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噛み合わない意地とプライドと強がりと諦めと



「仕事3日間ぐらい休めないかしら?」

妻から突然そう言われてイラッとした。飲食業は、信用が大切だ。それのでもコロナ禍の中で売り上げが不安定なのにどうしてそういうことを突然言えるんだろう。世の中は何かを犠牲にしないと大変な思いをしないと報われないのだ。

「休めるわけがないやろう。何を考えてるんや」

苛立ちも重なってそう返した。何も分かってない。抜け抜けと良くもそんなことが言えるもんだ。そんな簡単に休めないって聞くぐらいだから俺の頑張りもきっと分かってないんだろうな。イライラは募るばかりだだ。俺のことなんて今までの俺の努力なんて何も分かってない。どれだけ俺が犠牲にしてきたのか……子供の時から今までどれだけ自分を犠牲に……それなのに何も報われない。俺の犠牲はなんだったんだろう。

もしかするとその休んだ日も俺のことを慕ってくれるお客さんが来るかもしれないのにそんな簡単に休めるわけがないだろう。そう思うとイライラして色々言わずにはいられなかった。酒に飲まれるタイプではないけどイライラが募って言葉が湯水のように出てきた。これだけ連れ添って来たのにコイツは何もわかってない。

数日後、どう切り出すか悩んだようにまた妻から休みについて言われた

「来月の3週目金曜から日曜まで休めないかって陽子がいうのよ。沖縄に旅行に行かないかって」

この前の話はこのことだったのか。どうしてそう先に言わないのだろう。それなら話が違うのに。イライラがまたつのる。俺がこの前断ったのにそれを覆していいというのは癪に触る。本当にイライラする、いつでもそうだ。大切なことの順番がわかっていないのだろうか。

「予約の関係があるみたいだから早く決めてほしいって言ってるんだけど私行きたいの。おやすみどうしても取れない?私親子で一緒に旅行行きたい。」

そう言われたら仕方ない。俺も行きたくないわけじゃない。でもそのまま行くというのもカッコ悪い気がして一旦答えを保留する。明日の朝か今日の夜かに休みを取るといえばいいか。俺は仕事を犠牲にしてその旅に出かけるのだ。娘からのプレゼントを受け取ってやるのだ。

「分かった。仕方ないな。調整してどうにかするから少し待て」



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陽子から連絡があって仕事3日ぐらい休めないかと言われた。

うちの旦那はどうにも扱いづらい。歳を取るごとに偏屈になって自分はお山の大将気分。いつも怒っているのでよく娘は『父さんはどうしていつも怒ってるの?』『それで人生楽しいんだろうか?』と私に聞いてくる。娘も彼とそう言うことを話すのは嫌なんだろう。

彼は自分自身のことがわかってない。わかってもらおうと努力もしたが彼に受け入れるつもりはないどころかどんどん偏屈になっていく。自信のなさから来る強がりなのかただの偏屈なのかわからないが妻としては付き合っていくしかない。

「仕事3日ぐらい休めないかしら?」

そう切り出すと案の定怒り始めた。もちろん答えはNOだろう。わかってはいるものの怒り始めるともう自分が止められない夫の話を聞き流す。彼の怒りは他人に向いてるようで結局自分自身に向いてることを彼自身が理解できてない。可哀想な人だけれど付き合っていくしかない。私も今更何かを治せと言われても直すことができないし。

陽子におやすみを断れられた旨を伝える。『どうして休み3日なの?』とラインで聞くと『旅行に行こうと思ってたの。でも無理して休むもんじゃないからいいよ。』と答えた。今まで旅行のプレゼントはしてもらっていたがいつか一緒に行きたいと思っていた。旅行ならあの人も話が違う。『もう少し待って』と打ち返す。そして考える。あの人にこの前お休みの話をしたばかりだからすぐにその話をするときっと行きたくても断るはず。時間を見計らってもう一度話をしよう。

意を決して旦那に話す。最近旦那は酒に飲まれる。飲み始めるとわかってちゃんになって自分のことばかり。まだ飲んでないしあの人も行きたいはずだから上手に一気に話を持っていかないと。。。すぐ口を挟んで断ってくるはずだから……

「来月の3週目金曜から日曜まで休めないかって陽子がいうのよ。沖縄に旅行に行かないかって。予約の関係があるみたいだから早くてるんだけど私行きたいの。おやすみどうしても取れない?私親子で一緒に旅行行きたい。」

少し時間が経った。きっと前回断った上に色々言ったから引っ込みがつかないんだろう。それでも旦那は行きたいはずだ。さてどうでるか。

「分かった。仕方ないな。調整してどうにかするから少し待て」

この後やってくる答えは間違いなくOKだろう。一安心して先に陽子にラインを打つ。『お父さん行くって。よろしくお願いします』案の定少し時間が経ってから休む話になった。作戦成功だ。


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親孝行をするなら旅行と決めていた。妹が冥土に行ってしまってからいつも見るのが沖縄の家族旅行。だから行き先も沖縄と決めていた。

父は自分の考えが正しいと信じてやまない人でそれを押し付けるタイプだ。そのため私は小さい頃から自分の希望を言うことができなかった。希望を言うと否定されその希望側には大きな壁が作られる。だから言うことすらめんどくさかった。母は父に何を言われても耐えていた。今となっては母の人間としての偉大さを感じるがその頃はどうして反論しないのだろうと思っていた。きっと母も私と同じ気持ちだったのだろう。

母に『仕事3日ぐらい休めない?』とLINEした。結果撃沈した。『どうして3日なの?』と帰ってきた。

無理矢理休みを取っていくのは違うと思った。休みが取れるなら旅行に行かないか?と誘いたかった。誘われたから仕方ないと言う気持ちで言ってほしくなかった。私の中では妹の気持ちもこもった大切な旅行だった。父は休みだけ切り出されるときっと断るだろうと思っていた。だけどそう言うところを直して欲しかった。誰かにお願いされないと楽しいことができないその強がりもそして母に対する態度も少しづつでいいから気づいて直して欲しかった。

『旅行に行こうと思ってたの。でも無理して休むもんじゃないからいいよ。』そう答えた。休めないと言った父の母に対する態度が思い浮かび少しイライラしてた。『もう少し待って』と母から返信が来た。

今回のこの運びで一番辛いのは母だろう。でも母と一緒に父に立ち向かいたかった。矢面に立たせてることを申し訳なく思いつつただ時間が流れ答えが来るのを3週間まった。予約の時間が迫って流石に母に連絡した。『おやすみどうだった?』すると母はまだ聞いてないようだった。『予約の期限があるからそろそろ聞いてもらえないかな?無理ならいいよ。』そう言った。『そんなこと言わないで。ちょっと待って』と帰ってきた。母と父の現在の関係が私の思ったのと少し違うことを実感する。その後連絡があった。『お父さん行くって。お願いします。』

お願いします。の言葉が重かった。申し訳ないのとどうにもしてあげられないのともっと堂々として欲しかったのと。予約をしながら母ともう少したくさん連絡を取ろうと思った。母は一人とても寂しさと戦ってるのかもしれないと思った。


このお話は旅行こちらの文章の中の一つの出来事をそれぞれの目線で書いたものです。よろしければこちらもご覧ください!


#旅 #親孝行 #エッセイ  

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