心の健康相談ダイヤルに電話をかけた

「大丈夫?それは病気かもれないから病院に行った方がいいよ」
そうか、これは病気だったんだ。心の健康相談ダイヤルにかけた時、出てくれた方がそう教えてくれた。

4月、私は遠方に就職をした。縁もゆかりもない土地だったが、やりたい仕事に関われるのでそこを選んだ。納得して選んだ道だったはずだ。

もしかしたら提出論文を書いているときからおかしかったのかも知れない。眠りが浅くなり、イライラした。何も手がつかず、論文も重力が100倍で、頭がぽーっとしているなかで、なんとか書き上げた。その結果やはり評価は低かった。でもなんとか提出して卒業できた。

引っ越しは全然進まなかった。手伝いに来てくれた母に全て任せて布団の中にいることしかできなかった。体が重い。だるい。食事が手につかない。母に当たってしまう。それでも両親が協力してくれたから、期日までに片付け終えて家を引き渡せた。

もうかなり限界間近だったのだろう。実家に帰っても何も動けない。準備ができない。本当はいらないものを整理したかったのだけれど、出来ないからすべて次の家へ持っていった。

両親と次の家に行く道中、どうしても行きたくなくて涙がこぼれた。「大丈夫や、なんとかなる」という言葉に頑張って引っ越しをした。

入社日、体が動かなかった。けれど行かなきゃいけないので引きずっていった。オリエンテーションの内容はほとんど頭に入ってこなかった。

2日目、配属。ご飯が食べられなかったけど、とりあえず職場に行く。言われたことが理解できなかったけど、親切な先輩から教えてもらいながら仕事をした。

3日目、この日もご飯は食べられなかった。直属の先輩が休み。上司に教えてもらう。上司は忙しそうで聞きづらいけれど頑張って聞いた。でも途中仕事がなくなって、3時間くらい資料で勉強をしていた。頭に入ってこない。

4日目、起き上がれない。もう準備して出社しなきゃいけないのに涙が止まらない。どうしようもない絶望感が襲ってくる。なんとかしなちゃ、どうしよう。どうしよう。どうしよう。思わず包丁を持つ。これはいけない。とりあえず職場に連絡を入れた。

「体調不調です。休ませていただけませんか?」

5日目、寝れない、動けない、食べれない。もう死んだ方が楽になるのでは?ビニールひもを物干し台に結び付ける。長さは横になると首が締まるくらい。首に紐をかける。呼吸が浅くなる、出来なくなる、出来なくなった。
紐がちぎれる。涙が止まらない。

これはおかしい、けど何がおかしいのか分からない。涙が止まらない。誰か助けて。「自殺」。ネットで調べると、心の健康相談ダイヤルというのがあった。電話をかけると呼び出し音が続く。「プルルルル、プルルルル。」自動音声が流れる。ポチポチと押すと相談員さんに繋がるとの案内が流れた。

「どうされましたか?」女性の声がした。
体が動かなくて、職場に行けないんです。もうこれじゃだめだと思って死のうと思って。首にビニールひもをかけてしまいました。
泣きじゃくりながら言う。

何を言っているのか分からなかっただろうに、さえぎらず聞いてくれた。
そして聞き終わった後、冷静に言った。

「大丈夫?それは病気かもしれないから病院に行った方がいいよ」
私は病気だったのか。
自分で連絡できる?こちらで保健所に連絡しようか?その他にもいろいろとおっしゃっていただいたが、私が理解できたのはそれだけだった。

ちょっと寝れないぐらい、ちょっと体が動かないくらい頑張れば解決できると思っていたし、両親からもそういわれた。だからそういうもんかと思っていた。

でも違うんだな、これは病気の範囲なんだなと、初めて気が付いた。
その後職場と提携している産業医の先生にひとまず見てもらい、薬をもらった。でも効かなくて、地元の病院の精神科の先生に診てもらった。

そうして病名がついた。双極性障害。一生治らない、付き合っていかなければならない病気だと言われた。

結局その職場は退職し、実家に戻った。大変ご迷惑をかけて申し訳なかったと心の底から思っている。ただこれ以上続けられる自信はなかった。

今は薬を飲み続けているので小康状態を保てている。
そして今になってさらに実感する。私が生きていられるのは、あの時、心の健康相談ダイヤルに出てくれた方がいたからだ。

心からのお礼を言いたい。
本当に電話に出てくれてありがとう。私が病気だと教えてくれてありがとう。おかげさまで死にませんでした。

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