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はじめてのユーザー理解 〜『コンタクト履歴』のすゝめ〜

こんにちは。サイボウズでデザインテクノロジストとしてkintoneを開発するトビ(@0b1tk)です。

私は自社製品であるkintoneの開発者として、ユーザー起点でサービスづくりをすることに心血注いでいるのですが、

  • 「ユーザー理解」ってむずかしいよね?

  • どうやって開発者としてユーザーの解像度を高めていけばいい?

というプロダクトデザイナーやエンジニア向けの内容になります。

この記事は、デザインイベント「新卒デザイナ&エンジニアLT「はじめての〇〇」で、新卒1~4年目のデザイナーやエンジニアを対象にLT登壇した資料をもとに執筆しています。

要約

約5,000字のnote記事になります。時間がない方はこれだけでも抑えていただけたらと思います!

  • コンタクト履歴とは"顧客"と営業やカスタマーサクセスなどのやりとりが記録されたデータベースのこと

  • "ユーザー"と”顧客”を区別することでサービスの提供価値が見えてきて開発に落とし込めるようになる

  • 特にターゲットユーザーが絞りにくいサービスではコンタクト履歴がとてもおすすめ


自己紹介。飛田和浩。サイボウズの新卒3年目。kintoneを開発するデザインテクノロジスト。

まず自己紹介から。
現在私は『デザインテクノロジスト』という職能です。具体的には、「kintoneの最高のユーザー体験を届ける」をチームの旗印に、デザイナーとエンジニアの間に立って、デザインにおける問題解決やデザインの有効性や品質向上を「デザインシステム」という基盤を通して提供しています。

ユーザー理解は、サービスデザインに関わる私のチームにとって必要不可欠な要素です。
そのため、私が実際にユーザー理解を上げるために取り組んだ『コンタクト履歴を1,000件読む』という経験を通して、コンタクト履歴がデザイナーやエンジニアといった開発者のユーザー理解を高める話をします。

登壇テーマ「ユーザー理解にコンタクト履歴はコスパ最強な件」
自社製品のkintoneが実例なので、toB SaaSの話がメインになります

ユーザー理解の"罠"の実体験

ユーザーのことを深く知るには?曇りガラスに隠れるユーザーアイコンの図。
ユーザーのことを深く知るには?

開発者ならば誰しも、「ユーザーに使ってもらえるサービスを作りたい」と思っているはずです。

しかし新卒デザイナーやエンジニアが集う会場で、「自分が携わるサービスのユーザーのことを分かってる自信があるよ!」という方は手を挙げてみてください✋」と聞いてみたところ、誰も手が上がりませんでした💭

かくいう私も紛れもなく、デザイナーを志していた学生時代から「ユーザー起点のモノづくりこそこれからのサービスには必要不可欠だ!」と考えてきましたが、いざ実務に入ってタスクに書かれたユーザーを深掘ると「対象ユーザーの理解がボヤけている」ということに気づいたのです。

平置きのユーザーアイコンの図とともに、ユーザー起点のサービスに意気込む。
「よーし、ユーザーの声を拾いながら最高のサービスを作っていくぞー!」と
意気込んで新卒入社した3年前の私。
曇りガラスに隠れはじめるユーザーアイコンの図
「あれ、なにから知ればいいんだ…?」ということに気付きます。
曇りガラスの範囲が拡大し、ユーザーアイコンが完全に覆われる図
自分の担当するタスクに書いてある「ユーザー」ってどんな人なんだろう?
曇りガラスがさらに拡大し、ユーザーアイコンも隣接するユーザーが増えている図
kintoneは製品特性上、ビジネスの現場全体がターゲットユーザー。
しかも「ユーザー」は従業員だけでなく管理者や責任者もいそうということに気付きます。
曇りガラスが図の全体を覆い、ステークホルダーを表すユーザーアイコンも複雑に入り組む図
利用シーンも様々。部署は開発・営業・カスタマーサクセス・人事とさまざま。
業界業種も製造業・サービス業・運輸通信・卸売小売・地方自治体などドメインが絞れない。
曇りガラスが図の全体を覆い、ステークホルダーを表すユーザーアイコンも複雑に入り組む図
最初は「ユーザー」のことが知りたかったのに
だんだんわからないが分からなくなってきたぞ!!
画面全体を覆う「うわあああ」の文字
うわあああああああああああああああ!(理解爆発💣)

