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富士スピードウェイで耐久レースを見た話

欧州と比べるとモータースポーツが日本では盛んではないが、年に何度もレースが行われている。
モータースポーツのうち、日本で最も賑わうのが鈴鹿サーキットでのF1であろう。以前鈴鹿に行った話を書いたけれども、外国人も含めたくさんの人がおりそれはもうとんでもなく混雑していた。

F1以外のレースを知っている人はそれほど多くないだろうが、それこそ一般の人も参加できるようなレースイベントもあれば、日本国内でのみ行われるフォーミュラカーレース、砂地や雪道を疾走するダートカーのレースなど、あげればキリはない。

そういったレースの一つに、「耐久レース」というものがある。
これは読んで字の如く長い時間走り続けるレースだ。短くても6時間程度、長い場合は24時間に及び、2時間ほどで終わるF1と比べると相当長く、それだけにレースが午前中から始まることも珍しくない。
耐久レースで群を抜いて有名なのが「ル・マン24時間」だ。フランスのサルトサーキットという直前がアホみたいに長いサーキットを1日中走り続けるという狂気のレースである。

常に全力全開のパフォーマンスをしている車にかかる負担は相当なものがある。それだけに耐久レースは過酷だ。トラブルがあれば走りきれぬままリタイアになってしまうこともあるし、耐久レースとはいえ車のポテンシャルはどのチームもそれほど変わらないため,ちょっとした故障で優勝を逃すこともある。F1とは違うものの、コンマ1秒を争っている点はなんら変わらない。

その狂気のレースである「ル・マン24時間」で、かつて日本車メーカーが優勝を目指して競ったことがあった。トヨタや日産といったいわゆる大手自動車メーカーが研究を重ね、そしてしのぎを削るなか、1991年に優勝を勝ち取ったのがマツダである。
その時の優勝車がロータリーエンジン(通称:おにぎり)を搭載したマツダ787Bというものだ。

私は小さな頃にこのマツダ787Bのトミカに出会ってからというもの、F1以上に耐久レースを戦うレースカー(かつてのグループCカー)が非常に好きだった。
いつの日か耐久レースも見てみたいと思いながら年月ばかりがいたずらに過ぎ、さすがにこれはいけないと一念発起して調べたところ、9月半ばに静岡県にある富士スピードウェイで世界中で耐久レースを戦うWEC(World Endurance Championship)のレースがあるらしい。
これはいくしかないとチケットを買い、静岡在住の友人の助けも得ながら、朝から御殿場から富士スピードウェイを結ぶ臨時バスに揺られた。

F1とWECのレースの違いは大きく2つある。
まずWECのレースはF1に比べて人が少なめで過ごしやすい。その分物販なども少なめだが、人がごった返してトイレが異常に混んだり、思うようにレースを見られなかったりするよりはマシだ。
そしてもう一つが、スタートの違いである。F1は一度スタート前に前者がグリッドにつき、スタートランプに合わせて出走する一方、WECは「ローリングスタート」という方法を採用している。これは各々の車が予選タイムの速い順番で並んで走り、静止することなくスタートラインが近づくとアクセルをベタ踏みしてレースが始まる仕組みだ。簡単にいうと「なし崩し的にレースが始まる」といえる。

正直私はこのローリングスタートを見に行った、と言っても過言ではない。
位置についてよーいどん、で始まるF1のスタートも心躍るのだが、フォーメーションラップの力を抜いた走りから突然レースのガチ走りになる瞬間を見られるローリングスタートが私は好きだ。

スタート後、私はハイパーカーの空気をつんざく音を聴きながらただレースを見続けていた。いわゆる耐久レースのために作られた車のカテゴリーが「ハイパーカー」というやつなのだが、そこで参戦しているのが日本ではいまやトヨタだけである。
ほかはフェラーリ、アルピーヌ、プジョー、ポルシェ、BMW、キャデラック、ランボルギーニといった欧米の高級車メーカーが名を連ねる。私が贔屓にしているマツダもいなければF1で応援しているマクラーレンもハイパーカーにはいないので、別にどのチームを応援するでもなく漫然とレースを眺めていた。

富士スピードウェイは長いストレートに観客席がたくさんあるため、300キロくらいのスピードが出ている車を見ることができる。鈴鹿で聞いたエンジン音も凄かったが、富士はスピードが出ているだけに地鳴りがしているかのようなインパクトがある。昔とは異なりハイブリッドのパワーユニットをどの車も積んでいるわけだが、かつてのエンジン車も圧倒するような強烈なサウンドだ。感動の一言である。

しかし耐久レースは先述したようにレースの時間が長かったので、日差しのあたる席でボケボケとしながらレースを見ているとおのずと肌も焼けてしまった。いまだに残るヒリヒリと肌を焼かれる感覚には、富士スピードウェイで過ごした高揚のひとときが刻まれているのであろう。

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