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Autonomous Worldとは
Autonomous Worldはかつてフルオンチェーンゲームという分野で開発が進められていた。しかし、開発を進めている内に「あれ?俺らこれ作ってるのゲームじゃなくね?世界じゃね?」ってなっていって次第にAutonomous Worldという名で知られることになった。今までAxie InfinityやSTEPNなど、いわゆるブロックチェーンゲームというものは広く認知されていたが、"フル"オンチェーンゲームになると何故世界になるのか。一体Autonomous Worldとは何なのか。Autonomous Worldによってどんな新しい体験が可能なのか。それらについてこの記事では解説していこうと思う。
フルオンチェーンゲームとは
序文で説明した通り、Autonomous Worldは元々はフルオンチェーンゲームであった。フルオンチェーンゲームと他のブロックチェーンゲームの違いはその名の通り、全てオンチェーンか一部のみブロックチェーンを使っているかである。ここでは既存のweb2ゲームから、ブロックチェーンゲーム、フルオンチェーンゲームの順番で見ていきたいと思う。
既存のweb2ゲームについて
既存のweb2ゲームとは、仮想通貨など何それ美味しいの状態のゲームで、中央集権的にトップダウンでゲームが作成・運営されている。こういった方法で作られるゲームは、うまくいけば非常に面白く、筆者も人生の多くを費やしてきた。しかし残念ながら永続的ではなく、殆どのゲームが数年以内にサービスを終了してしまう。これは様々な要因が考えられるが、運営が方針を間違えたり、ハードの進歩によって新タイトルを作成した方がいいとか、開発リソースが限られるなどのケースが多いだろう。
Ethereumの共同創業者であるvitalikも、World of Warcraftという好きなゲームが運営のせいで滅んだことで、中央集権的サービスがもたらす恐怖を嘆いている。Ethereumを作るきっかけにもなったそう。
かくいう私も、vaingloryというかつて一部で流行っていたゲームが本当に好きで、毎日朝までやっていた。いわばスマホ版League of Legendsで3vs3のゲームなのだが、運営が突然5vs5を作り始めてしまい、さらに3vs3と5vs5で同じキャラクターの能力値で行おうとしたのだ。当然ゲームは崩壊してしまい、世界大会など行われるほどの人気があったものの、今では友達とチームを組んで試合することすらできない。
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既存のブロックチェーンゲームについて
フルオンチェーンゲームを考える前に、既存のブロックチェーンゲームであるSTEPNについて考えよう。STEPNはFind Satoshi Labという会社が作っているプロダクトで、$GMTと$GSTという仮想通貨を用いてMove to Earnという歩いて稼げるブロックチェーンゲームを作っている。STEPNは運営によるイベントやアップデートによってルール変更を度々行い、ユーザーを飽きさせないように開発が進められている。
実際にプレイするとわかるのだが、仮想通貨を購入してSTEPN内のwalletに移動した後、spendingという運営が管理する自分のアカウントに移動させる必要がある。ここはオフチェーンである。
また実際のゲームプレイは基本的にspendingで行い、歩いて仮想通貨が貰えているがトランザクションは生じておらず、運営からもらえているだけである。
ここで、STEPNにおいてオンチェーンとオフチェーンのものを整理すると
オンチェーン
walletでの$GST、$GMTのやり取り
walletでのNFTのやり取り
オフチェーン
spending上での$GST、$GMTのやり取り
spendingでのNFTのやり取り
他システム全般
となっている。
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他のブロックチェーンゲームも基本的に似たような構造となっており、アクション全てにトランザクションが走ることはない。基本的に運営がシステムや資産を握っており、既存のゲームと異なるのは仮想通貨を使っているか否か程度であろう。
これらはweb2.5ゲームとも呼ばれ、web2ユーザーをweb3に持ってくるという点でかなりの役割を果たしているものの、既存の中央集権団体による運営という点からは何も変わっていない。つまり、先に紹介した中央集権性がもたらす悲劇がいくらでも起こりうるのだ。
フルオンチェーンゲームについて
さて、ブロックチェーンゲームについて整理ができたところでフルオンチェーンゲームについて考えてみたいと思う。
凡そ予想がつくだろうが、"全て"オンチェーンで扱うのがフルオンチェーンゲームである。(実際に"全て"というのは困難であるため扱っていない部分もあるが、この点に関しては後述する。)
フルオンチェーンゲームでは、以下のようになる。
オンチェーン
システム全般
アセットを含む全ての状態
図で表すと以下の通り。(図ではweb 3 gamesという名で示されている。)
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このように段々とブロックチェーンで扱う範囲が増えていることがわかる。
フルオンチェーンゲームの先、Autonomous Worldとは
フルオンチェーンゲームは、でりおてんちょーさんの定義に従うと「全てのステートとロジックがオンチェーンにあるゲーム」と言える。私もこの立場だ。
では次に「全てのステートとロジックがオンチェーンにある」と何が生じるだろうか。それについて考えてみる。
