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20 平成プロレタリヤ宣言    この母をみよ

この母をみよ

    
    平成のプロレタリヤとは

      私
     母
    働きくらして あすをおもいわずらい
    子をかかえ 賃借にといきをつき
    たちはたらき そのどれもが
    いやしい肉体労働の 馬夫車丁のなりわいの
    いずれかしか 口を糊するすべを
    みつけられなかった この母をみよ

    文をかき文をよめどもみるひとはなく
    およそ意を知るものもない

    それでいて世界へつづく海を
    わたろうとしている
    たらいにのって 補陀落への
     旅路をゆくがごとき
     この不均衡はどうだ

    意気ではあるが 金はなく
    からだはじょうぶだが
    もうだいぶがたがきている
    
     つらなる波頭のひとつひとつを
     すべてめにおさめようとして 海をにらむ
    そんな日々が もうどれくらい
    つづいているだろう

    かもめは知っている
    うみねこは知っている

   こどもたちよ

 肉体をしてただひたむきに 賃料にひさぎ 
その糧を浄財というなら 正しくおまえたちは浄財で育った

  だれかに養われたこともなく 

 のうのうとして時間と金を消費したのではない

    それはおよそ賢い女の ゆく道ではなかった
頭をぶつけ 足をひきずり 
背中におりおり匕首を受け
たふれて血を流すとも 自分の足で立ち 歩いてきた

    そしてこの海と出会った
海を漕ぐ泳力において プロレタリヤはきわだつのだ

    単身にして徒手の 
抜き身の刀をもつでなく 金銀緞子にうもれるでなく
    だれか名のある人のつまでもなく
    そこにあぐらをかくわけにもいかず
 だれかに頭を下げつづけ だれかに力をかりつづけ
    組合もなく 徒党も組まぬ
    そんな生き方の母だとおまえたちは知り
 恥じるでなく 誇るでなく 
たんたんと ただ向きあい
    だきしめられ 思うさまを口にして
あるものはかなえられ その多くは我慢も強いられ
    私という母の血を継いだ 指先や髪を 
    日に日に変化させて 生きてゆくのだ

    この母をみよ
    何ももたず ふるさとをはなれ
    み知らぬ土地の海辺に ひとり身をふせ
    のらねこのように 眼をひからせ
    星と森を恋うる母を
    熔岩の上の 木々をわたる風の
    においを 海にかごうとしている
    この母をみよ

    おまへたちは この母の子にして
    この母を超えている
    おまへたちの 眼にそれがやどっている
    おまへたちのくらしてきた
    日々を彩るものが あのたといようのない
    生きものたちのじかんだったことを

    私は知っている
さなきだに
    プロレタリヤは 土を愛する
    さなきだに
    プロレタリヤは 水に恋うる
    さなきだに
    プロレタリヤは 光に焦がれる
    さなきだに
    プロレタリヤは 木々に泣き咽ぶ

     さなきだに
     おかしき
この
プロレタリヤの
     母である
     ひとをみよ


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