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鬼滅の刃と私の4年間

2020年12月4日に鬼滅の刃の最終巻が発売されました。
仕事を終えて近所の書店に買いに長蛇の列に並んだとき、ふと第一話が掲載されたときを思い出しました。
(このあと結末を含む多くのネタバレと個人的な解釈があります)

鬼滅の刃の第一話が掲載されたのは2016年11号(2月15日)でした。この当時、私は美術大学4年生で卒業目前でした。私の大学では卒業論文の代わりの卒業制作(論文の代わりに美術作品をつくります)が終わり、卒業展示や卒業画集の作成(当時は卒業画集委員もやっていました)それに就職の準備など忙しく過ごしていた記憶があります。
そんな中、月曜の朝に電子版の週刊少年ジャンプを購読し、衝撃が走りました。鬼滅の刃 第一話が掲載されていたのです。

この時、私は「この漫画はジャンプを変える」と確信していました。それは今までのジャンプにとって新しくもあり、懐かしい部分も持つ独特な世界観を持っていたからです。絵柄や鬼に対しての厳しさは昭和の名作の雰囲気も持ちつつ、楽な方へ行かず厳しい道を歩む主人公の物語をあえて現代の読者にぶつける作者と編集部の覚悟を感じました。これからの時代に向けて変わっていく姿勢を感じたんです。
これはとてつもない新作が来たぞ! と思い友人に勧めましたが、当時は独特な絵柄やストーリーに馴染みがなく、「ちょっと苦手…」と言われることが多くありました。(個人的に)衝撃的だった1話から2話以降は修行編に入ったこともあり、進んでいるかわからないようなペースに読みにくさを感じた人も多かったのかもしれません。連載初期は掲載順位が真ん中かちょっと下にいたこともあり、打ち切られないかヒヤヒヤして読者アンケートをコメント付きで積極的に送り、少なかったグッズも購入していました。

当時、なにが私をそこまで引き付けたのか、それは主人公 炭治郎と禰豆子の強さと併せ持った弱さにあると思いました。
炭治郎は決して強い主人公ではありませんでした。ちょっと鼻が利いて石頭な少年でした。しかし大切なものを守るためには鬼にも立ち向かうし、努力を重ねていくのです。怖い、でも戦わなければ! と敵に向かっていく姿に就職を控えた自分を重ねていたのかもしれません。

世の中にはさまざまな不条理があります。鬼滅の刃では鬼でしたが、現実には形を変えて今もそこにたたずんでいます。その不条理に対してどう立ち向かうのか、鬼滅の刃ではさまざまな方法で立ち向かう剣士を描いていました。

竈門炭治郎は長男という変えられない出自を理由のない根拠にして不条理に立ち向かっていました。「長男だから我慢できた」というセリフは家父長的なものではなく、不条理に対して不条理で戦い自分を鼓舞している描写でした。

蝶柱の胡蝶しのぶは両親や姉、弟子を鬼に殺され、自身は腕力が弱いことを悩んでいました。そこで戦い方を変え、鬼に効く毒を開発し柱まで上り詰めることができました。もっと私に上背があったら、悲鳴嶼さんのようにたくましい体であったら、と憧れる気持ちにとても共感していました。私も決して腕力は強くなく、それがゆえに被害にあうことが少なくなかったです。そんな不利な状態の中、救護に回ることも選択肢にあったにもかかわらず戦うことを選択し、戦い方を考えていったしのぶさんの過去を思うと強さに裏打ちされた努力と迷いの深さに胸を締め付けられました。

恋柱 甘露寺蜜璃は家族が鬼の犠牲になったわけではない、いわゆる普通の女性でした。しかし胡蝶しのぶとは対照的に常人離れした力に悩みを持っていました。お見合い相手の男性に奇抜な髪色や驚異的な腕力に引かれてしまい、「結婚して家庭を持つことが私にとって幸せなのだろうか?」「もっと自分らしく生きられる場所はあるんじゃないか?」と悩み行き着いた先が鬼殺隊でした。そこで初めて自分の特性を活かして生きていく自信が身についたのです。過剰な女性らしさに不快に思う方もいましたが、彼女の生き様を知ったとき、どこか共感できる部分もあるのではないでしょうか。

珠世は鬼舞辻無惨に鬼にされてしまったあと、自分の夫と子供を食い失意の中、無惨に利用され続けた人でした。無惨の呪いによる支配もあり従順せざるを得ない状況の中、始まりの呼吸の剣士によって救われたのです。呪いから解放された珠世は無惨への復讐に生きていきました。長い間息をひそめ生活し、人を食わずに済むよう研究を重ね最終決戦へ進んだ彼女の姿は、行き着く先は地獄でも過去の過ちを清算する覚悟に満ちていて、贖罪から逃げない姿勢に凄まじさを感じました。

竈門禰豆子は1話以降、幼児化しており「鬼になった影響かな?」と思っていましたが、物語の終盤に幼児化の原因が家族を目の前で殺されたことによるトラウマであったことがわかります。そう考えるととても自然なことでした。そしてトラウマから回復することに多くの時間がかかり、さまざまな人との交流を通して自分を取り戻していきます。強かでありトラウマと戦うヒロインでもあった禰豆子にも読者に希望の存在として見えたと思います。

振り返ると長くもあっという間の4年間でした。連載初期から完結までに私も新卒でブラック企業に就職し転職を繰り返しさまざまな経験を積んできたことに気が付きます。楽しいこともつらいこともたくさんありました。
そんな中、なんとかここまでやってこれたのは鬼滅の刃という楽しみもあってだと思っています。毎週、次はどんな展開になるのかとドキドキし、加速していく面白さに唸り、キャラクターの生き様に泣き、生き様に思いを馳せては二面三面もある感情の変化を味わってきました。物語のキャラクターに自分を重ねたり、または比較したりしながら楽しんできました。これまでつらいことを乗り越えられたのもこの漫画があったからといっても過言ではないです。
きっと初めから読み返した時、また違ったところを見つけられるでしょう。鬼滅の刃はそういった何重もの楽しさがある漫画です。

この漫画を描いてくださった吾峠呼世晴先生やジャンプ編集部に感謝を申し上げます。鬼滅の刃はとても楽しい漫画でした。またこれ以外にも面白い漫画はたくさんあります。これからも楽しい作品をもっと探して読んでいきたいです。

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