ゆりかご
———————— こどもみたいだった。
川に流しながら、見送りながら思っている。
揺りかごのような、トロッコのような。
それまでのんびりした速さで進んで来たそれから降りて、ゆらゆら漂いながら向こう岸に向かっていったそれを見送った。
向こう岸では、二人の人がそれを確かに受け取っていた。
こども、みたいだった。
手間がかかって、放っておくとどこへ行ってしまうか。
気付いたらいなくなってしまいそうで。
私は、後から来た母親のようだった。
視界が滲む。
今までなんとも思っていなかったというのに、急に溢れ出して止まらない。
最後の記念とでも言うように、私は何回か自分を写真に移していた。
私は一体、何を見送ったのだろう。
「行きましょう」
付き添い人が言う。
『どこへ?』
「約束したでしょう」
誰かのことを思い出す。行かなくちゃ。
返さなくちゃならない気がする。
何か返すものが私にはあった。
『約束があるの。時間もないの。だから、』
何か、言っているのが聴こえる。
ダイジョウブ ヤクソク
だけど行かなくちゃ、このままではいけないと思っている。
すぐにでも向かわなくちゃ、何故か此処には居られないのだと思っている。
守らなくちゃならない約束は、他にもあるような気がしている。
飛び出した。身一つで飛び出して行く。
後ろから、声が聞こえる。
だけど行かなくちゃ。どこへ行かなくちゃ?
走り続ける。
いつのまにやら街並みの中を走っている。
ビルの中に逃げ込んだ。行き止まり。
飛び移ろうか、いっそのこと飛び降りてしまおうか。
追い付かれるなら、思い切ってしまおうか。
私は自分を、元警察だと思っている。
何処かの窓から、細いロープを垂らして外へ逃げようとする。
幸運にも、下の階の人間はいた。女性だった。
ようやく窓から部屋に入り込んで、息を切らしながら助けを乞う。
『かくまって欲しい、かくまってください』