エッセイ「珈琲店でレモネード」

今日はなんだか出かけたい気分だった。朝から支度をして代々木まで行った。なんで代々木かというと、気になる本屋さんがあったからである。でも、開くのは11時。僕が代々木に着いたのは7時30分。8時から空いているカフェなんてあるのかと思いながら代々木を歩いた。東京の朝。この時間から暑い。汗だくになりながらも、最近手に入れた杖をどや顔で突きながら、爽快に歩く。

少し話し過ぎぐらいがちょうどいいときもある。はじめましての人に対しては。代々木公園駅から徒歩五分ぐらい、その珈琲店はあった。道路にまで店からの陽気な音楽が流れていて、綺麗なお姉さんが切り盛りしている海外のコーヒー屋さん。汗だくの僕にレモネードをおすすめしてくれた。あとで、ドーナツとホットコーヒーも頼もうかと思った。

本を読んでもいいですか、と聞くと、もちろんと返ってきた。いい人だと思った。ちょろい。でもなんだか心が温かくなった。汗だくでここまで来たから、なんだかそこはオアシスのように見えた。赤と白が基調の。

色々な人が来た。海外の人から、優しい顔でロン毛のお兄ちゃん、韓国人の入れ墨カップル。スタイリッシュだなあと思った。お姉さんは英語を話すことができるらしい。すごいなあと思いながら、頬が緩む。こうしてのんびりとゆったりとしているところを感じると、なんだかこっちまで平和な気持ちになってしまう。

お姉さんは、僕に話しかけてくれる。何を読んでいるのか聞かれた。1日10分のときめき、というとんでもなくタイトルがダサい本を読んでいたから、なんだか恥ずかしかった。でも、お姉さんはいいですね、ときめき教えてくださいと言われた。ときめきを探さないといけない宿題が出た。ちょっとめんどくさいと思いながらも、また話せる機会ができたと思って、嬉しかった。

置いてある雑貨も可愛かった。赤と白がトレードマーク。陽気な海外の人が描かれていた。マグカップがいいな。そういえば今の家に彩りがないことに気がついたから、ここで赤を取り入れるのもありだなと思った。

朝ごはんは食べたんですかと聞かれたから、まだですと答えて、ドーナツが食べたいと申し出た。お姉さんはメニューを持ってきてくれて、説明してくれた。もーにんぐせっとがおすすめですと言われて、それにした。780円、安い。けど温かい。ん、安いけど温かいってなんか変だな。まあいいかと思いながら、それにした。

コーヒーは、ほっとこーひーにした。淹れたてを持ってきてくれるらしい。待っているときに、こうしてエッセイをちょこちょこ書いている。洋楽が耳から飛び込んでくる。なんて平和な世界なんだと、深く深呼吸する。

この珈琲店では、挨拶をするらしかった。露店の部分もあるから、通りがかりの人におはようございますとお姉さんは言っていた。いいなと思った。

どこに住んでいるか聞かれた。港区ですと答えた。港区男子、と言われた。なんだか恥ずかしかった。港区はこういう通りすがりの人に話しかけるとかはしないですよねと言われた。そうですねと返した。電車で30分ぐらいかかるんですと答えたら、歩いてですか?と言われた。そんなわけないやろって言いそうになったけど、そんなわけないじゃないですか、と答えた。

お姉さんはきっと、喋り過ぎである。来る人来る人にめっちゃくちゃ話しかける。なんだか無理しているんじゃないかと思うぐらい話しかける。でもきっと、楽しいんだろうな。色々な人と話すことができて、楽しいんだろうな。楽しそうに生きている人を見ると、こっちまで楽しくなってくる。いいな。

9時になったから、そろそろ違うところに移りたくなったのと、背もたれが欲しい気分になったから、店を出た。最後までお姉さんは笑顔で見送ってくれた。他の人と話していたからか、少し寂しそうに見えた。かなりたくさん喋ってくれた。こんな店に出会えて、歩いてよかったと思った。

いってらっしゃいというお別れの言葉だった。いいなと思った。

外に出たら、すごく気持ちが良かった。汗だくになりながら、8時から空いているカフェを探し回っていたから、この珈琲店に来るまでは地獄のような気分だったが、カフェを出た後の爽快感は、空にも届きそうな勢いだった。

お姉さんがレモネードを出してくれてよかった。きっとこの爽快感は、レモネードだ。小さく笑顔を作って、また代々木の街を歩きだした。

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