「ひかりに群がる」(立命短歌10号)
「ひかりに群がる」
自動販売機のひかりに群がる蛾、ここで前世の我が翅は裂け
酒よ、将来、吾を枯らしむや、寒き夜を、身体、火照りを脱ぎながら進む
舌打ちす 自我とは何か掴めぬまま就職先のビルに降る雨
われわれの先祖にひとりぐらゐ居るスマートフォンを抱き眠るひと
いくらでも待つな 海月の関節がすべて錆びきるぐらいまで待て
まどろみと睡臥と夢を行き来する縄を失くして寝返りを打つ
雨を打つ雨「あらゆる抒情を否定しろ あらゆる抒情は大体キモい」
造花よりあえかなる火の匂ひせる夜の暑さに蠅蒸されをり
風邪の日のあれは私の天使の輪 丸い蛍光灯見上げゐて
頬杖の大袈裟な汝 何らかの肖像画でもたぶん真似して
拉麺の海苔の四角のふやけたるやうな老夫になりたくはなし
ある門をひらけば先に轢死せる我ゐてそつと扉を閉ぢぬ
※「立命短歌 第10号」より転載