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歌人へのプチ★しるべ        松平盟子『天の砂』(2010)     砂子屋書房

2001の米国の9.11に端を発したアフガニスタン・イラク攻撃、その後の止められないテロの連鎖、そして未だ終結を見ない現在のウクライナ侵攻、ガザの空爆—―タイトルの「天の砂」は世界の混迷のはじまりにあって、松平自身も変化を余儀なくされた〈揺れ〉が色濃く滲む移行期の第九歌集である。
1999年から2003年までの作品を収録。作品はこれまでの歌集とは異なった趣を見せる。

「一連は全体に終末観的な雰囲気が漂っているが、ひりひりするような傷みの実感が当時のわたしに抜きがたくあったのを思い出す。もしかしたら、天から限りなく降り注ぐ砂によって真夏の東京がすべて覆い尽くされる、イメージとも妄想ともつかぬものに支配されていたのかもしれない」「わたしは多分ここで一度、東京を殺したのだろう」(あとがきより)

四十代半ばを獣道にたとえ、手斧を手に夜の闇を切り裂いてひとり分け入ってゆく歌、「ゆううつなわたし」を覆い隠す雪が「わたし」をリセットし、それを見つめるもうひとりのわたしが含み笑いをしている歌、羽田沖へとゆっくり押されていく水の流れに自らを重ね、銀色に輝く橋のしなやかな曲線をわたっていく歌、先行きの見えない〈揺れ〉の中で不安を抱きながらも作者は強靭な鋼のごとく強い意思によって、しなやかで美しいことばを纏い、新たな一歩を踏み出してゆくのである。

『天の砂』(2010)松平盟子 砂子屋書房 

★書影は砂子屋書房さまの許可を得て、利用させていただいています。

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