このように開発効率向上を目指していたのに、目的を見失ってわからないことに時間を費やしてしまい、結果的に「わからない」がわからない状態に陥ってしまった経験に共感できる人もいるでしょう。


ユーザーを理解する一般的な方法。インタビュー・UT・営業同行・CS同席を思い浮かべる人の図。

さて話を戻すと、ユーザーを理解するためにインタビューやユーザーテストなどのリサーチが一般的です。また「実際のユーザーに会いに行こう!」と、営業やカスタマーサクセスと共に行動することもあります。

『ターゲットユーザーが広いkintoneでは、日々手を動かす業務をしている僕たち開発者にとって「吸収効率が低い」かもしれない』というkintone PMの言葉。

しかしながら、「(kintoneのような)特定のサービス性質によっては、開発者にとってユーザー理解の吸収効率が低い」というkintoneのPMの言葉にハッとしました。


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ユーザー理解における『吸収効率』の真意

そもそも、なぜ私が経験したようにユーザー理解が難しいか、kitnone PMは以下のように説明しています。

まず大前提に、ターゲットユーザーが局所的で情報収集が比較的容易だったり、社内ヒアリングで迅速なフィードバックを得られるサービスであれば、UTや同行は極めて効果的です。

しかし、kintoneのようなターゲットユーザーやユースケースが多岐にわたる複雑なサービスでは、大きく分けて2つの問題があります。

第一に、特定の意見に偏りが生じて全体像を見失うケースです。接した少ない情報だけに理解が支配されてしまいます。

「吸収効率が低い」の補足1。特定の声を過大評価してしまったり俯瞰せずに少ない情報を鵜呑みにすることで正確に情報を捉えることができていない。星5レビューのなかに混ざる星1レビューが強調されている図。
例:新機能に対する低評価のついた酷評コメントが引っかかってしまい、
好評コメントや、実用的な改善意見に目を向けられていない。

あるいは、情報読解力不足で、雰囲気で感じた・直接見たことで満足してしまい、開発において何が重要かを判断できず、誤解や曲解を招きやすくなります

「吸収効率が低い」の補足2。あるいは情報を読み取る力が備わっていないと雰囲気を感じた・直接見たことに満足してしまい開発において何が重要か判断できず誤解や曲解を招きやすい。砂漠で喉が乾く絵文字・蛇口を思い浮かべる絵文字・ビールを思い浮かべる絵文字が続く図
例:真夏の灼熱のなか、喉が渇いていそうな人に欲しがってそうな冷たい水を憶測で渡したら
実はキンッキンに冷えたビールを欲しがっていた

このように、ユーザーのことが記載されたタスクの見方を正しく汲み取れないと、自分がやっている開発意義が薄れ、ユーザーを理解しようとする動機も学習意欲も低下していく…そんな『負のスパイラル』に突入していくのです。

見方がわからない・開発に直結しない・ユーザーを知ろうとする学習モチベが下がるのスパイラルの図。

これらの問題に対処するために、『多様なユーザーと接する"量"を重ねて、わからない事象への接触頻度を増やしながら、サービスにまつわるユーザー理解の"質"を上げていこう』という言葉とともに、解決手段の提示もありました。

kintone PMの言葉。「多種多様なユーザーと接する量を重ねることで受注失敗や厳しい意見も受け入れながら、多様な「わからない」への接触機会を増やして製品に関わるユーザー理解の質を高めていこう」


