【オンチェーン分析】『エアドロ』はどのように機能しているのか(L2チェーン編)
こんにちは、ぐっさんです。
今日は前から少し気になっていたWeb3独自のユーザー獲得方法である「エアドロ」についての記事です。
エアドロはWeb3特有のマーケ手法で、初期ユーザーへのインセンティブとして自社のトークンを分配することで、ネットワーク効果におけるコールドスタート問題を解決するような手法として有効とされています。
また、バンパイアアタックのようにユーザーを競合サービスから自サービスに引きつけるインセンティブとしても機能させることができます。
しかし、エアドロのような金銭的なインセンティブは、ユーザーを動かす原動力になる一方で、エアドロが終了してしまうことでユーザーのリテンションが下がってしまうことや、ユーザーが離脱してしまうことに対する問題も上がっています。
先日こんなStarknetのDAUについて下記のようなツイートが出回ってました。ツイートの内容は、Starknetのアクティブユーザが2024年4月6日時点で8人であるというものでした。
結論からいうと、このツイートは間違っていて、上記のツイートで示しているものはStarknetへのブリッジをしたユーザーでStarknetのアクティブユーザーを示しているというのは誤報でした。(Starknet-daily-transactions-and-usersはタイトルとして適切でないですね…)
一応、Explorerを見ればすぐ確認できますが、1日あたりStarknetは15,000のアカウントが動いていますし、100,000近く以上のトランザクションが動いています。
そんな中で、多く散見されたのが、「$STARKのエアドロが終わったからユーザーが離れてしまった」的なツイートでした。
今回はこの真偽を確かめるべく、エアドロが実際にどのように機能しているのかをオンチェーン分析を通して調べていきたいと思います。
エアドロの意味と種類について
エアドロはWeb3のユーザーの獲得方法として代表的なものです。エアドロはユーザーを動かすインセンティブとして機能しますが、配布するタイミングや諸条件によってエアドロそのものの意味が変わってきます。
思いつくものでもエアドロップの意図は3つあります。
エアドロへの期待によるブートストラップ
分散化に向けたコントリビュータへの還元
ユーザー奪取の為のバンパイアアタック
一度のエアドロに対して必ずしも一つの意味しか持たないわけではなく、複合的に作用することがほとんどです。つまり、ブートストップ的に作用するだけでなく、バンパイアアタックにもなっているし、コントリビュータへの還元を狙いながら元々どこかしらのリークでエアドロ臭が漂ってたからブートストラップにもなってる、なんてことがほとんどということです。
1の代表的なもので言えば、今のBlurやBlastがやっているものが一つの例です。ポイントを導入するというのはこのエアドロ匂わせ行為で、わかりやすくユーザーはトランザクションを刻んでいきます。初期のコールドスタートを解決する方法としてのエアドロは、1に該当します。
2は、Uniswapの$UNIやOptimismの$OPなどがイメージにあります。UNIはUniswapのガバナンストークンで、初期ユーザーやコントリビューターに分配されていきます。これらのエアドロの多くはガバナンストークンで、プロトコルやdAppsをコミュニティ主導のものにする、分散化を狙うという意図があるエアドロは2に該当します。
3は、X2Y2の$X2Y2やSushiSwapの$SUSHIなどがあたります。OpenseaやUniswapを使うよりも高いAPYを提供することで、ユーザーのサービス移行にインセンティブをつけることが狙いです。$X2Y2はOpenseaのユーザーを、$SUSHIはUniswapのユーザーを奪取する目的があり、こういったものが3に該当します。
また、エアドロのタイプは目的だけでなく、発行体にも種類があります。
チェーン系のエアドロ(Optimism、Arbitrum、Starknet etc)
インフラ系のエアドロ(The Graph、Eigen Layer etc)
dApps系のエアドロ(Uniswap、Sushiswap、LooksRare etc)
他にもApe coinみたいなIPが発行する系もありますが、一旦は上記にとどめます。
エアドロの目的から逆算した「見るべき数字」
