変動金利型のNFTレンディングプロトコル Paprについて
※この記事は2023年の3/18に公開されたものです
どうもこんにちは、Gussanです。
今回は変動金利型のNFTレンディングプロトコルPaprについて書いていきます。面白そうなので書いてみましたが、少し仕組みが複雑なので、間違え等あったらご指摘ください。
本記事はプロダクトの紹介記事であり、投資を助言・推奨するものではありません。
Paprの概要
Paprは元Coinbaseのエンジニアが立ち上げたNFTのレンディングプラットフォームです。さらに2023年の2月にCoinbase Venturesから300万ドルの資金調達を行っています。ちなみに、Paprでペーパーと読み、由来はPerpetual Annual Percentage Rateを略したものになります。
当初、PaprはCoinbaseの「10% Project」と呼ばれる、自分の時間の10%を使って自分のアイデアに取り組むという社内制度から生まれたもので、2020年の4月に構想が生まれました。この時点では、NFTFi領域はさらに黎明期で革新的なプロダクトでしたが、最初のプロダクトが完成した時点で他のレンディングプロダクトが出てきてしまったそうです。
多くのNFTレンディングプロトコルと違う点として、プロトコル全体で共通したトークンを介することでトークンの価格変動によって実質的な変動金利を実現したレンディングプラットフォームとなっている点です。
また、Paprは既にBackedという別のNFTレンディングプラットフォームもローンチ済みでBackedはPaprのチーム名でもあります。
WhitePaper:
NFTレンディングの前提知識
NFTのレンディングプロトコルというのは、NFTを担保としてFTを借り入れる仕組みのことで、レンディングのプロセスにも主にPeer to Peer方式(例:nftfi.com)とPeer to Pool方式(例:Bend DAO)の2つの方式があります。
Peer to Peer方式:債権者と債務者の合意のもと融資が決まります。債務者は担保としてNFTをコントラクトにロックし、債権者はFTを貸して債務不履行が起こった場合、ロックされたNFTを受け取ることができます。
Peer to Pool方式:債務者は、NFTをコントラクトにロックすることで融資を即座に受けることができ、債権者はFTをコントラクトにプールすることで融資に伴う利子を受け取ることができます。
今回のPaprは後者のPeer to Pool方式にあたります。
FTを貸し付ける際に、NFTを担保にすることで返済されなかった際の、補償をしていますが、Peer to Poolの場合、多くの場合はその清算ラインをNFTのFloor Priceで設けていたりします。Paprもそのうちの一つです。もちろん大体のプロトコルでは清算リスクに備えて、そのままFloor Priceを採用するのではなく、継続的なFloor Priceのデータ群に対して処理を施し、その値が異常値ではないかなどの検証を行なっています。
NFTFiにおいて(もちろんそれ以外の〇〇Fi全般)、このNFTの価格が非常に重要になっており、流動性の低いNFTでは、特にオラクルの脆弱性が大きいと筆者は考えています。
前回の記事で触れたnftperpは、NFTの先物取引のプロトコルなので、オラクル周りはかなり整備されているようです。
また、「流動性が低い」と先述しましたが、昨年、登場したBlurがトレーダー向けのNFTマーケットプレイスということで注目を集め、NFTFiへの流動性の高まりとオラクルの強化に期待が集まっています。
少し脱線しますが、NFTの流動性を考える中で別軸の課題として、これまでのクリエイターの収益として期待されていたロイヤリティの扱いを巡るOpenSeaとBlurのマーケットプレイス戦争などについても記事を書いてますので是非読んでいただけると幸いです。
Paprのモチベーション
現在のPeer to Pool方式のNFTのレンディングは一部のアセットしか担保に出すことができないと指摘しています。担保性能を満たすには、以下のものが十分にあることが条件となります。
市場操作に対する抵抗力がある取引量
現物価格付近で大量の担保を清算出来る流動性
つまり、流動性が低いことがネックに、比較的簡単にオラクルを操作できてしまうという脆弱性や大量の生産が起こると担保の価格が大きく変動してしまうという不安定性に課題があるということになります。
2022年8月ごろに起こったPeer to Pool型のNFTレンディングプロトコル Bend DAOでのBAYCの大量清算はこの状況を顕著に表しています。
https://thedefiant.io/bayc-liquidation-benddao
先程の条件を満たすようなNFTの数は10種類未満に限られている一方で、Peer to Peer方式によるNFTレンディングは200種類以上のコレクションに対応しています。このことからユーザーのNFTレンディングへの市場ニーズは高いことがわかります。PaprはNFTの市場において、流動性不足に強いPeer to Poolのレンディングを実現しようとしています。
Paprの仕組み
PaprはEthereumメインネットで稼働しており、プロトコル全体の共通のトークン$PAPRを用いて融資を行うレンディングプラットフォームです。トークンの返済についても$PAPRを用いて行う必要があり、その時の$PAPRの需要と供給に応じて価格が変動するため、変動金利のようなモデルを実現しています。
