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記事の捏造は他人事にあらず

記者として仕事をしていると、時々デスクを中心に「無理のある注文」がやってくることがある。

デスクはデスクで編集部の偉いおじさんから「この情報はないのか」「これをいれろ」とか言われて我々記者をせっつくことになるのだが、時に「これはさすがにちょっとな」というケースもある。
取材先の方にはそのたびに「これこれこういう事情がありまして」と説明してなんとか先方に納得してもらうわけだが、いざ記事が出てみても幾ばくのもやもやとした感情は消えない。

4月30日に読売新聞が、小林製薬による紅麹関連商品の健康被害をめぐる記事のコメントを捏造したとして、担当した読売記者が論旨退職、編集局長も近く更迭すると報じた。
記事によれば、取材先が言っていない内容を主任が「イメージと違う」ということで勝手に書き換え、記者も何も言わないまま記事掲載に至った。
取材先のクレームを受けて、編集幹部は火消しのために訂正記事を掲載したが、それがさらに社内からの新たな指摘につながり、捏造が明らかになったという。

似たような話は日経でも起きている。ギリシャ沖でタンカーが横付けして移し替えたのがロシア産の石油であるとしていたが、実際のところは違ったという話である。
どのように「誤報」が生まれたのか書かれているのだが、以下に一部引用してみよう。

…担当デスクはギリシャ沖で急増する石油取引の事例として記事で取り上げることを念頭に、積み荷の重さを示す「喫水」データの変化から、2隻の移し替えの状況を調べるよう取材班に指示。喫水の分析でこの取引はインド籍船からギリシャ籍船への移し替えで、ロシア産石油の取引だった可能性は低いと取材班の記者は判断し、デスクも共有しました。
デスクは上司のグループ長と記事を巡る協議の際にこの情報にも言及しましたが、意思疎通が不十分で、グループ長はロシア産石油と誤認したままでした。一方、デスクは海上取引の一事例として記事に使うことを了承されたと受け止め、編集作業を進めました。他の編集幹部にも取材班の判断は伝わりませんでした。…

日経ではグループ長とデスクとの間のやりとりで問題が起きたようだ。デスクが議論を戦わせなかったようなので、グループ長側から何かしが言われたのであろうなという想像は働くが、事実かどうかはわからない。

ぶっちゃけ、こうした事例は大小さまざまあるのが実態である。
上司が「うーん」と首を傾げて無理な取材を強いる(心当たりのある記者や取材先の方も多かろう)ことはままある。このあたりの編集技術や上司のいなしかたが極めてうまいデスクもいるといえばいるのだが、そういう方は多数派ではない。

読売のように言っていないことを書いてしまうというのはさすがにマズイが、意味合いを保ったまま表現を変える「丸めて書く」行為は日々行われているのが実情である。それは紙面の都合や会社独自の言葉のルールなどにのっとるためではあるのだが、時々「これは大丈夫なのか」と思う瞬間もある。
それだけに今回の問題は情報発信を手掛けるひとにはだれしも起こりうるものだ。断じて他人事ではない。

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