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コンタクト履歴のすゝめ

コンタクト履歴のすゝめ。コンタクト履歴は開発者にとっても「量も質も」が詰まったユーザー理解のバイブル

どうすれば開発者のユーザー理解を上げられるか、もっともコストパフォーマンスの高い方法はズバリ「コンタクト履歴を読むこと」です。
開発者にとって"質"と"量"とが詰まった、『ユーザー理解のバイブル』と言えます。

そもそも「コンタクト履歴」とは、営業やカスタマーサクセスが、顧客とやりとりを記録したデータベースのことです。「応対履歴」とも言います。

そもそもコンタクト履歴とは?顧客の問い合わせに対して解決方法を提示する図。

このコンタクト履歴の最大の特徴は「膨大な量の記録が良質に残っている」ことです。

申し込み・商談・お問い合わせは日々更新されていきます。リサーチや同行を1,000件こなすのは根気と長い月日が必要ですが、開発者であっても隙間時間で1,000件の記録を読むことは比較的容易です。

また、コンタクト履歴には一般書籍よりもリアルで身近な実践知が詰まっています。専門用語や概念が分からない場合でも調べられるし、前後の文脈も追うことができます。そしてなにより無料で読めるのも大きな魅力です。

コンタクト履歴のいいところ。膨大な質と、ちょうどいい質。
コンタクト履歴を1,000件読む決意。kintoneの画面と共に。

そこで、実際に行動に移します。
kintoneは幅広いターゲットユーザーを対象としているため、特定のユーザーに焦点を絞るのではなく、まずは全体像を把握することを重視し、コンタクト履歴を1,000件読む「コンタクト履歴1,000本ノック」に取り組みはじめました。

(毎朝30分ずつコンタクト履歴を読み進め、私は5ヶ月で1,000件のコンタクト履歴を読み終えました!)

現在も、デザインチームだけでなく開発チーム全体でコンタクト履歴の読み進めに取り組んでいます。

イベントで「どうやって1,000件読むモチベーションを保ったんですか?」という質問をいただいたのですが、1,000という数字そのものに意味はないので1日1件でもまず読んでみること・そして一緒に取り組む仲間(私の場合はデザインチーム)と取り組むことをオススメしました。気長にコツコツ続けるのが秘訣だと思います🪄


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履歴を1,000件読んで意識した3つのこと

1. ユーザーと顧客は切り分けて考える

まず、コンタクト履歴を読むうえで押さえておくべきなのは『ユーザー』と『顧客』は切り分けて考えることです。

ユーザーを顧客が包括している図

顧客開発とリーンスタートアップの名著「Running Lean ―実践リーンスタートアップ」に基づいて定義をします。

  • ユーザー:サービスを実際に利用する人

  • 顧客:サービスに対価を支払う人・またはそのサービスを受けてビジネス遂行に責任を持つ人

なぜ切り分けるかというと、『顧客』には管理者・利用部門の責任者・経営者など、サービスをほとんどまたは全く使わない人も含まれているからです。
これらの人々を一括りに『ユーザー』とみなしてしまうと、顧客が対価を払いたいと思う視点と、ユーザーとして日々利用する視点で、解決したい悩みの性質が違うことに気付けなくなります

そして、コンタクト履歴に登場する『顧客』を理解していくうちに、『ユーザー』を含んだステークホルダー全体の様相も捉えられるようになります。

顧客が、ユーザー・管理者・利用部門の責任者・経営者を包括している図


2. 登場人物ごとに関心が違う

『ユーザー』と『顧客』を区別できるようになった次に、コンタクト履歴に登場する様々なステークホルダーの関心ごとに耳を傾けていきます。

特に重要なのは「誰が・何に関心があって・どんな利用用途で・どんな感情なのか」を細かく捉えることです。

誰が?:利用ユーザー・現場責任者・経営者などなど

「誰が?」には、上述したようにユーザーだけでなく、現場責任者・IT部門の責任者・経営者などが登場します。

何に関心があるか?:つらみは?何を解決したい?何が障壁?何を気にして?何を気にしていない?

