はじめてのユーザー理解 〜『コンタクト履歴』のすゝめ〜
こんにちは。サイボウズでデザインテクノロジストとしてkintoneを開発するトビ(@0b1tk)です。
私は自社製品であるkintoneの開発者として、ユーザー起点でサービスづくりをすることに心血注いでいるのですが、
「ユーザー理解」ってむずかしいよね?
どうやって開発者としてユーザーの解像度を高めていけばいい?
というプロダクトデザイナーやエンジニア向けの内容になります。
要約
約5,000字のnote記事になります。時間がない方はこれだけでも抑えていただけたらと思います!
コンタクト履歴とは"顧客"と営業やカスタマーサクセスなどのやりとりが記録されたデータベースのこと
"ユーザー"と”顧客”を区別することでサービスの提供価値が見えてきて開発に落とし込めるようになる
特にターゲットユーザーが絞りにくいサービスではコンタクト履歴がとてもおすすめ
まず自己紹介から。
現在私は『デザインテクノロジスト』という職能です。具体的には、「kintoneの最高のユーザー体験を届ける」をチームの旗印に、デザイナーとエンジニアの間に立って、デザインにおける問題解決やデザインの有効性や品質向上を「デザインシステム」という基盤を通して提供しています。
ユーザー理解は、サービスデザインに関わる私のチームにとって必要不可欠な要素です。
そのため、私が実際にユーザー理解を上げるために取り組んだ『コンタクト履歴を1,000件読む』という経験を通して、コンタクト履歴がデザイナーやエンジニアといった開発者のユーザー理解を高める話をします。
ユーザー理解の"罠"の実体験
開発者ならば誰しも、「ユーザーに使ってもらえるサービスを作りたい」と思っているはずです。
しかし新卒デザイナーやエンジニアが集う会場で、「自分が携わるサービスのユーザーのことを分かってる自信があるよ!」という方は手を挙げてみてください✋」と聞いてみたところ、誰も手が上がりませんでした💭
かくいう私も紛れもなく、デザイナーを志していた学生時代から「ユーザー起点のモノづくりこそこれからのサービスには必要不可欠だ!」と考えてきましたが、いざ実務に入ってタスクに書かれたユーザーを深掘ると「対象ユーザーの理解がボヤけている」ということに気づいたのです。
このように開発効率向上を目指していたのに、目的を見失ってわからないことに時間を費やしてしまい、結果的に「わからない」がわからない状態に陥ってしまった経験に共感できる人もいるでしょう。
さて話を戻すと、ユーザーを理解するためにインタビューやユーザーテストなどのリサーチが一般的です。また「実際のユーザーに会いに行こう!」と、営業やカスタマーサクセスと共に行動することもあります。
しかしながら、「(kintoneのような)特定のサービス性質によっては、開発者にとってユーザー理解の吸収効率が低い」というkintoneのPMの言葉にハッとしました。
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ユーザー理解における『吸収効率』の真意
そもそも、なぜ私が経験したようにユーザー理解が難しいか、kitnone PMは以下のように説明しています。
まず大前提に、ターゲットユーザーが局所的で情報収集が比較的容易だったり、社内ヒアリングで迅速なフィードバックを得られるサービスであれば、UTや同行は極めて効果的です。
しかし、kintoneのようなターゲットユーザーやユースケースが多岐にわたる複雑なサービスでは、大きく分けて2つの問題があります。
第一に、特定の意見に偏りが生じて全体像を見失うケースです。接した少ない情報だけに理解が支配されてしまいます。
あるいは、情報読解力不足で、雰囲気で感じた・直接見たことで満足してしまい、開発において何が重要かを判断できず、誤解や曲解を招きやすくなります。
このように、ユーザーのことが記載されたタスクの見方を正しく汲み取れないと、自分がやっている開発意義が薄れ、ユーザーを理解しようとする動機も学習意欲も低下していく…そんな『負のスパイラル』に突入していくのです。
これらの問題に対処するために、『多様なユーザーと接する"量"を重ねて、わからない事象への接触頻度を増やしながら、サービスにまつわるユーザー理解の"質"を上げていこう』という言葉とともに、解決手段の提示もありました。
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コンタクト履歴のすゝめ
どうすれば開発者のユーザー理解を上げられるか、もっともコストパフォーマンスの高い方法はズバリ「コンタクト履歴を読むこと」です。
開発者にとって"質"と"量"とが詰まった、『ユーザー理解のバイブル』と言えます。
そもそも「コンタクト履歴」とは、営業やカスタマーサクセスが、顧客とやりとりを記録したデータベースのことです。「応対履歴」とも言います。
このコンタクト履歴の最大の特徴は「膨大な量の記録が良質に残っている」ことです。
申し込み・商談・お問い合わせは日々更新されていきます。リサーチや同行を1,000件こなすのは根気と長い月日が必要ですが、開発者であっても隙間時間で1,000件の記録を読むことは比較的容易です。
また、コンタクト履歴には一般書籍よりもリアルで身近な実践知が詰まっています。専門用語や概念が分からない場合でも調べられるし、前後の文脈も追うことができます。そしてなにより無料で読めるのも大きな魅力です。
そこで、実際に行動に移します。
kintoneは幅広いターゲットユーザーを対象としているため、特定のユーザーに焦点を絞るのではなく、まずは全体像を把握することを重視し、コンタクト履歴を1,000件読む「コンタクト履歴1,000本ノック」に取り組みはじめました。
(毎朝30分ずつコンタクト履歴を読み進め、私は5ヶ月で1,000件のコンタクト履歴を読み終えました!)
