私のまいばすけっと
冷蔵庫のトマトジュースがなくなってしまった。
一昨日の夜から、あと少しでなくなりそうなトマトジュースをちびちびと往生際悪く飲んでいた。
最後の一滴を飲み干した私は、まいばすけっとへ行くことを決めた。
私の家から一番近くにあるスーパーは「まいばすけっと」
17時を過ぎると、店内はどこもかしこも行列が出来る。
私は前回、ここの「まいばすけっと」で大失態をおかしてしまった。
セルフレジの列に並び、私の番が呼ばれ、その時私は10kgのお米を抱えていた。バーコードを通し、結構な勇気と力を振り絞り隣の台へ移そうとした瞬間に何かに引っかかった。私は重さのあまりに力づくで引っ張りあげたその瞬間、袋の下から小さなお米の粒たちが舞い落ちた。
店員さんは怪訝そうな顔で、お米を片付けた。
10kgのお米を無駄にしてしまった事と、店員さんに迷惑をかけてしまった事のショックから私はセルフレジを使うことが怖くなった。
私はトマトジュース一つしか持っていないけれど、有人のレジに並んだ。有人のレジは佃煮コーナーを抜け、麺類コーナーも抜け、さらにはお豆腐コーナーにまで人が並び続けていた。
それでも私は待った。
いよいよレジが見えてきた。
店員さんはブロンド色の青い瞳をしていた。
研修中と貼られた彼女は、いつもの凄い速さでレジを打つベテランの坂本さんに細かく指導されていた。
研修中である彼女は、日本語を理解する事もままならず、レジにも馴染めず、坂本さんにも馴染めていなかった。
たどたどしい日本語の「いらっしゃいませ」と共に私のトマトジュースは打たれた。
しかし、バーコードはエラー音を出し私のトマトジュースはなかなか打たれようとしなかった。
研修中の彼女は、大きな瞳を潤ませながら不安と焦りで坂本さんに押しつぶされそうになっていた。
最後に「ありがとうございました」も言えないくらい彼女は、とても小さく、とても薄く消えていった。
その姿に無情にも私は願わくば変わらないでいて欲しいと思ってしまった。
彼女が何くわぬ顔で淡々とレジを打ち、機械みたいな笑顔で「ありがとうございました」と言われる日が訪れたら、私は悲しくなるだろう。
生きる事に慣れてしまう事は、淡く儚い不器用が消えてしまう事。
彼女の姿はその日以来見ていない。
彼女はどこかできっと淡く儚く生きている。