「まっ直ぐに本を売る」石橋毅史著(苦楽堂)について
この本は、最小規模の出版社を始める人が「書店との直取引」の方法を獲得するための、いわば教科書となることを目指している。本の業界は流通的に出版社・取次・書店という3つの業界を通して一般の人たちに届けられる構造だが、カタチ的には「ひょうたん」のようなもので、およそ3,000社の出版社、20社の取次、13,000店の書店で構成されている。
この本の特徴は、こうした「ひょうたん型」の流通構造の中で、取次を介さず書店と出版社の「直取引」(ちょくとりひき)の方法に焦点を絞っており、その方法を実践しているトランスビューという出版社の紹介が中心になっている。直取引を実践している出版社は、他にも永岡書店、ディスカヴァー・トゥエンティワンなどがあるようだ。
著者は元出版社の営業や出版業界の専門紙の編集記者を経験している方。ちなみに、出版社の営業というのは、書店に電話や訪問で自社の本を紹介し注文をもらう仕事なのだが、普通の営業と違うのは書店の仕入れる本が返本可能であること(いわゆる委託販売)。書店の返本率が6割とか7割と言われている昨今(平均すると40%前後らしいが)、書店で売れた本はその代金を取次と呼ばれる卸が代金を回収代行し、出版社には約半年後に支払うような仕組みになっている。つまり、取次が出版社と書店の間に立って、モノとカネの動き(物流と精算)を管理しているのが主流。通常、出版社と書店双方が取次を利用する理由は、慣習というより便利だからだそうです。
直取引のトランスビューが斬新なのは、その理念が「書店の粗利を増やしたい」ということ。取次を通すと書店の粗利は本の定価の20%ぐらいなのだが、トランスビューの書店の粗利は30%を可能にしている。可能にしている理由は、取次が行っている業務をトランスビューが自前で行っていることもあるが、書店の自発的な仕入れを促していることが大きいと感じた。取次から自動的に送られてくる本を棚に並べる受身の書店が多いなか、書店主が仕入れたい・売りたいと思う本を望む冊数分出来るだけ早く送ることに徹していることが、出版社と書店のウィン・ウィンの関係を感じさせる。ただ、すべての出版社がこれをすると書店はかなり煩雑な業務を強いられるので、「トランスビュー方式」も主流の取次ルートあっての補助ルートと言えなくもない。
トランスビューの理念や流通条件に賛同する小さな出版社がトランスビューに取次業務の代行をお願いしているケースも増えているようで、トランスビューのサイトを見ると130社近くが登録されている。本の中では、ユニークな小さな出版社(ころから・ミシマ社・アスク出版・シグロ・ナムコの絵本事業・バナナブックス・夏葉社)もいくつか紹介されている。また、直取引の書店(大阪の本は人生のおやつです!!・京都の誠光社・NET21)にもインタビューしていてバランスを取っている。
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