ちなみにホワイトペーパーにはNFTの担保はCrptoPunksしか担保にできないとありますが、2023年3月18日時点では、以下のようなNFTが担保に出されており、CryptoPunksに限られていません。
借入を行う場合、以下の式をもとに、$PAPRの借入を実行します。返済は同額の$PAPRを回収することが必要になります。
(融資限度額)=(LTV)*(担保評価額)/(ターゲット価格)
LTV(担保評価額に対して借入できる割合):50%
担保評価額:コレクションの過去30日分のOpenseaでの取引の平均フロアプライス
ターゲット価格:Paprプロトコル内での$PAPRの価値(後ほど説明)
逆に、貸付を行う場合、自分のトークンと$PAPRをUniswap V3でスワップするだけでETHを金利を獲得することができます。
ターゲット価格についての補足
まず、$PAPRにはターゲット価格とマーク価格の2つのトークン価格が存在しています。
ターゲット価格:Paprプロトコルの需要を感知して$PAPRに価値換算したもの。金利が変更されると、価格が変更する。
マーク価格:Uniswap V3での$PAPRの価格を表すもの。おそらくMarket価格の意味なのでマーケが正しいかもですがMarkとあるので「マーク」と読むことにします。
基本的に(ターゲット価格)>(マーク価格)となるように設計されており、この状態で、金利の変動が起こるとターゲット価格は上昇する仕組みになっています。稀に、(ターゲット価格)<(マーク価格)となる場合があり、これは貸し手側の供給量が過剰になったことを示しており、貸し手にとってはマイナス金利になってしまいます。
実際の価格推移を見てみましょう。左はターゲット価格を表しており、右はマーク価格を示していますが、マーク価格が急騰すると、(ターゲット価格)<(マーク価格)となり、ターゲット価格が急落することにつながります。
これまでの内容から具体的な例を考えてみましょう
モデルを実現させるフィードバックループ
金利と価格は、一定のフィードバックループの関係にあり、以下のようなフィードバックループにあります。まず、$PAPRの貸し手を集めて、金利を下げて、融資が発生しやすいところから始まります。
図の左側のループ:
金利が低ければ、借入を行うことにインセンティブが発生します。
借り手は$PAPRをより多く借り入れて、ミントし売却します。
$PAPRの価格(マーク価格)は下落します。
マーク価格が下落すると、ターゲット価格と大きく乖離し、$PAPRの回収コストが大きくなるので、高金利に繋がります。(右側のループに)
図の右側のループ:
金利が高ければ、借入の精算が早まります。
借り手は$PAPRを買い集めて、返済を行おうとします。
$PAPRの価格は上昇します。
マーク価格がターゲット価格に近づくと、$PAPRの回収コストが小さくなるので、低金利に繋がります。(左側のループに)
というものです。
金利については、ターゲット価格とマーク価格に加えて金利請求からの経過時間から計算されます。経過時間が長くなれば、貸し手へのAPRを高め、貸し手に対するインセンティブが働くように設計されており、貸し手が集まることで、また低金利に戻るようなサイクルに移ります。
この辺りの金利計算についてはSqueethを参考にしているそうです。
清算について
担保の清算は、NFT Exponential Dutch Auction(指数関数的な減衰ダッチオークション)により、担保の売却が行われます。担保の売却には$PAPRが用いられます。
清算された際の$PAPRは負債額以上の過剰分は、清算手数料、プロトコルへの保険基金、残りは借り手の元に渡るようになっています。清算人は10%の割引を得た状態でオークションを開始することができます。
リスクについて
Paprを使用する上で発生しうるリスクは、以下の通りです。もちろん以下のものに限りません。
トークンの価格変動リスク
ターゲット価格はマーク価格を上回り、金利は上昇するように設計されていますが、例外的にマーク価格が上回る場合もあります。これは、貸し手にとってはマイナス金利になるため、損失を被る場合があります。
Paprがマーケットプレイスでの売却よりも良い流動性を提供する可能性
PaprはNFTをロックすることでNFTのフロアプライスの50%分までを借り入れることができるため、NFT の売却による流動性は低さを要因として、故意にNFTを清算する借り手が出る可能性があります。
担保の流動性が低く、清算が重なると清算不足になる可能性
担保清算が大量に発生した際に、NFTの買い手が見つからず、(LTV)*(担保評価額)の調達を行えない可能性があります。
最後に
NFTFi領域でPeer to Pool型のレンディングを実現しようとしているPaprについてまとめてきました。Paprは、レンディングの需要に感応したトークンを介したレンディングを構築しており、これまでにないようなNFTレンディングではないかと思います。
なかなか複雑な仕組みではあるので、FounderのWilsonに何度も質問をしていました。
Thank you, Wilson!
また、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
Twitter:Gussan
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