おそのの「不朽の名作映画3選」vol.1〜リトルダンサー〜
第3位「リトルダンサー」
<あらすじ>
1984年、イギリス北部のダラム炭鉱が舞台。労働者階級に生まれた11歳のビリー・エリオットは父にボクシングを習うように命じられるが、偶然目にしたバレエのレッスンに興味を抱く。バレエ教師に才能を見出され、練習を続けるうちにビリーはバレエにのめりこむが、父親には猛反対され…。
周囲の価値観をも覆す
「才能」と「情熱」の強さ
主人公のビリー・エリオットは、どこにでもいそうな、普通の少年である。特に自分から何かを主張することなく生きてきたが、初めて夢中になったものがバレエだった。
とはいえ、バレエは女性が習うものだということは幼心にわかっていて(当時の価値観では)、なんかやめたほうがいいんだろうな〜と思いながらも、うっかり練習してしまっている感じ。彼の精神が変わったわけでもなんでもなくて、ついつい惹かれてやってしまうだけなんだけど、子どもの頃はみんなこんな感じではないだろうか? そう、「うっかり」、特に考えずにやってしまうもの。それこそが情熱を注げるもの。ビリーはそれに出会ってしまったのだろう。
しかも父親はゴリゴリマッチョの炭鉱町の男。「天空の城ラピュタ」でパズーが炭鉱工場でお世話になっていたオヤジみたいな男が、「男の中の男」って時代だったわけです。
最初は内緒で通っていたビリーですが、ある日父親に見つかってしまい、めちゃくちゃ叱られます。本当に、大激怒。私なら秒でやめます。。でもビリーは諦めきれず、こっそり練習を続ける。
で、また練習しているところを見つかってしまうわけですが、ビリーは意を決して父親の前で踊りまくります。このとき絵に描いたような超絶頑固な父親が心を動かされるほどの「才能」を見せつけられ、ついにビリーを応援すると覚悟を決めたのです。ですが、バレエを本気でやるにはお金がかかる。時代は世界恐慌の真っ只中。労働組合員のストライキは日常茶飯事で、さらにビリーの兄はストライキのリーダー。父も一緒にストを行い、警察と衝突を繰り返していた日々でした。ですが、父はストライキをやめて、仕事をしようと決意。その父を見たときの兄の顔っていったら、もう…。父親も辛かったと思います。
人を動かすものってなんだろう
人の心を動かすもの。それは、お金でも名誉でもなんでもなく、その人の「才能」や「情熱」を見せつけられたときなのではないか。芸術家にはなぜパトロンがつくのか?
それはその人の才能に賭けてみたいから。その先を見てみたいからだと思う。
その人の才能が発揮したとき、情熱のままに生きようとしたときの人間は、本当に美しい。そこに対峙してしまったら、自分の価値観を覆されるほどの衝撃が生まれるのだろう。
ちなみに見どころのひとつとして、ラストでビリーが大きくなってバレエダンサーとして舞台に立つシーン。ここで大人のビリーを演じているのが、有名なバレエダンサーであるアダム・クーパー。(ほんの数分での登場です)
ちょうど20年ほど前、自分が大学4年生のとき、マシュー・ボーン監督のバレエ「SWAN LAKE」を観に行った。そのときの主演であり白鳥役がアダム・クーパーだった。
男性のみのバレエという時点でかなり画期的な舞台だったのだが、とにかくアダム・クーパーのオーラたるものよ。エネルギーがすごすぎて、とんでもない衝撃だった。
こんなに感動したバレエは初めてだったし、ちょうど就職活動中でリクルートスーツで観に行った記憶があるのだが、改めて「エンターテインメント業界で働きたい」と思えた瞬間。体ひとつでこれだけ感動を与えられるバレエのすごさ、そして、人間の表現力ってなんて素晴らしいんだろう、と感銘を受けた作品です。
そのアダム・クーパーが出演している、という点でも心に残る映画となりました。
きっとビリーの心からの情熱がなければ、父親に怒られて、諦めてそれで終わり。
芯が強い云々ではなく、どうしようもなく惹かれるものに出会った瞬間は、誰でも強くなるかもしれない。そのパワーを目の当たりにした瞬間、まわりもエネルギーもすべてが動き出す。そんな「どうしようもないものに突き動かされる“何か”」をとても微細に描いた作品。本当に名作です。