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ソノコ【chapter62】

窓の外に風はなく、洗濯物は行儀良く並び、健やかに太陽を浴びている。

ソノコはしばらく空と雲を見つめ、そして、床の上に置かれた掃除機のノズルを見つめる。

掃除機をかけ終えたら、土台を焼こうと思う。

九州産の小麦粉をインターネットで買った。一度試し焼きをしてみたところ、フワフワと軽やかでありながら、なめらかでしっとりと喉ごしの良いスポンジが焼けた。噂通りだと、ソノコは踵を上下させ小躍りした。

オーブンの温度を下げても、焼き時間を短くしても微かなパサつきが気になり、試行錯誤しながら調べた結果、九州産の小麦粉は、その問題点を解決すべく湿度を含むことを知った。

「うまい。なんかいつもと違うな」

笑みなく頬張ったリョウの表情を見つめ、ソノコは嬉しくなった。

バースデー、やっぱりB。

「ごちそうとかいらない、なんならいつものカレーでいい。うまいケーキが食べたい。山ほどフルーツがのったのを、切らずに、そのままフォークを刺して山ほど食べるのが、子供の頃から夢だった」

明日のリョウの誕生日には、フルーツをふんだんにのせた、真っ白なケーキを作ろうと、ソノコは思う。

今日、土台を焼き一晩寝かせれば、九州産の小麦粉はそのポテンシャルを存分に発揮し、しっとりと美味しいケーキに仕上がるだろう。

ストロベリー、ピオーネ、グレープフルーツのルビーとホワイト。キウイフルーツは、

「食べたあと口の中がジャミジャミする」

と、分かるような分からないような表現で、苦い顔をしていた。

変わりにシャインマスカットをのせれば、白に映え、凛としてさぞかし美しいだろう。

ザクロ、無花果、文旦、ブルーベリー。

掃除機をかけながら、床の木目を見つめ、色とりどりのフルーツに思いを馳せれば、胃痛は遠くなりソノコの心は踊る。

最後にミントを茎ごと草原のように散らす。銀色の細かなアラザンを降らせれば、まるでクリスマスケーキのように華やかだと思う。


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