「下宿」(立命短歌9号)
「下宿」
サロンパス疎らに床に丸まりてあと千年はそのままである
ライターがやうやくついて即ちに気づく腐臭の下宿にゐると
出窓よりナイフを握る人見えてわたくしの五指や歯を確かむる
ゲーミングチェアーの組み立てられしとき身ぬちの霧ぞ母あらはるる
外套の中の手帳の夜もすがら煙草臭さに包まれてゐる
デスクワゴンと床のあはひの暗がりに濡れ耳掻きの白いふはふは
モンスターエナジー・ZONe・レッドブル積まれ机は華やかな壇
噛み切りし七つの爪を左手に取り纏めたる夜のただなか
ガチャポンの抜け殻だけを入れてゐる函ひさかたの都と思ふ
白壁を這ふアダンソンハエトリのいづれ『檸檬』に辿り着くかな
獅子鼻の女の写真収めたる抽斗母でも恋人でもない
加湿器の水を湛へて水を吐きやがて我が身の水吸ひ込める
※「立命短歌 第9号」より転載