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あざとい女
気持ちが悪かった。
久しぶりに電車に乗った。男友達と飲みに行った帰りだった。電車に乗るのが非日常だという感覚が、気持ち悪かった。私は、それほどまでに外に出ない生活を送っていたということを、今の初めて自覚した。
今夜は、新宿二丁目のゲイバーとメイド喫茶に行った。大いに酒を飲んだ。
でも、そんな日常から掛け離れた異世界よりも、この電車の方が異世界だと感じられた。
私は、学生の頃聴いていたビートルズなんかの洋楽を聴きながら、友達の家に泊めてもらおうかと、酔いが回ったボケた頭で考えたりした。山手線が音を立てて揺れた。
仕事を辞めてから、引きこもっていた。
時々男と遊ぶ時だけ無駄に元気だった。
あざとい女になれば、チヤホヤされて幸せに生きられるような気がして、ネットで、あざと可愛い女、と検索したこともある。
でも、別に私はあざとい女になりたくはないのだと後で気づいた。一緒に飲みに行く男と付き合う気もなければ、セックスする気もなかった。
何のためにあざとくなるのか、知ったこっちゃなかった。
男に愛されていれば、チヤホヤされていれば、幸せなのかといえば、そんな事なかった。
家に帰ってから、溜息が漏れた。二日酔いのムカついた胃にムカつきながら、昼過ぎに起き、寝ぼけ眼をこする自分を鏡で見て、吐きそうになる。
こんな時間に起きて、今日も予定がない。暇だ。有り余る時間と底をつきそうな貯金に首を絞められ、働け、働け、と自分に言い聞かせる。
分かっている。
バカみたいに男と酒を飲んで、やたら肩や腹の出た服を着て、ボディタッチをして、くだらない事で笑う。
何も生み出さない、心の隙間を埋める作業。
私、何してるんだろう。
そんな事を考えないように、また酒を煽る。
ゲイバーのゲイが、何でここに来たの?と尋ねてきた。
-悩みがあって、ここなら聞いてくれるかなって
-何の悩み?
-仕事とか
-そんなのここで聞きたくないわ。男ならまだしも
確かにそうだ。私は何を甘えてるんだろう。
-あの子とはどういう関係なの?
そう尋ねたのはゲイのあかりちゃんだ。
-ただの友達だよ
-え〜本当?何で今日一緒に来たの?
-誘われただけ
-へぇ〜、本当に何とも思ってないの?
-うん、友達だから。あと、私、彼氏いるし
-あら、いるの?うそぉ〜信じらんない〜
あかりちゃんは正しい。本当は彼氏なんていない。ただ、男が私に求める姿を演じているだけだ。
ニコニコ笑って、足や肩を露出、胸元をチラ見せし、酔ったふりをしてボディタッチする。
彼氏はいるけど、いつももう別れるつもり。
ちょっとのことでも面白くて大笑いするし、冗談ばかり言って楽しいし、あなたのことは正直特別かっこいいと思ってる。
大抵の男は、ごはんもお酒も奢ってくれる。
これってあざといの?
だって、それを求めてるのはそっちでしょ?
なんてね。本当はわかってる。求められてるからあざとくしてるんじゃなくて、あざとさの見返りを求めてるだけなんだって。物足りなさと自分の不甲斐なさを、誤魔化そうとしているだけなんだって。
本当は、かっこいいキャリアウーマンになりたかった。
あざといことを繰り返す無意味さで、私はまた働く気を失う。
あざとい女、やめちゃっていいの?
補いきれない自尊心が、私に囁く。