1冊の本を訳したその先にあるものを探して
【ワークショップ】絵本翻訳ワークショップ/3回連続講座その1
【日時】2024年5月19日 土曜日 13:00-14:30
【参加者】5名
【講師】ふしみみさを(英仏翻訳者)
【場所】埼玉県越谷市 越谷駅徒歩5分 釘清商店2階
3回かけて、1冊の本に向き合ってみる
今回は3回にわたって、1冊の本に向き合う、はじめての試みです。
これまでは、1回の講座で1冊の絵本の訳し、それで完結にしていたのですが、じつは、私が翻訳をする際に、最も時間をかけるのは、「訳を練り上げていく」部分です。
ただ訳すのではなく、
その本の魅力が最も伝わる形に、自分の訳を磨いていく。
普段の講座では、1冊の本を最後まで訳すだけでも、かなり時間がかかるので、なかなか訳を洗練させていくところまではいたれないのですが、今回は徹底的に、ふだん私が仕事でやっているような形で、訳と向き合っていこうと思っています。
教材に選んだのは、カタリーナ・ヴァルクス作
Lisette's Lie
Lisette et le gros mensonge の英訳版です。
ちょうど翌6月に、SOKO802で、カタリーナ・ヴァルクス展があるので、
それに合わせて選んでみました。
わたしもとびきり大好きな作家であり、作品です。
まず初めに、参加してくださるみなさんが、家で訳してきたときに、どう感じたかをお聞きしました。
ここが難しかったとおっしゃるところは、だいたい共通しています。
この本の場合は、導入部分と最後の部分。
とってもよくわかります。
じつは私もそうでした。
「翻訳」という航海の目的地
つぎに、1つの本に向き合うとき、私がどう考えているかをお話しました。
翻訳者という職業は、さまざまな本に携わります。
それぞれの本で、違った個性や、魅力がある。
それを十二分に引き出す文章をつくるのが、腕の見せどころ。
そこを「翻訳」という航海の目的地に定めます。
愉快な本だったら、その本が最も愉快に見える方向に。
心温まる本だったら、読み終わったと思わずほうっとため息がつきたくなるような方向に。
どこか切なさのある絵本だったら、切なさと愛しさを同時に感じられるような方向に。
自分の胸に響いた通りに、訳していきます。
それはただ「上手に訳す」とは別の作業です。
私はカタリーナの本を10冊以上訳しているので、この作家の特徴、「私の思う」魅力(それは訳す人一人ひとり違っていると思います)、カタリーナの本を訳すときに気をつけていることなどをお伝えしました。
私の推敲原稿もお持ちして、どうやって訳を手直ししていくか、その過程もお伝えしていきました。
訳すとは、とびきり深い読書です。
どんなに本が好きな人も、普段の生活で、ここまで深くなぞるように読む事はありません。
頭で読むと言うよりも、もっと身体的なところまで、落としこんでいきます。
それを繰り返し、繰り返し。
こういう作業をすることによって、本を読むことがより楽しくなっていきます。
この3回講座を通して、それを少しでも体験できるきっかけになれたらと願っています。
参加者のみなさんが楽しそうで、顔がパッと輝く瞬間があります。
それを見ると、とても嬉しくなります。
一緒に楽しんでいきましょうね!
(伏見操)
ゆるく、そしてここちよく
ゼロプラスゼロ
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