現在も、デザインチームだけでなく開発チーム全体でコンタクト履歴の読み進めに取り組んでいます。
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履歴を1,000件読んで意識した3つのこと
1. ユーザーと顧客は切り分けて考える
まず、コンタクト履歴を読むうえで押さえておくべきなのは『ユーザー』と『顧客』は切り分けて考えることです。
顧客開発とリーンスタートアップの名著「Running Lean ―実践リーンスタートアップ」に基づいて定義をします。
ユーザー:サービスを実際に利用する人
顧客:サービスに対価を支払う人・またはそのサービスを受けてビジネス遂行に責任を持つ人
なぜ切り分けるかというと、『顧客』には管理者・利用部門の責任者・経営者など、サービスをほとんどまたは全く使わない人も含まれているからです。
これらの人々を一括りに『ユーザー』とみなしてしまうと、顧客が対価を払いたいと思う視点と、ユーザーとして日々利用する視点で、解決したい悩みの性質が違うことに気付けなくなります。
そして、コンタクト履歴に登場する『顧客』を理解していくうちに、『ユーザー』を含んだステークホルダー全体の様相も捉えられるようになります。
2. 登場人物ごとに関心が違う
『ユーザー』と『顧客』を区別できるようになった次に、コンタクト履歴に登場する様々なステークホルダーの関心ごとに耳を傾けていきます。
特に重要なのは「誰が・何に関心があって・どんな利用用途で・どんな感情なのか」を細かく捉えることです。
「誰が?」には、上述したようにユーザーだけでなく、現場責任者・IT部門の責任者・経営者などが登場します。
「何に関心があるのか?」も、「誰が」によって全く異なります。
たとえば、部署で働くチームの生産性を向上したいIT部門の責任者は、現場のリアルな声を拾うと同時に、サービス導入に向けて経営層の意思決定を仰ぐために、コスト感や費用対効果を意識します。
一方、特定ドメインで働く現場があるとして、別サービスを利用しなければならない前提で"痒い所に手が届くよう"にサービスを検討している現場責任者とでは、同じ製品であってもニーズやユースケースは全く異なります。
加えて、「どんな利用用途で?」も見逃してはいけません。
kintoneは自分たちで業務アプリを作成することができるサービスです。
つまり、登場人物ごとによく使う機能や画面が違うので、誰がどこに価値を感じていて、なにを開発改善することで価値を感じてもらえるかを理解できるようになることで、自分たちがいまやっている開発の解像度や裏側がわかってきます。
特に画面・機能単位でチームを分割している開発体制だと、歴が浅い人ほど製品全体を俯瞰で捉えるのに苦労するからこそ、広く浅く理解するのが大事になってくるのです。
3. "わからない"のモヤが晴れるのは知識と記憶がつながった瞬間
1,000件ものコンタクト履歴には最初は圧倒されていましたが、ある瞬間にブレイクスルーを感じました。
それは、コンタクト履歴に登場した言葉・社名・具体的な悩みを見つけ、それらが再び現れたとき、「以前の自分はこの情報を持っていなかった!」と実感しました。
たとえば、ある画面のデザイン改善を進めているとき、「なぜこの部分にまで注力すべきなのか」が理解できなかったかもしれません。しかし、具体的なユーザーを思い浮かべると、管理者視点や組織規模変更に伴う影響、異なるデバイスのユースケースなど、将来を見据えた考慮ポイントの勘所が掴めてきます。
この経験はまさに「点と点がつながる瞬間(Connecting dots)」であり、振り返ると理解が深まったことを感じます。
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まとめ
ここまでコンタクト履歴についてお話ししてきましたが、ユーザー理解に『銀の弾丸』は結局存在しないというのが僕個人の結論です。ユーザーの解像度は日々の小さな積み重ねでしか上がっていかないと実感しました。
これは一個人の感想ですが、コンタクト履歴を通して、デザインロールとしての腕っぷしやハードスキルを磨くことはもちろん重要ですが、同時に深い顧客理解あってこそ最高のユーザー体験を提供できると痛感しています。
特に、サービスドメインやユーザー特性が複雑であればあるほど、その影響力は大きくなります。なぜなら、自分が想定するユーザーのニーズや期待を考えながら開発に取り組むことは、自分の仕事の意義ややりがいだけでなく開発体制や組織理解にもつながるため、結果的に開発効率が上がると考えています。
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登壇後にいただいた嬉しい声
懇親会でお話したエンジニアの方から登壇数日後にDMをいただきました。
コンタクト履歴を自由に閲覧できる環境が当たり前ではないことを実感したとともに、開発に関わる人々に少しでもユーザー理解の重要性を理解していただけたのがとても嬉しかったので、ここでも紹介させていただきます。
このムーブメントが広がっていくことを願っています 🤞
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