四角四面
だめだ。
また、リズムがずれてしまった。
2か月前、友人達がバンドを組むからとメンバーに誘われた。
とはいえ、これまで特に楽器をやって来たわけでもない。
私に楽器なんか出来るかどうかもわからない。
「私、楽器やった事ないんだけど?」
迷っていたところ、暫定メンバーとしてならどうか、と提案された。
兄が一時期バンドでドラムをしていた事もあって、家にはドラムがあった。
兄がバンドを辞めて、叩く人もいなくなったそのドラムを叩いて遊んでいたのもあり、演奏楽器はドラムを選んだ。
「懐かしいなぁ~」
日曜の朝、私がドラムを叩いていると、もう社会人の兄が声をかけてきた。
「教えてあげようか?」
「やった~~!」
すぐに歓喜の声は嘆願に替わった。
「兄さん、す、少し休ませてください・・・」
「ばかやろう!!
こんな事で挫けてどうする!
リズム感を養うには、まずは・・・」
どうやら、兄のいらないスイッチが入ったらしい・・・。
へるぷみー!!
なんてコトも時折ありながらも
毎日、かなりの時間をドラムの練習に割いていた。
動画を見て研究もしている。
常に頭の中はドラムの事でいっぱいだ。
楽譜を覚えるのも一苦労。
でも、それもこれも兄があれこれ教えてくれた。
今から5年くらい前、兄が大学生になってからなんとなく広がっていた距離が、違う場所、次元に変わったのかな、と感じられた時があった。
それ以前から感じていた、兄という人格への親愛や無条件の愛情が少しづつ変化していたのが、そこから線引きされたように違う感覚が徐々に襲って来た。
きっとこれが、思春期ってやつだ。
知りもしないくせに、なんとなくそう定義した。
友人のバンドには、他にも初心者だけどドラムでの加入を希望している人がいるようだ。
バンドに2人もドラムは必要なにのでは?
「たった5人のバンドに、ドラム2台ってバランス悪くない?」
素直に疑問に思って、友人に聞いてみた。
「うん、良くはないね。
どっちかが、ドラム以外の楽器やって欲しいけど、どうしようか?」
他の人との意見もあって、1か月後どちらがドラムをやるか課題曲を決めて、演奏を比べてみようかという事になった。
その夜、帰宅した兄にその話をした。
「まぁ、やれるだけやってみろ」
と言いながら、私の頭をグリグリと撫でた。
ぷー、と膨れたりしたけれど、開いていたと思っていた兄との間が繋がっていたのを感じて嬉しく思った。
「あんたの妹、最強だって言わせちゃる!」
「バンドはいいぞ、特にドラム、いいよな。
けど、皆で作る音がいいんだ。
それが感じられるなら、楽器なんかなんでもいいんだ」
そう言って、兄はまたグリグリと私の頭を撫でた。
今日は、どちらがドラムの正式メンバーとなるか、審査の日。
先に演奏するのは私だ。
ほとんど失敗せず、譜面通りに演奏出来たと思う。
自分なりに、完璧というか及第点だろうと感じた。
少しだけ、自分が選ばれる自信があった。
次はもう一人の候補者。
ところどころテンポがずれていたり、間違えたり。
でも、顔をほころばせ、見るからに楽しそうにドラムを叩いている。
聞いているとワクワクしてくる、勝手に体がリズムに乗って来る、そんな演奏だった。
体の中の血がどこかへ流れていく感じがした。
体温が下がり続け、このまま凍ってしまうのではないかと思った。
自分のドラムが稚拙に感じた。
稚拙どころか、音楽ですらないと感じた。
才能?
感性?
モチベーション?
私が頑張って磨いて来た技術や正確さなんて、AIのほうがずっと上手いに決まっている。
自分は才能がないどころか、音楽に向いてないんだろうな、とも感じだ。
もう一人の演奏も終わり、どちらをドラムにするか、という選別になる前に私はドラムを辞退すると告げた。
自分より、もう一人の候補者のほうが、ドラムにふさわしい。
こんなに、楽しんで演奏できるのだから、今後どんどん成長していくだろう。
自分の演奏は譜面通りで正確ではあるけれど、四角四面で面白味も楽しさも感じさせなかっただろう。
マメだらけの指を見ながら、そう告げた。
そんな私の手を、友人の一人がそっと握った。
「こんなにマメだらけになるまで頑張れたって、音楽嫌いじゃないよね?
だったら、ボーカルしない?
てか、もともとボーカルが良いなって思ってたんだけど」
他の友人達も、その意見に賛成しているようだった。
音楽センスがない私なのに。
「私、音楽センスがないみたいだけど?」
「この短期間で譜面通りにリズム取れるって、センスないわけないじゃない?」
家に帰って兄にその話を伝えた。
「俺もお前はボーカルに向いてると思う
そうだ、この曲」
そう言って、スマホを私に見せた。
「この人、ドラム叩きながら歌ってるんだ!
へぇ~~。
なんだか心地よい声だね」
「お前がドラム始めた時、こんな風になるのかなって思った。
このピアノ弾いている人が兄で、妹のために作曲や編曲してたらしいよ。
俺じゃ、そんな事は出来ないけれど、バンドとは関係なくドラム続けて見なよ。
そのリズムキープ力と歌声、第二の彼女になれるかもしれない」
「買いかぶりすぎだって!
こんのっシスコンめ!」
肘で兄のお腹をグリグリした。
兄は笑って、私の頭を手でグリグリして来た。
⭐女帝⭐(左側)
受容・繁栄・居心地の良さ・豊かな愛情・母性・包容力・優しさ・思いやり・美しさ・穏やか・安らぎ・物質的な豊かさ・成功のチャンス・素直・安定・余裕・リラックス・平和・充実
ここから、何かを作る事を主軸にしよう、と考えました。
最初にインスタにUPした時は、兄は出てきていません。
メンバーを決めるための戦い、みたいなお話でした。
今回、書き直しで兄の存在と関係性を入れて見ました。
お話には入れていませんが、カレンとリチャードの関係が兄妹の枠を超えていた、なんていうゴシップ?もあった事を思い出しました。
⭐ペンタクル4⭐(右側)
経済的基盤・守り・所有・安定
このカードが出ると
「世の中ゼニや!ゼニやでぇ!」
と、心の中で声がします🤣
とはいえ、今回は女帝様が
「クリエイティブな事にしなさい!」と圧をかけてきたので、4つのコインをドラムに見立てて見ました。
女帝は、占星術に対応させると金星です。
ワクワクや好き❤担当の惑星です。
金運なんかも金星さんの担当部署です。
ペンタクル4は、占星術的には山羊座第三デカンです。
テッペン目指す努力と、細部にこだわる緻密さを持ち合わせています。
必要以上に頑張れちゃうんでしょう。
この後のカードが、何もかも失くした窮地のカード、ペンタクル5です。
そのひとつ前、ここでの対応で次がどうなるか決まってしまうという、安定なハズなのに危うい。
そこから、タイトルの「四角四面」に含ませてみました。
四角だからって、安定とは限らない、と。