今回の記事ではエアドロがどのようにサービスに対して機能しているかを見たいので、先ほどの意味をもとに追うべき数字を考えたいと思います。
先述した通りエアドロには大きく以下の3つの意味があると考えています。
エアドロへの期待によるブートストラップ
分散化に向けたコントリビュータへの還元
ユーザー奪取の為のバンパイアアタック
これらの意味ごとに見るべき指標を検討していきます。
エアドロへの期待によるブートストラップ
ブートストラップを起こすというのは、ネットワーク効果におけるコールドスタート問題を解消することですので、そのサービスにネットワーク効果があるということが前提になります。
見るべき指標はそのサービスがどの数字によってサービスの効用を最大化しているかに依存します。
例えばDEXは、流動性供給(Liquidity Provideを略して以下LP)するトークンのペアが増加すればするほどスリッページは減るので、「LPのトークン量」が重要になりそうです。一方で、スワップするボリュームがなければトークンをLPするインセンティブが生まれないので「Swapするトークン量」も重要そうです。
分散化に向けたコントリビュータへの還元
分散化に向けたコントリビュータへの還元は、目的は分散化なので、トークンホルダーの偏在度合いをみれば良さそうです。ただ、コントリビュータがそのままプロトコルのステークホルダーになってほしいというプロトコル側の意向はありそうなので、同時に、エアドロ受け取ったユーザーがどの程度保有を維持しているのか、あるいはコントリビューションを維持しているか(ユーザーで居続けているのか)というのも見る必要があります。
ユーザー奪取の為のバンパイアアタック
ユーザー奪取の為のバンパイアアタックは、競合サービスからユーザーを奪取すること、引いては顕在化したサービスニーズをもとに自社サービスに転換させることが目的になります。ですので、同時期の競合サービスのトラクションの推移を比較したものを見るのが良さそうです。
また、ユーザーを奪取してもユーザーのリテンションが悪くなってしまえば意味がないので目的は真に達成できてないのでエアドロ後のユーザーの継続率も見る必要がありあます。
事例リサーチ
ここから具体的にエアドロの事例を取り上げながら数字を見ていきたいと思います。エアドロなんて正直腐るほどあるので、前半ではL2チェーンのOptimismとArbitrumを取り上げていきます。また、今回は主に「エアドロへの期待によるブートストラップ」がどのように機能しているかを見ていきます。
L2チェーン#1 Optimism
$OPに関する概要
メインネットスタート:2021/09/21
トークンローンチ:2022/06/01
トークン上場:2022/06/01
エアドロップ:
#1:2022/5/31
#2:2023/2/10
#3:2023/9/20
#4:2024/2/21
token_address:0x4200000000000000000000000000000000000042
獲得条件(1回目)
OPメインネットでの複数のトランザクション
Ethereumガバナンスへの参加
10取引以上したマルチシグの署名ユーザー
Gitcoinの寄付者 など
Optimismのトラクション推移
下図のグラフでは青いエリアがエアドロで$OPトークンを受け取ったユーザーのトランザクション数、灰色が全体のトランザクション数を示しています。
エアドロ直後にトランザクションの数が増加していますが、これはエアドロの影響だけではなくOP Questという別のキャンペーンの数字の影響も予想されます。
さらに、以下の図では全体のtxの推移に加えて、$OPのエアドロを受け取ったユーザーが起こしたトランザクションの割合を示しています。
また、下図のグラフではオレンジの線が$OPトークンを受け取ったユーザーの中でトランザクションを起こしたユーザー推移、ピンクの線が全体のユーザー推移を示しています。
$OPは一度のエアドロではなく何度かに分けてエアドロが行われるという性質があったのか、エアドロ終了後もユーザーの利用は継続している印象です。エアドロ終了後にもトランザクション、ユーザー数ともに堅調な伸びを見せています。
ブロックチェーンのネットワーク効果は、エコシステムにアプリケーションが増加し、ネットワークの効用が高まり、ユーザが増加するというフィードバックループにより成立しているので、エアドロ後にもトランザクションが伸びているという点で、ブートストラップとしての$OPのエアドロは機能していると言えそうです。
