スケープゴート
幸せでいて欲しいと思うから、またねって思うから、本当の代わりだから、きっと身代わりだから。だから壊れること懲りずに そうぞうする。本物の代わりに、本当になってしまわないように。淋しいのに苦しいのに、壊れてほしい、壊れてしまえと思う。
薄暗いいつかと比べた時、それから少し変わることができれば、暖かくて優しいものになると思っていた。でももしかしたら、違うかもしれない。
幸せでいて欲しいなと思うことが増えるほど、柔らかめに感じることが増えるほど。まったく正反対にあるものも比例して大きくなる。
自分でつくったものをバラバラにひどいように壊してしまいたくなる。
生身でたった一つしかないものがそうなってしまわないように、身代わりになって欲しい。替えのきかないものが、傷付いたり悲しんだり淋しくならないように、勝手な話だけど代わりに受け止めて、いつか失くなって欲しいと。そう思う。
わざわざ苦労して綺麗めにつくったものを、ひどくしてやりたいのは。
私の代わりに、思い浮かぶ人達の代わりに、耐えるばかりのみんなの代わりに、「もうあれもこれもどうしようもない」って、涙が止まらない誰かの代わりに。
泣いて欲しい、苦しんで欲しい、睨んで欲しい、私達の代わりに受け止めていて欲しい。切り取られたその中で守っていて欲しい。
けして生身の存在には向けるべきではない、薄暗い気持ち。憎らしい、恨めらしい。悲しい。だけどそんなところ、簡単に外気には晒さないで欲しい。なんともない顔して、幸せそうな色で、覆って覆ってそれらしく振舞ってそこに居て。だから壊れて欲しい、消えて欲しい。はじめからまるでそこにはなにもなかったみたいに。無惨に、ズタズタに、バラバラに。
形なんていらない、形なんていらない。
勝手な願い事なのかもしれない。傲慢なのかもしれない。壊される身になれと思う。許して欲しい。優しくなくてごめんと、そればかり思う。優しいのが優しいとは限らないって、いつか聴いた言葉がやたら繰り返される。
不老不死を思う時と、似た気持ちになる。
一回目の初個展も、二回目の個展も、変わらず終わらせる時は、ものすごい喪失感で変になりそうだった。どちらも、手伝いを断って極力自分一人でなんとかした。泣きながら帰った。
私はあの時、一体何を身代わりにしたんだろう。
(2018.05.20)
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