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託されるコレクター、守り継ぐ美術館
1.4度目の取材(くもり時々晴れ)
こんにちは、ヒョーゴミュージアムサポーターズ美術チームです!
今回は2月24日に取材させて頂いた、兵庫陶芸美術館の特別展『令和の新収蔵品展-「コジン」からの「オクリモノ」』での驚きや高揚感を皆さんにも共有出来たらと思います。
本展は、兵庫陶芸美術館が令和に収蔵した作品のうち、摂津や丹波、但馬、播磨、淡路など兵庫県内各地で制作された古陶磁と、4人の個人コレクターから受贈した貴重な作品の数々に焦点を当てたものとなっています。
残念ながら会期終了直前に取材したので、ご来場をお勧めすることは叶わないのですが、地域の風土を反映した個性豊かな陶芸美術をじっくりゆっくり眺めることのできる、なんとも贅沢なひとときを過ごすことができました。
それでは、取材メンバー3人によるちょっとした取材レポをどうぞお楽しみください!
INFORMATION
兵庫陶芸美術館
📍兵庫県丹波篠山市今田町上立杭4
🕐開館時間 : 10:00 ~ 18:00
※入館は17:30まで
🗓休館日 : 毎週月曜日
次回の特別展
『フィンランド・グラスアート-輝きと彩りのモダンデザイン- / ムーミンの食卓とコンヴィヴィアル展-食べること、共に生きること-』会期:2024年3月16日(土)~5月26日(日)
美術館HP
2.ミニレポ-新収蔵品お披露目会-
ライター:のん
※陶芸にあまり詳しくないため、これから書く内容は個人の意見です。
注意書きにも書いた通り、初心者から見た陶芸はただただ「すごい!」の感想しか出てこない。そんな私が今回することは、展覧会が終わった後のためとても残念…。
そんな思いを抱きつつぜひ読者の皆さんに知ってほしいことを2つピックアップしていく。
展覧会魅力ポイント
①パンフレットがある!
展示ブースに入る前に驚いたこと。今回1階のみ写真撮影ができ、他の階の展示品は撮影できず、目に焼き付けるしかなかった。
しかし、この冊子があることで後から見返すことができ記憶に定着しやすくなった。展覧会に行った人はもうゲットしましたよね!実際に行った人はちょっと興奮したはず…。
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パンフレット
パンフレットの中には数々の展示品の写真が多数掲載されている。さすがプロの写真家の技術!(私もこんな風に撮りたいと心の中で思いつつ…)このパンフレットさえあれば、展覧会に行った実感がありますよね。
しかし、実際に肉眼で展示品を見ることで得たすごさは写真の何百倍も価値があることをお忘れなく…。
あくまで振り返りとしてお使いください。
②展示方法の工夫が!
展示品の中で茶碗やお皿が5~6枚(客)並んでいるものがあり、それぞれの作品のきめ細かさや違いを堪能できた。
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高瀬正義氏寄贈
同じ作品をただただ並べるのではなくちょっとした工夫が…。
それは、一つだけ裏返しにすること!表だけでなく裏も全部見てほしい…。そんな学芸員さんの思いが良く伝わってきます!
正面から見た時に同じ作品をほぼ同じに仕上げる完成度の高さだけでなく、裏に描かれている模様や形も…。陶芸の魅力って奥深いですよね。
私も鑑賞する視点として勉強になりました!
今回の展覧会で一番実感したのが、兵庫県にはまだまだ知られていない沢山のやきものがあるということ。
5つの地域に分けてその地域の特徴を詳しく紹介していて私自身勉強になった。
陶芸って一見渋くて難しそうなイメージを持たれていると思いますが、実際ふたを開けてみるとグッと引き寄せられるものがありますよね…。
一人でもその魅力にハマってくれることを願いつつ、私の記事はここまで!
最後まで読んでくださりありがとうございました。
ライター:おみ
私からは、鑑賞中特に気になった作品2点についてご紹介したいと思います!
①神戸絵付《色絵松竹梅文茶器セット》 昭和時代
百渓正明氏寄贈
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神戸絵付《色絵松竹梅文茶器セット》
こちらのカップには名前からわかるように松竹梅が描かれており、私は並べてあった磁器の竹に魅力を感じました。それは横から見た時に竹林の中にいるかのような精密な絵柄に驚いたからです。
一つ一つ同じ絵柄を書いていたとしてもこれほど正確に書き写されていることに素晴らしいと思いました。
是非ともこちらのカップでティータイムを過ごしたいものですね!
②生田窯《鉄釉コーヒー碗皿》(6客) 1960年代
田巻敏明氏寄贈 ※展示室撮影禁止により写真無し
こちらのコーヒーカップは6客のうち1客のみが展示されており、前回のデミタスカップの展示があったことからもこの陶芸品に目を惹きました。
白色ですがどこか深みのある色になっているので上品な雰囲気がありますが、取っ手が丸みを帯びていて可愛らしさも兼ね備えた作品でした!
