加している。また、RIP-7560の導入により、L2でもAAスタックが採用され、イーサリアムエコシステム全体でAAが不可欠な技術となった。

アカウント抽象化の現状

AAは、ガス料金が低いチェーンでよく使用されるウォレットソリューションである。

AAは一種のスマートコントラクトであるため、まだイーサリアム上での利用にはガス代が高額だ。そのため、比較的手数料が安いポリゴン、オプティミズム、アービトラム、ベイスでよく利用されている。

特にポリゴンは他のL2と比較して取引コストが安く、AAに対応したDappが多いため、AA市場シェアの約80〜85%を占めている。

ERC-4337利用者の増加

グラフ内の緑がCyberconnect AA ソリューション

最近のエアドロップ需要の増加により、ERC-4337ソリューションを搭載したウォレットやDappの利用が増加している。上のグラフを見ると、7月から8月にかけて、Cyberconnectというウォレットソリューション(緑)を利用したエアドロップ狙いのユーザーが一時的に増加していることがわかる。この傾向は今後も続く可能性が高い。

Relayer/Bunder (リレイヤー・バンドラー)


バンドラーは、取引をまとめてバリデーターに提供することで収益を生み出すが、AAの恩恵を受け、その利益が増加している。

リレイヤーは、AAの単一または複数のUserOps(ユーザーが実行したいトランザクション)を集めて処理する中継機能だ。

2024年の初めには、95%のリレイヤーが利益を上げることができなかったが、現在は30%に改善された。Alchemey、Biconomy、ParticleなどのRPCやAAプロバイダーはバンドラー事業に取り組んでいるが、まだ目立った収益は得られていない。将来、AAの利用頻度が増加するにつれて収益性が改善していくと期待されている。

プライベートメモリプール

パブリックメモリプールはサンドイッチ攻撃などが原因で避けられており、安全な取引を求めプライベートメモリプールの需要が高まっている。

そして現在、ほとんどのAAウォレットは、ユーザーに向けてより優れたUXとMEVへの耐性を提供するために、独自のプライベートメモリプールを構築している。

イーサリアム全体のプライベートメモリプールの割合はまだ約10〜15%程度だが、DEXフロントエンド、ルーター、リレイヤーでは、その割合が着実に増加し、毎日30〜40%に達している。トークン取引時にはMEVリスクがあるパブリックメモリプールよりも、プライベートメモリプールを提供するDEXやTelegramボットが好まれる傾向にある。

AA Factories

AAをモジュール化出来るようなソリューションには大きな需要が生まれている。

AA Factoryは、開発者が必要な機能のみをDAppに組み込めるようにAAをモジュール化した製品だ。

2023年にZeroDevが提供したAAソリューションを導入して開発されたDAppの割合は55%にまで昇り、Biconomyは29%を占める。これら2社はモジュラーソリューションを提供することで開発の柔軟性を高め、市場で大きなシェアを獲得することに成功した。

アカウント抽象化の将来性

AA市場では開発ツール(SDK)の使いやすさと、複数のプライベートメモリプールに接続されたリレーエコシステムの構築が安定したキャッシュフローに繋がる。

顧客の取引を収集し、それをバリデーターに送信するサプライチェーンネットワークの運営はVisaのビジネルモデルに近い。サプライチェーンが拡大するにつれて、ネットワークを構築する企業の収益が増えることが期待される。

また、AAは「モジュラーウォレット」を提供できる。これは、ユーザーが利用頻度の高いインテント機能を自由にカスタマイズできるウォレットだ。

例えば、モジュラーストアのようなものを想像してほしい。

Web2.0のアプリストアのように認証済みのモジュールがユーザーに提供され、ユーザーがトークンを用いてそれぞれのモジュールを購入し、使用することで、単なる手数料ビジネス以上の多様なビジネスモデルが構築される可能性がある。

開発者 → ユーザー → AA → プラットフォームの順で手数料が発生することにより、モジュールエコシステムは安定した成長を遂げる循環モデルと(理想的には)なりうる。

また、AAはブロックチェーンの領域で、人間の行動に関するデータをAIと連携して活用できる唯一の分野でもある。AAと統合されたAIが人間の意図に基づく行動を自律的に行う時代が到来すれば、分散型金融に新たな可能性が拓かれるだろう。

現時点では、AAで大きな利益を得ることは難しい。しかし、AAの将来性を考慮すると、この分野は凄まじいポテンシャルを秘めている。

将来的には、AAソリューションのインフラとユーザーエコシステムの両方を網羅するプロジェクトが成功するだろう。このようなプロジェクトはPaypalやStripeのような暗号通貨分野の振興企業と肩を並べ、大きな成長を遂げるかもしれない。


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