全盲の投資家(Chapter1-Section15)
『無知の知』で書きましたが、福祉業界で働く友人がいます。従業員9人以下の小さい会社。今年で18年目。友人には数々の逸話がある。
まず、18年間一度も求人したことがない。
「どうやってスタッフ集めるの?」と聞いたら「勝手にきて、勝手に辞めていく」と言っていた。
ご存知の方もいるでしょう。「放課後等デイサービス」という障害を持つお子さんの学童保育を2014年に友人が始めた。
当時は「児童デイ」と呼ばれ、預かりが基本。精神病棟のように部屋には何もない。
親御さんが、我が子にと絵本や遊び道具をもたせて通所させていた時代だったらしい。
元々友人の事業所は、高齢者の在宅支援と障害を持つ方の居宅支援(家に訪問して主に家事支援を行う)をし、障害を専門にしていた。
彼らの「生きづらさ」を知って、幼少期から関われていたら「生きづらさの軽減ができる」との動機が、児童支援に向かわせたらしい。
「彼らに障害があるんじゃない。社会に障害があるんだ!」が友人の口癖。
区内では後発。友人は「子どもの為に」と私財を投じて、塾のような施設を作った。ミニ図書館を設置。ピアノなどの楽器を揃え、学習支援や調理といったプログラムを取り入れ、「可能性は無限大」を事業のテーマにし、知的障害・ダウン症・多動症・自閉症といった子の支援に情熱を燃やした。
同業者から「あんな頭の悪い子に、何百万の費用をかけるなんてバカじゃないの?」と笑われていた。
他の同業者からも、陰湿な嫌がらせもあった。資金繰りに困窮させようと故意に請求ミスをされた。
そんなイジメもあるんだから「社会って学校の延長だな」と、よく2人で笑った。
従来の「当たり前」に風穴をあけ、塾化した事で差別化が図れ、月延べ利用者数の200名はすぐ埋まった。障害を持つ子どもは一定の割合で存在する。そのパイは競合他社との奪い合いでしかない。
「あんな頭の悪い子に」と発した社長は、次々に支店を立ち上げ、規模の拡大をしたが、友人は「子ども一人一人に向き合いたい」と興味を示さなかった。
事件が起こった。
殻の中に閉じこもり、他者とのコミュニケーションが苦手な自閉症の子に「足し算」を教えたことが学校の教師を驚愕させた。現役教師も出来なかったことをやってのけてしまった。
いつも通り小学校へ迎えに行くと、Queenの「We Will Rock You」のような足踏みが始まり、全校生徒がそれに合わせて「○○〇」コールが起こり、まるで英雄のような扱いを受けたらしい。〇〇〇旋風は、しばらく続いたようだ。
その後も、その子に「引き算」を教え、「ゼロの概念」を教えることに成功している。
「サリバン先生かっ!」とツッコミたくなる話。(*三重苦ヘレン・ケラーを支えた教師)
延べ利用者数100名オーバー。毎日ひっきりなしに鳴る電話に嫌気がさして、コードをひっこ抜いたらしい。
「行列ができる○○なんて、疲れるだけで良いことない」と疲労困憊していた。
その武勇伝の噂で「一緒に働きたい」の打診が次々あったらしい。一方、障害との関わりの難しさに辞めていく人もいたらしい。
それが「勝手にきて、勝手に辞めていく」の話。
「自閉症の子にどう算数を教えたのか?」と尋ねると「24時間考えた。色々試行錯誤した」と言っていた。
子どもときちんと向き合った友人の実績だ。
次に凄いのは「タイムカードが存在しない」こと。ネット上のカレンダーをシフト替わりにして、メンバー全員が閲覧できる(相互監視)ようにした。
タイムカードの勤怠管理に事務員雇って16万の人件費をかけるなら、それをスタッフに回した方がいい。スタッフ一人一人が、遅刻や早退しなければ「タイムカード」は必要ない。それが持論だ。
ボクが子どもの頃、セコムといったホームセキュリティ会社はなかった。二重三重の鍵もなかった。監視カメラも街中になかった。
「安心・安全」を買う時代になった。社会的コストがかかるようになった。「失われた30年」は、信用・信頼を失った30年じゃなかろうか?
次も凄い。他事業所では高齢者が年平均50人死ぬらしい。友人のところは5年に1度。「死なせない」って豪語していた。
他事業者は、金にならないことをせず。業務以外に訪問しない。季節の替わり目に命を落とす確率が高いらしいが、友人は違った。「たまたま通りがかった」と、見守り確認で頻繁に顔を見せ、声かけ、安否確認をしていた。金にはならないが、死亡率が低くなった。
近年、訪問歯科・訪問看護・訪問リハ・栄養士・医師の往診といったサービスが充実し、誰かしらが安否確認しているらしい。
これも凄い。同業者より1.5倍ほどの給与を払っていた。友人はアウトソーシング(業務委託)しなかった。社労士・税理士等の顧問料を払わず自分でやっていた。一人5役こなしていた。18年、連続黒字も頷ける。
介護・福祉業界は、自治体の委託業務。どんなに良いサービスを提供しても、逆に悪いサービスを提供しても、国から貰えるお金は一緒。
友人は利用者本位に考え、利用者の便益を一番にした結果、宣伝一切せずに利用者が増えたと言っていた。広告宣伝費ゼロの会社だ。
友人が支援した利用者の一人に、全盲の投資家がいた。
自分以外の投資家に会うのは、彼が初めて。幸いなことに紹介してくれて何度か話をさせてもらった。
コロナ前に亡くなってしまったが「川端さん」と言った。
若い頃はレントゲン技師をしていたらしい。大病をきかっけに、光を奪われ全盲になった。
人間は情報の8割を視力から得ている。見えないから頼りは耳だけ。
マーケット情報を得ると、座禅を組み思考を巡らせていた。ローソク足チャートや移動平均線を頭の中で思い描いているのだろうか?自分にもこんなマネができるだろうか?
僧侶みたいな方。それが最初に受けた印象でした。
国際情勢について伺うと、物腰柔らかい口調で色々教えてもらえた。その知識は広く博学だった。どこか浮き世離れして、達観してる人に思えた。
質素な家。着てる服も粗末に近く、質素な生活をしていた。そんな中、部屋に飾られた数枚の賞状が目に入った。
それは、ユニセフからの感謝状だった。
ゲスな行為だが、思わず額を数えてしまった。5億の寄付に驚愕!
本物の「すご腕投資家」は、この人のことだろう。