L2チェーン#2 Arbitrum
$ARBに関する概要
メインネットスタート:2021/09/01
トークンローンチ:2023/3/23
トークン上場:2023/3/24
エアドロップ:
#1:2023/04/26
token_address:0x912CE59144191C1204E64559FE8253a0e49E6548
獲得条件:
Arbitrumへの資金ブリッジ
Arbitrum上のスマコンとのやりとり
一定期間、Arbitrumを利用していること
一定額を超える取引量
Arbitrumのトラクション推移
先ほど同様、下図のグラフで、Arbitrum上で起こったトランザクション数の推移を示しており、灰色は全体のトランザクション数、青はエアドロを受け取ったユーザーのトランザクション数になります。
Optimismはエアドロ直後にOP Questをスタートさせたことで右肩上がりの伸びを見せているのに対して、Arbitrumはトークン上場 / エアドロの以降に全体においてもエアドロユーザーにおいてもトランザクションは一時的に右肩下がりになります。
$ARBエアドロユーザーによるトランザクション発生率の推移は以下のとおりです。$OPと大きく違う点として、Nitroアップデートを経たタイミングでトランザクションが増加しており、同時期にエアドロユーザーの比率は大きく下がっています。$OPのエアドロが実施されるまでのトランザクションの8割がエアドロユーザーだった$OPに対して$ARBのエアドロは全体の2割近くに留まっています。
ユーザー数の推移も載せておきます。Arbitrumも直近でユーザー数を右肩上がりに伸ばしてきています。
OptimismとArbitrumの比較
ここまでOptimismとArbitrumの数字を見てきましたが、
2つの違いをおおまかにまとめると以下のようになります。
優劣というわけではありませんが、OptimismとArbitrumをエコシステムとして比較するとTVLはArbitrumの方が大きなエコシステムを築けているというのが現状です。
トークンのローンチ時期が$OPはメインネットを稼働してから1年満たずで実施、$ARBはメインネットが稼働してから約1年半で実施と時期的な違いもあり、エアドロ時点で既に8割近くのライトユーザー(エアドロを受け取っていないユーザー)がついていたARBはエコシステムを丁寧に育ててきているという印象があります。(Optimismが丁寧ではないとかそういうことではないです)
Arbitrumのトラクションのグラフを見ると、Arbitrumの転換点はエアドロではなく、Nitroアップデートのように見え、ArbitrumのL2としてのクオリティが高いことにもかなり依存していそうです。そういう意味ではエアドロ後に如実なトラクションの伸びが見えないことからもArbitrumはブートストラップでのエアドロには失敗しているとも言えそうですが、Arbitrumは分散化を意識しているエアドロなのでタイミング的にもブートストラップは狙いにないかもしれません。
一方でOptimismは、複数回のエアドロや初期段階からのエアドロでブートストップとしてのエアドロをうまく駆使してトラクションを作っているように見えます。Arbitrumには規模では劣りますが、エアドロが終了した今でも着実にトラクションを伸ばしているので、エアドロ施策が成功しているといえるでしょう。
思ったより長いので後半に続く
GW中に書き切ろうと思っていたんですが、記事を書いてるうちにどんどん書くことが増えてしまったので、これを前半部分として一旦切り上げます。
次回はUniswapとかSushiSwapやLooksRareなどのバンパイアアタック系のエアドロについてまとめて行こうかと思っています。
今回記事内に掲載している図版は下記のダッシュボードにまとめております。
Verification of Airdrop's Utility
https://dune.com/gussan_0214/verification-of-airdrops-utility
Twitter:0xguss3
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