「 サンタクロース」
あの子はどこから来たのだろう?
うちには怪獣がいる。
この怪獣はいっつも泣いてて、うんちしてて、ミルクの甘い匂いと同じくらいに酸っぱい匂いがした。
「おかあちゃん!また、せいたんが大声出してるよ!・・・・。また、げっぷした!臭い臭い!!!」
この子はいっつも、口から白い物を出している。
「怪獣なんだ」と私は思っていた。
いつからだろう?
気が付いたら怪獣は増えていた。
「おねーー!」
怪獣2号は何故か私になついていた。
ていうか、いつの間にか私は怪獣2号の便利屋と化していたのかもしれない。
何かとこいつはめんどくさい怪獣だった。
怪獣1号は私と気性が合わないからなのか、さっさと私には関わらなくなった。
怪獣1号は怪獣2号と親密になり私とは関わらなくても良い、と思ったかもしれない。
怪獣1号と2号は1年2週間の年の差だったせいなのか、双子みたいに周りに認識されていた。
でも・・・・・。
一体、いつから怪獣2号はこの家にいるのだろう??
私には全く怪獣2号が家に来たという記憶がないのだ・・・・・・・・・。
怪獣2号は、怪獣1号がすることにことごとく反発した。
獣1号が、「まっち」を好きだと言えば2号は「としちゃん」最高!と言い、1号が「じゅんこちゃんがいい!」と言えば2号は「ももえちゃんが一番!」と言っていた。
それでも、二匹は仲良しだった。
怪獣同士、心が通じていたのかもしれない。
怪獣2号が私が住んでいる町の専門学校へ行くので、私と一緒に住むようにと母から連絡があった。
怪獣2号がこちらの学校へ入る条件が、私の監視下にある事だった。
まぁ、怪獣だしね、仕方ないさ。
怪獣1号は一見して上手くこの世に適合しそつなく過ごしていた。
けど、2号はどうも上手く行っていない感じがした。
とはいえ、私も怪獣2号に助言する言葉などなかった。
なんせ私は宇宙人。
詳しい事は言えないがNGC7293(らせん状星雲)に所属する星から来た。
でも、地球を救うとかなんていう使命なんかなく、特に目的もなく地球上をプラプラしてた。
私も自分が宇宙人だという事をすっかり忘れていて、でも怪獣1号、2号と過ごしているうちに気が付いた。
怪獣も宇宙人も、この世界にかなり浸透していた。
だけれど、私達宇宙人は怪獣には大きく差をつけられていた。
私達宇宙人より、怪獣達のほうが圧倒的に人間には魅力的に思えるからだ。
彼らは、人の心を掴むのが上手かった。
いわゆる「モテる」タイプなのだ。
怪獣たちは、お互い競い合って自分達の「モテ」を磨いている様だった。
でも、それは異性には上手く働いていても、同性には反感を買う事が多いようだった。
人間たちは、私達宇宙人や怪獣を察知する力があるのだろう、と思う。
いわゆる「異分子」というやつだ。
私は自分が異分子だという事には早々と気が付いていた。
だが、怪獣2号は自分が怪獣だということに気が付いていないのだろうか?
何故自分は、環境に順応しないのかといつも悩んでいる様だった。
自分が怪獣だと気が付けば楽なのにな、なんて私は思ってた。
怪獣2号が世の中に受け入れられないのを目の当たりにしながらも、私には憤り以上にどうしたらいいのか、思いつかなかった。
希望に溢れて行った専門学校の先生には、排他的な扱いをされ異分子という扱いをされたせいで、学校へ行けなくなった時には、私は声を荒げた。
なんて、視野の狭い学校なんだ!とも思った。
でも、普通の人間には、怪獣や宇宙人は脅威なのだ。
排他するしか、対処の方法はない。
そんな逆境の中、怪獣2号は、いくつかの賞を取り無事学園を卒業した。
「おねぇ。行ってくるね」
「ん。事故には気を付けろ。折角アリバイ作って、女友達と旅行行くって嘘ついていくんだろ?事故たら彼氏と行ったのバレちゃうだろ?」
「だよね~~。本当、私も自動車免許取ってれば良かったのになぁ」
「そっちの方が怖いってw」
なんて会話が最後だった。
そろそろ寝るか~~、なんて思いつつ復活の呪文をメモッていたその時、電話が鳴った。
怪獣2号は、この世界に見切りをつけた。
それからしばらくして、両親が亡くなった。
その年のクリスマス、怪獣1号は結婚するという相手を連れて来た。
あぁ、これはダメな奴だ、と私は直感した。
それでも、怪獣1号の親代わりとして、結婚相手という奴と会話をしてやった。
怪獣1号はご機嫌な様子だった。
レストランのBGMには怪獣1号が好きだった、クリスマスソングが流れている。
怪獣1号が鼻歌を歌っている。
「この曲、あの子が好きだったよね。」
そうだったかな?
30センチLPレコードいっぱいの顔写真のあの方のレコードばっかり聞いていた想い出だけなのだけれど???
なんて思いながらもその曲を聞き入る。
そうだ、これって
「人さらいの曲じゃね?こわ~~」
って私がちゃかした曲だったな。
こいつが連れ去ったのかな?なんて思ったり。
「 サンタクロース」