再会の日。嬉しい気持ちが回る。
自分のためというよりも、子供たち、そして仕事先の2年生の子供たちのために首を長くして待っていた日がついに来た。1ヶ月ほど前までは、このまま夏休みに入っても仕方がないのかもしれない、なんて思っていたのに、一度減り始めると感染者数の減少は随分と速くて、夏休みまで残り二週間のタイミングで通常授業が再開されることになった。そのニュースが出たのが先週、そして、いつになるかいつになるかと思っていた日は最後はあっけないほど早くやって来た。半年間続いた同僚と私とで、どうしても毎日学童が必要な10数人の子供たちの保育を分担するのも昨日で最後。「明日はちょっと早く来ましょう!きっといろんなことが久しぶりでアタフタするわ。」なんて言いながら小さなグループでとる最後の食事の支度を一緒にした。
今日もここ数日続く夏日で、こんな日に久しぶりにクラス全員が集合するのは嬉しいだろうな!と思うようなお天気。子供たちをそれぞれの学校に送り出して、朝の家事や事務作業をどこかソワソワしながら終えて、出かける支度をした。さっきまとめてアイロンをかけた夏物のシャツの中からアロハっぽい赤いのを選んで、これにはいつもの小さなピンクの亀のネックレスは合わないかな?と思って金色の細いチェーンのネックレスをつけてみたけど、私にとってお守りのように大事なその小さな亀のネックレスを初めて職場につけて行った日、その日は今のクラスの子たちと初めましての日でもあって、チェーンが外れていつの間にか落ちていた小さな亀を探してオロオロしていたら、一人の女の子が、「これ?探しているの?」と手に持っていたのを差し出してくれたことを思い出した。そのちょっと手のかかる甘えん坊な、でも大人に自分の気持ちを伝えることがとても上手な子とも今日は半年ぶりの再会になる、と思ったら、やっぱり亀の方がいい気がしてつけ替えた。
学校の近くのバス停でバスを降りながら、ああ、みんな戻って来たんだな!と思ったら、胸がじんとした。大袈裟だろうか?でも、ずっと学童に来てた子たちも、友達に会えず家で長い時間過ごしていた子たちも、我慢していたのを知っているし、分散登校になってから同じクラスの友達なのに校庭で会っても立ち止まって話したり遊んだりすることは禁止というルールでいつも引き離されていたから、皆が再会して一つの部屋に集まれる日が来たことが、本当に嬉しかった。幼稚園から高校までの生徒の出入りが今日から2倍になって、遠目からでも学校の周りが賑やかなのがわかる。「おかえりなさい!」と心の中で叫びながら、いつものように道路脇の緑に目を奪われつつ、私たちの学童の建物に向かう。
着くと、同僚が食事のテーブルに置く名札を用意していた。少しでも特別な日はいつもそうなるように、ピリピリとしているのが見ただけでわかったから、挨拶もそこそこに今日の配膳や片付けの当番の子の名前を早口で告げられてもあまり驚かなかった。当番だか座席だか、誰かと誰かを交換すると言っていたけど、よく聞き取れなかった。今日はいつもより15分早く食事にしたい、ということはわかった。そんな機嫌の悪い早口で話さなくてもいいのに、とちらっと思ったけど、同僚のこういう時のピリピリには慣れているし、いつも同じようなテンションの自分は逆に、いつも同じようでいるということで誰かをイライラさせてることもあるかもしれない。それにこんなとこもひっくるめて彼女のことが好きなんだ、お互いさま、と思って、でも、食事の用意が遅れてこれ以上ピリピリ度が上がって欲しくはないから、忘れかけていたルーティンをスピードを落とさずと辿っていくことに集中する。興奮しているだろうな、と思っていた子供たちは、思いの外落ち着いていた。三十人が同時に食事をするにあたって、大きな声を出さないとか隣のテーブルの人と話さないとか、同僚が作った新しいルールもちゃんと聞いて守ろうとしていた。嬉しそうにしながらも、半年会わない間に随分と聞き分けがよくなっていたことに感心した。
みんな帰って来た。そして私も今日から、学童保育自体を分担する立場から給食のヘルパーという自分の通常業務に戻った。でも一人で子どもたちの相手をして来た時間でできた子どもたちとの関係、そしてそんな関係を作っていく中で何度かつまずきながら少し大きくなった自分自身への信頼もあって、いつもよりわいわいとなった食事の時間も落ち着いていられた。
一通り仕事を終えて外に出ると、広い学校の敷地全体が、散らばる建物や行き交う子供たち大人たちとを包んで、でも開かれて、大きく呼吸しているような感じがした。風が通るようになって、呼吸が戻って来たような感じ。
そんな余韻に浸りながら、これまた半年ぶりの下校時の混み合うバスに乗る。あっという間に家の側についた。そこから家までの間にも小学校があって、強い日差しにうつむき加減で、涼しい家を目指して早足で歩いていたら、くるくると踊るように走り回る子供の足がたくさん見えた。カラカラに乾いたアスファルトから照り返す暑さも気にせず、嬉しそうに動き回っていた。そんな様子を少し遠巻きに見守る大人たち。隣のピザ屋のテラスでピザを頬張る親子連れ。再会の喜びと嬉しさがあちこちでくるくると回っているようだった。
校門の前までくると、少し大きな子供たちが肘をぶつけ合う挨拶を交わしながら「また明日な!」「おう!」みたいなやりとりをしていた。ちょっと太くなり始めた声。肘の挨拶が随分と浸透していることに少し驚き、彼らの真面目さに感心。そして、息子と同じようにティーンの男子感満載の全身スポーツブランドの黒ずくめのもさっと暑苦しい格好と、「また明日な!」「おう!」だけの短いやりとりから伝わってくる、今日会えて明日も会えて嬉しいという単純でどこか爽やかな嬉しさとのギャップが微笑ましかった。
家に入って、半分用意してあった昼食を温めた。息子が食べている間、前に座って、さっきの男子二人組を思い出しながら、「ねえ、今日からみんな学校に来て、嬉しかった?」と聞いたら、「ああ、普通。結構うるさかった。」と、エモーションゼロの返事がボソっと出て来たけど、そんな年頃だから、気にしない。またロックダウンや自宅学習が戻って来てしまう日が来るのかもしれないけど、今日の嬉しい気持ちはすぐには消えてしまわないだろうから、そんな日が来ても、またしばらく頑張れるよね、そんなとき、今日の嬉しさがきっと力になってくれる、と思った。プレゼントのような1日、今日の再会の嬉しさを、大切にしたいし、大切にしてほしい。