「全てのステートとロジックがオンチェーンにある」ことによる恩恵を考えるには、ブロックチェーンに関する理解が必要だ。
ブロックチェーンを理解するにはビットコインを理解することから始める必要があり、理解に不安がある方はvitaさんが書いた以下の記事を読むことをお勧めする。
この記事を読んだ後は、スマートコントラクトを扱えるようにしたEthereumの理解を深めることをお勧めする。
この辺りを履修すれば自ずと分かるだろうが、ビットコインは貨幣を非中央集権化し、イーサリアムは契約とその処理を第三者をトラストすることなく行えるようになった。つまり、ブロックチェーンは非中央集権化とトラストレスな処理を含む多くの利益を齎すのである。
さて、ブロックチェーンの性質により「全てのステートとロジックがオンチェーン」であるフルオンチェーンゲームでは、永続性、分散性、検証可能性などがゲームの「ステート」と「ロジック」に対して与えられる。
つまり、明確で変更不可能な「ロジック」が自動で実行され、「ステート」の管理も分散され、それらは全て永続性をもつ。それは既にゲームという概念を超えており、永続的で自律的に動作する非中央集権的な世界、つまりはAutonomous Worldである。
一度デプロイされた「ロジック」によって動作した世界は自律的に動作し、誰も止めることができない性質から火星に例えられる。
強固な世界の「ロジック」は、強固な世界の「ステート」の管理を表し、それは強固な財産権の獲得を意味する。Autonomous Worldでは仮想世界における努力が突然中央集権団体に奪われる心配が無いのだ。
また、世界の「ロジック」に従う限りはパーミッションレスに世界の拡張を行うことができる。つまり、世界の「ルール」の範囲であれば自由に物を追加したりすることが可能だ。
一度デプロイされた後は、世界の「ロジック」についての変更はコアチームでもできない。唯一の方法は世界の住民によるガバナンスである。
ここまでのまとめ
Autonomous Worldは元々はフルオンチェーンゲームであった。
Autonomous Worldでは全てのステートとロジックがオンチェーンにある。
Autonomous Worldはブロックチェーンの性質により、永続性、分散性、検証可能性などの性質を持つ。
Autonomous Worldは一度デプロイされたら自律的に動作し、世界の「ロジック」に従う限りは自由で非中央集権的な世界である。
新しい体験は何か
ここまでAutonomous Worldという概念について見てきたが、ブロックチェーンにあまり親しみがない方々からすると正直ピンと来ないだろう。非中央集権的な仮想世界はそれ自体で魅力的であるが、実は中央集権的団体による悲劇が生じないというだけではないのだ。よって、以下では、Autonomous Worldによってユーザーにどのような新しい体験が齎されるのかについて述べていきたいと思う。なお、この点について既に英語で記事を書いたので、そちらを見ていただいても良い。
先に列挙すると、注目すべき新しい体験は以下の4点である。
新しいゲームジャンル:メタゲーム
コミュニティによるコンポーザビリティ
Autonomous World上のインターオペラビリティ
ユーザーエクスペリエンス向上のための自由な開発
一つずつ見ていこう。
新しいゲームジャンル: メタゲーム
メタゲームとは、私が勝手にそう呼んでいるだけだが、盤上ではない外の世界で行われているゲームである。イメージとしては、現実の政治などが分かりやすいだろうか。仮想通貨民ならばCurve Warが最もイメージしやすい。仮想通貨民でなくとも非常に面白い歴史的事件だったので、以下の記事を読むことを勧める。
メタゲームは世界の「ルール」についてのゲームであり、具体的には以下のような状態のゲームである。(以下、「ルール」はこれまでの「ロジック」と読み替えても良い。)
確固たる「ルール」が規定されている。
「ルール」の範囲であれば何をしても良い。
「ルール」に則っているのであれば「ルール」の変更も可能。
このような「ルール」を新しく決めたり、「ルール」の中で最も自分が利益を得られるような戦術を考えたりするゲームである。
考えてみれば、これまでの世界の歴史はこのメタゲームの連続であった。その時々に「ルール」を定める支配的な団体があり、その中でより効果的に立ち回るものであったり、自分たちに有利な新しい「ルール」を作ったものが勝者であった。
筆者としては史上最高峰に面白く最高の頭脳ゲームだと思うのだが、現行の政治でもわかるように、情報に自由にアクセスできなかったり、生まれや身分の差から非常に限られた人に対してのみに与えられた遊びであった。Autonomous Worldはこれを解決する。Autonomous World上で行われるメタゲームは「ルール」が完全に公開され参加も自由である。
具体例としてはOPCraftがある。OPCraftとはフルオンチェーン版のマインクラフトであり、完全ではないが一種のAutonomous Worldである。
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実施されたのはテストのみであるためプレイできたのは2週間のみであった。
マインクラフトの採掘やブロックの設置などについての「ルール」が規定された。また、加えて(ブロックチェーンの処理の問題から)ブロックのアクセス権であったり、通貨としての役割を持つダイアモンドについての「ルール」も規定された。
2週間後何が起きたか。結論から述べると共和国が建国された。あるプレイヤーが「ルール」をハックし、ダイアモンドを大量に集め、それを元手に国家を作った。また、共和国に属するための「追加ルール」も提案し、追加された。詳しくは次の記事を参照されたい。
