金魚鉢とウルフムーン
大勢の中で感じる孤独
心が引き裂かれそうになった
思春期
トゲトゲで
未熟で
何者でもなく
限りない可能性と
果てのない焦燥感を
抱いていたあの頃
金魚鉢が全てで
ひらめく鮮やかな金魚たち
の中で
黒い鮒だったから
隅にいたの
それなのに
金魚たちは許してくれなかった
つつき
追いかけ
鱗を剥ぎ取った
見える血
見えない血
たくさん流した
ゆらめく水
底から眺めた
金魚鉢からさす光
大きくなって
金魚鉢から飛び出して
うねる川に身を委ねた
あれから
どれだけたったのか
あたしは鮒のまま
泥水の中を泳いでいるの
泥をすすり
ぶよぶよな体
あちらこちらにつく
消えない傷跡
生き延びたあたし
でもね
むしられた鱗は
元に戻らず
(たくさんの傷にまぎれて
目立たなくなったけれど)
たまに
まれに
泥水にしみて
うずく
ひとりぼっちの寂しさは
大勢の中で感じる孤独より
どれだけましか
あたしは
思春期の頃に知ってしまった
泥の河の底から
見上げる夜空
ウルフムーンが揺れる