「何に関心があるのか?」も、「誰が」によって全く異なります。

たとえば、部署で働くチームの生産性を向上したいIT部門の責任者は、現場のリアルな声を拾うと同時に、サービス導入に向けて経営層の意思決定を仰ぐために、コスト感や費用対効果を意識します。
一方、特定ドメインで働く現場があるとして、別サービスを利用しなければならない前提で"痒い所に手が届くよう"にサービスを検討している現場責任者とでは、同じ製品であってもニーズやユースケースは全く異なります。

どんな利用用途で?顧客管理?ワークフロー?全社導入?売上管理?業務の見える化?

加えて、「どんな利用用途で?」も見逃してはいけません。

kintoneは自分たちで業務アプリを作成することができるサービスです。

どんな感情?何に困っていてネガティブ?もっとこうなるとポジティブ?

つまり、登場人物ごとによく使う機能や画面が違うので、誰がどこに価値を感じていて、なにを開発改善することで価値を感じてもらえるかを理解できるようになることで、自分たちがいまやっている開発の解像度や裏側がわかってきます。

特に画面・機能単位でチームを分割している開発体制だと、歴が浅い人ほど製品全体を俯瞰で捉えるのに苦労するからこそ、広く浅く理解するのが大事になってくるのです。


3. "わからない"のモヤが晴れるのは知識と記憶がつながった瞬間

「活きたな!」と感じる瞬間は"知識"が”記憶”と触れたとき。ユースケースや導入企業を思い出す人の図。

1,000件ものコンタクト履歴には最初は圧倒されていましたが、ある瞬間にブレイクスルーを感じました。

それは、コンタクト履歴に登場した言葉・社名・具体的な悩みを見つけ、それらが再び現れたとき、「以前の自分はこの情報を持っていなかった!」と実感しました。

たとえば、ある画面のデザイン改善を進めているとき、「なぜこの部分にまで注力すべきなのか」が理解できなかったかもしれません。しかし、具体的なユーザーを思い浮かべると、管理者視点や組織規模変更に伴う影響、異なるデバイスのユースケースなど、将来を見据えた考慮ポイントの勘所が掴めてきます。

この経験はまさに「点と点がつながる瞬間(Connecting dots)」であり、振り返ると理解が深まったことを感じます。


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まとめ

ここまでコンタクト履歴についてお話ししてきましたが、ユーザー理解に『銀の弾丸』は結局存在しないというのが僕個人の結論です。ユーザーの解像度は日々の小さな積み重ねでしか上がっていかないと実感しました。

ユーザーの解像度は、結局積み重ねでしか上がらない。曇りガラスが半分球体を覆う図。

これは一個人の感想ですが、コンタクト履歴を通して、デザインロールとしての腕っぷしやハードスキルを磨くことはもちろん重要ですが、同時に深い顧客理解あってこそ最高のユーザー体験を提供できると痛感しています
特に、サービスドメインやユーザー特性が複雑であればあるほど、その影響力は大きくなります。なぜなら、自分が想定するユーザーのニーズや期待を考えながら開発に取り組むことは、自分の仕事の意義ややりがいだけでなく開発体制や組織理解にもつながるため、結果的に開発効率が上がると考えています。

今日のまとめ。ユーザーと向き合うことで開発を診の意味で理解でき、結果的に開発効率が上がる。


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登壇後にいただいた嬉しい声

懇親会でお話したエンジニアの方から登壇数日後にDMをいただきました。

全社総会でルールに関して議論する会が設けられて、開発がコンタクト履歴を見れないのを言ったら、案が通って見れるようにすることが決まりました!

コンタクト履歴を自由に閲覧できる環境が当たり前ではないことを実感したとともに、開発に関わる人々に少しでもユーザー理解の重要性を理解していただけたのがとても嬉しかったので、ここでも紹介させていただきます。
このムーブメントが広がっていくことを願っています 🤞



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