また飲み口の中側が八角形になっており、角がある部分と直線の部分ではふちの厚みが違うので、そこも面白い部分だと思いました!
ライター:にーさん
秋の特別展取材も無事完了し、さて、次回は何を取材しようか…と美術館の年間スケジュールを見て、そのサブタイトルに首を捻った。
『令和の新収蔵品展ー「コジン」からの「オクリモノ」ー』
「コジン」って個人?故人?それとも古人…? 展覧会名の英語表記を参照すると、“Exhibition of New Collections in Reiwa;Kojin karano Okurimono”となっている。メインタイトルはしっかり訳されているが、後半はヘボン式ローマ字に変換されているだけ。これでは正解が分からない。
どの漢字を充てても意味は通りそうな気がするが、わざわざカタカナ表記で書かれているあたり、ダブルミーニングの可能性も考えられる。頭に小さなクエスチョンを抱えながら、私は新たに迎える作品にお目にかかれる日を心待ちにしていた。
そして取材当日。答えがなんとなく分かったのは、展示室を一通り回り終えてからである。
本展覧会は、「兵庫旧五国のやきもの」「コレクターからの贈り物」の二章構成で展示がなされていた。
前章で披露されたのは、兵庫の各地方が生み育ててきた地域色溢れるやきものの数々。今でこそ兵庫という一つの県(一部は京都や大阪を跨ぐ)にまとめられてはいるが、但馬、丹波、摂津、播磨、淡路といった風にかつては複数の小さな国々が各地を治めていたのだと強く実感できるほど、目に見えて地域ごとの個性が作品に反映されていた。
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陶芸の面白さは、このように製作された当時の風土や環境が作品にはっきり表れ出ているところにあると思う。地域によって、土の状態や湿度・温度環境は大きく異なる。故にその地でしか再現できない色合いや質感を再現することが可能なのであり、その素朴な美しさが古来より生活空間にそっと安らぎをもたらしてきたのだろう。
素材そのものの自然美を損なうことなく、限られた条件の中でどう意趣工夫を凝らすのか。
先人たちが教え継いだその糸口こそが、「古人」からのオクリモノなのかもしれない。
次に展示室を移動すると、4人のコレクターによって寄贈された多種多様な作品が紹介されていた。
これまた興味深いことに、長い時をかけて収集された作品は、どれも選りすぐりの逸品でありながら、各人によって嗜好が少しづつ異なるように思えた。
写真撮影ができなかったため作品をお見せできないのが残念だが、例えば田巻敏昭和氏のコレクションは、造形的にシンプルかつなだらかなものがほとんどで、人の手で時間をかけて作られたことが実感できる穏やかな色合いと形状を持つ。
どちらかといえば日常づかいに手元に置いておきたいような皿や湯呑ばかりだ。陶芸家・生田和孝氏の作品を熱心に収集していたとのことで、今回展示された新収蔵品も彼の作品一色だった。
作家としては、自身の手掛ける作品を沢山愛しその美的価値を見出してくれるコレクターは何よりも嬉しい存在に違いない。たいして創作活動もしたことのない私でさえ、作り手のことを考えるとなんだか良い心持ちになり、うきうきで展示室を徘徊してしまった。
一方、赤木清士氏のコレクションは田巻氏とは打って変わって、緻密で重厚、華やかな絵柄の作品を多く収集している印象を受けた。
平井昭夫氏の収集作品は絵画に造詣が深いという背景もあってか、ややモダンで大柄な絵画的表現を好む傾向があったことを思わせる。
三浦徹氏も平井氏のように大胆な作風を多く収集していたようだが、平井氏の収集品よりも武骨で、より抽象的な造形・絵画表現を内包する作品が多いように思われた。
複数人による壮大なコレクションを眺めていると、人類は皆ほぼ同じ脳機能を有するはずであるのに、実際には一人一人異なる、無数の嗜好と美的価値観を持ち合わせているのだと感嘆させられる。
それぞれのコレクターの好みや審美眼を如実に反映した数多の作品を鑑賞し、美しさにも様々な種類があることを知る。
このような体験ができるのも、ひとえに「個人」からのオクリモノがあってこそだろう。
なんだかサブタイトルの答えが分かったような気になって、一人でホクホクしながら美術館を後にしたことを覚えている。
__けれども今になって考える。
結局、「コジン」が意味することは何だったのだろう。
鑑賞中はあまり意識していなかったのだが、「オクリモノ」が意味深にカタカナで表現されている理由も不明のままだ。
実は今回、サポーターズの都合によりギャラリートークの参加が叶わなかったのだが、もしかすると学芸員さんが詳しく解説してくださっていたのかもしれない。
ギャラリートーク、聞きたかった…。
特別展を鑑賞された方で答えを知っている方は、是非コメントで教えて下さい。
美術チーム3名による、春休みワクワク取材レポでした。
次回の投稿もお楽しみに!