この出来事に対して否定的な人もいるだろが、筆者は肯定的である。なぜなら、ハックされうる「ルール」はいずれはハックされるのであり、欠陥がある世界にとってはあるべき姿であるからだ。また良し悪しは置いといて、ハードフォークという奥の手もある。
このように完全に透明な「ルール」をベースにそれのハックと新しい「ルール」の策定を繰り返しながら、皆んなで非中央主権的な仮想世界を作っていけるのがAutonomous Worldなのだ。
コミュニティによるコンポーザビリティ
これに関しては全く新しいというわけではない。例えば、マインクラフトはMODと呼ばれる拡張機能が大量に作成され、コミュニティによって広く遊ばれている。しかし、このような体験は極一部のゲームに限られている。
Autonomous Worldでは、世界の「ルール」に従う限り、自由な拡張が可能である。
先ほどのOPCraftの例を引き続き用いる。OPCraft2というOPCraftの拡張版は、コミュニティによるブロックの作成を可能にしている。運営によるコンテンツの作成は有限であるが、コミュニティによるコンテンツの作成は無限大だ。コミュニティは世界の「ルール」に従う限り、OPCraftにおけるブロックなどのコンテンツを作成することができる。
これは、ECSという既存のオブジェクト指向とは別の構成を採用することによって可能になっている。詳しくはでりおてんちょーさんの次の記事を参照されたい。
英語になってしまうが、この概念について詳しく掘り下げた記事があるので参照することをお勧めする。
Autonomous World上のインターオペラビリティ
Autonomous Worldは全てのステートがオンチェーンで共有されている。つまり、デフォルトで共通の規格を持っており、一つのAutonomous World内で相互にやり取りを行いやすい。
私のプロジェクトを紹介する。PixeLAWというプロジェクトを作っており、ETH Global Hackathon at Parisでstarknetから1st prizeを頂いた。表面的な話をすれば、ピクセルアートゲームのAutonomous Worldである。しかし、本質的には「ルールのためのルール」と、「コンポーネントを自由に付与できる座標のみ」が規定されているprimitiveなAutonomous Worldを目指している。詳しくは記事を書く予定だ。
Got 1st prize from @Starknet at @ETHGlobal Paris Hackathon✨
— syora (@0xsyora) July 23, 2023
Thanks to all the team. (@jwaitforitk_eth @fntupas and Casper)
Let me tell more about our project: PixeLAW👇 pic.twitter.com/5j7j099Wal
PixeLAWでは初期のコンポーネントとしてRGB値を与えることを考えている。ユーザーはそれを単純に色とみなしてピクセルアートを楽しんでもいいし、ある色を何か別の情報とみなしてゲームを作成しても良い。
例えば、緑色をヘビゲームにおける蛇として作成し、赤、青、黄色をそれぞれじゃんけんの手として考えて作っても良い。蛇ゲームとじゃんけんの情報は同じ数値のコンポーネントを使用しているのでそれらが相互作用する。
蛇ゲームに親しみがない人は以下からプレイが可能だ。
つまり、蛇がグーのマスにぶつかったらゲームオーバーで、チョキのマスにぶつかったら蛇が短くなり、パーのマスであれば長くなるなどが考えられる。
これらはまだ試作段階であるが、あまり複雑になりすぎないように相互作用するかしないかを選択できるようにする予定だ。もし、面白いアイデアがあれば是非教えて欲しい。
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ユーザーエクスペリエンス向上のための自由な開発
Autonomous Worldの本質としては「ロジック」と「ステート」であり、それらは無機質なものである。言い換えてしまえば見た目を司るフロントエンドの部分は規定されていないということだ。つまり、見た目や使い勝手はユーザーが自由に作成することができる。
次に紹介する例はAutonomous Worldではないが、Nouns DAOによる素晴らしい試みである。本来であればそこまで面白いものではないガバナンスに関わる投票をゲーム画面にしている。これによって、ユーザーエクスペリエンスの大幅な向上が望まれる。
Autonomous Worldではこういったものに関する「ルール」が無いため、ユーザーが自由に作成できるのだ。
Let’s Play Nouns DAO! pic.twitter.com/725FTeHRe5
— nounish ⌐◨-◨ (@nounish) July 8, 2023
最後に
まとめると、Autonomous Worldはフルオンチェーンゲームの概念が拡張されたもので、全ての「ロジック」と「ステート」がブロックチェーン上にある。それによって、永続性や非中央集権性などの性質を得るとともに、様々な新しい体験が可能になる。かなり新しい概念となっており、技術が追いついていない部分も多々あるが、それでも非常に興味深い分野であることは間違いない。
筆者はAutonomous Worldの文脈でPixeLAWというプロジェクトをビルドしている。是非プロジェクトのTwitter(@0xPixeLAW)と筆者のTwitter(@syora_jp)をフォローしてくれたら嬉しい。
また、既存のweb2ゲームのビルダーが是非Autonomous Worldでビルドして欲しいと願っているし、多くの人がAutonomous Worldのプレイヤーになることを望んでいる。