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【連載】花と風葬 6

 「…もう一度、福井一家殺人事件に関して取り調べをしていただけませんか。いえ、むしろ俺にさせてください」
少し息を切らしながら俺は受け付けの事務員に言った。
「あの…どちら様でしょうか…」
「当時の担当を呼んでくれ」
「あのぉ…」
相手が言い終わらないうちに俺は口を開いた。名乗る余裕もなかった。早く妻のことを知りたい。あの事件の真相を知りたい。

 「で、あなた、わざわざ東京から仕事すっぽかしてきたんですか」
「仕事なんてないですよ」
「え、じゃあどうやって…」
「…さあ何でしょうか」
たまにするバイトと殺したやつの懐からなんて口が裂けても言えない。
「…まぁ、本題に入りましょう。あなた、何でもう一度掘り返そうなんて思ったんですか。実を言うとその事件、もう全然分かんないから捜査打ち切り同然状態だったんですよ」
「いいです。俺が突き止めます」
「そうですか…」
この担当は話が早くて助かる。
 俺は殺風景な資料室へと案内された。
 今でも愛している。恋している。そんな人のそんな姿、もう二度と見たくなかった。何にも知らないふりをしたかった。欲を言えばふりでもなく、知りたくなかった。もっと言えば、そんなこと無かったら良かったのに。あの女は何を知っているのだろう。何をしたいのだろう。それはわからない。でも俺の歯車はそれをモーターに動き出した。俺はこれであっているよな。これで良いよな。
 なぁ。
 遺体の首には縄の跡があった。ただ、どれも足が切断されているので、自殺ではないのであろうへ。それだけでも俺は安心すべきなのだろうか。
「あの」
担当に呼びかけられた。俺が彼の方を向くと、そいつは驚くべきことを俺に言った。
「奥さんから、手紙、預かっているんです。本当は捜査の割と初期の方で発見されていたのですが、そこに、『私がもしも死んで、夫がそのことについて再びここに訪れたなら、これを渡して』と書いてありまして」
驚きと同時に、ここで一つの疑問が浮かぶ。
『妻は自分が近いうちに殺されることを知っていた』のか『これは他殺と見せかけた自殺』なのか。どちらにせよ新たな疑問が浮かぶだけだ、元になんて戻らないのだ。
 手紙にはこう書いてあった。
『許さない』
殴り書いてあった。その瞬間、喉から何かが込み上げてきて、口の中が少し酸っぱくなったような気がした。
 
 どうして。
「そうだよ。僕は」
どうして。
「こんなに君を」
どうして。
「愛していたのに」
どうして。
「君に愛されたかったのに」
どうして。
「ねぇ。どうして」

 やっぱりこんなことやめておけばよかったのだ。

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