「産後の恨みは一生の恨み」を分解する
産後の恨みは一生の恨み。
よく聞く言葉だが、「そもそもなんで産後のちょっとの間の振る舞いで一生恨まれるようなことになるのか?」と考える世の男性も少なくないと思う。
どうして産後にだけフォーカスされて恨まれなきゃいけないのか?
どうして産後のことは何十年経ってもネチネチ言われなきゃいけないのか?
と疑問に思う方にとっては、本記事にはヒントになることが書かれている…かもしれない。
産後は極限状態である。
出産の過酷さにフォーカスされた記事やSNSの投稿をよく見るようになってきたので、ここの認知は広がっているのではないかと思う(というかそもそもどう考えても痛そうだし)。
しかし、出産後に関してはどうだろうか。
赤ちゃんがどのように育っていくのかご存知だろうか。
現に2歳児の娘を持つ私も、恥ずかしながら実際に出産をするまで育児の過酷さを知らなかった。
産む張本人ですらこんな認識の人間もいるわけで、ましてや産めない側の男性であれば全く知らないという方もいるだろう。
どういう風に赤ちゃんが育つのか、産んだ後の母親の心身の状態はどのようなものか、それらを踏まえて何故「産後の恨みは一生」になってしまうのかを分解する。
赤ちゃんは初っ端から難易度マックスで攻めてくる
赤ちゃんと言えば、おっぱいあげて寝かしときゃデカくなる。
もしそんなイメージをお持ちなのであれば今一度改めていただきたい。
赤ちゃんの個人差があることは大前提ではあるが、
「(大人が思うように)寝ない・飲まない・泣き止まない」
くらいに考えておく方がベターだ。
赤ちゃんはマニュアル通りには動かない生き物なのである。
まず、赤ちゃんは寝ないことがデフォルトの状態で設定されている。
夜中に毎日ランダムでアラームが3~5回設定されており、その都度必ず起きてミッションを達成しなければ再眠は不可、という状態である。
月齢が上がるごとにアラームの回数は減っていくかもしれないが、完全になくなるのは(個人差はあれど)最低1年経ってから…くらいの認識でいた方が良いだろう。
それまでは毎日、夜中のどこかしらでアラームが鳴るので、その都度起きて対応する必要がある。
そして当たり前だが、赤ちゃんは言葉を発してくれないので、ミッション時はどうしたらベストなのかを常に予想しトライ&エラーをする必要がある。
ミルクやおっぱいを飲めばスッと寝てくれる…というイメージをお持ちの方がいらっしゃったら、(赤ちゃんによる個人差はあれど)それは今すぐなかったものとして欲しい
ミルクを飲んでも、オムツを変えても、抱っこしてユラユラし続けても尚、泣き続けて眠らないこともある…それが赤ちゃんなのだ。
つまり、慢性的な睡眠不足な中、毎日膨大な量の予測・判断・行動(しかも迅速でなければならない)を迫られることになるということだ。
さらには、赤ちゃんはすぐ死にかねないというとんでもないデバフ効果がついている。
眠ってる分には安心じゃないの?と思われるかもしれないが、うっかり布などが顔にかかってしまっただけで窒息死の危険性がある生き物なのだ。
そのため、世話をする側は常に眠いのに心配で目がギンギン、神経はピリピリという緊張状態に陥ることもある。
産後の母親はHPを大幅に削られた状態で育児スタート
これだけでもかなり心身ともに削られる戦いになりそうだ…というのは想像に容易いかと思うが、一方で産後の母親の身体の状態はどうだろう。
まず経膣分娩の場合は、多くが赤ちゃんを産む際に膣の出口部分を切ったり裂けたりしているので、そこを縫う処置をしているのだが、まあこれが痛い。
しばらくは座ることにすら苦痛を伴う状態だ。
帝王切開の場合も、腹部・内臓を切って縫っているので当たり前に痛い。直後は動くことも困難なレベルである。
そして赤ちゃんを産む際に骨盤があり得ないほど広がるため、産んだ後も暫くは広がりっぱなしで歩くのも苦痛。
更には、産んでから1ヶ月の間は、生理とはくらべものにならないくらい股から大量に出血し続けているのだ。(産褥期)
そして母乳に関しても、ただなんとなく自動的に出てくると思ったら大間違い(私も産前はそう思ってた)。
赤ちゃんに上手く吸ってもらうことを何度もトライし、自分の手で搾ったり試行錯誤を経て、授乳という行為が成立している。
赤ちゃんが上手く吸えなかったり、自分でも思うように搾れなかったりすると、これまた胸が岩のように硬くなり、炎症を起こすこともある。
そして赤ちゃんの吸う力も半端なく、乳首は普通に切れる。
切れた状態でおっぱいを吸われると、涙が出るほど痛い(当たり前)。
「産後の恨み」の正体を考える
…というように(まだまだ沢山あるが切り上げた)、
産後これだけのハンデを抱えながら、先に述べたような超絶ハードモードの赤ちゃんの育児というミッションをこなしていかなければならない状況…
まさに極限状態であることがお分かりだろうか。
そしてもう勘の良い方はお気づきかもしれないが、この極限状態で助けてもらえなかったらどうだろう。
ただでさえ身体的にズタズタの中、まともに眠れず、目をちょっと離すと死にかねない赤ちゃんの世話を神経をとがらせながらしている傍らで、
例えば夫がゲームに夢中になっていたらどうだろう。
根に持たない方が難しいのではないかと思う。
例えば目の前でクマに襲われかけたときに、パートナーに先に逃げられたり、見て見ぬ振りされたらどうだろうか。
相手へ不信感を持ち、そしてそれは中々払拭されないことは容易に想像できる。
その後どれだけ仲良くできても、「…でもクマに襲われた時、この人助けてくれなかったしな…」という考えが頭をよぎってしまうだろう。
例えがクマでなくても、火事のときに見捨てられたり、仕事でとんでもないミスをしたときに上司に見て見ぬふりをされたり…
本当に助けてほしいときに助けてもらえなかったら、
産後ではなくとも人間なら誰しもが不信感を持つし、信用度が一度下がったら中々上がらないのも事実ではないだろうか。
つまり、「産後の恨み」を持っている人は、産後に育児をしてもらえなかったことのみに恨みを抱いているのではない。
「私が1番辛いときに、私の方を向いてくれなかった」
「1人の人間として思いやりを持ってもらえなかった」
そう感じてしまった結果、簡単に払拭しがたい不信感を抱くこととなり、「産後の恨み」として称されるものとなるのではないだろうか。
産後は極限状態。
産んだ側はボロボロになりながらも、赤ちゃんというボス相手に毎日戦っている状態だ(別に赤ちゃんは敵ではないのだけど…)。
率先して戦っている妻が瀕死状態であれば、思いやりを持って対応してあげてほしい。
恐らくほとんどの場合は、一生を添い遂げるつもりで結婚し、子供を設けたはずだから。
そしてきっと助けてもらった時間は、「産後の感謝」となり、相手にとって一生忘れられない記憶となるだろう。