Phrase Plus 5 『音楽チャートランドセル』

月曜日のある日、僕は憂鬱を背負ってバイトへと出かけた。時間は朝の八時。朝から晩までこき使われるのだ。けれど生きていくため、音楽をやるためには仕方ないのだ。努力は買ってでもしろなんて言うけど、僕はゴメンだ。金が無さすぎるから。
僕が憂鬱を背負っている中、小学生たちはランドセルを背負っていた。赤、黒、青、紺、ピンク。様々な色の塊を背中にくっつけて楽しそうに談笑しながら登校していた。彼らはいいよな。労働していないんだから。これから地獄が待ってるぞ。
僕はぼんやりと歩いていた。ふと前を見ると赤色のランドセルには折れ線グラフがあった。折れ線グラフにはタイトルがあり、有名なアーティスト名が書かれていた。そして縦軸には数字が、横軸に年数があり、右肩上がりだった。変なランドセルだ。声をかけようと思ったけど、明らかに不審者になりそうだったのでやめた。

火曜日になっても変わらない。そう、労働だ。音楽の合間に労働というよりかは、労働の合間に音楽やっている。相も変わらず八時だ。昨日のランドセルの子が気になったけど、顔も覚えていないし赤色のランドセルということしか情報がなかったので探すのは諦めた。イヤホンで聴く音楽を選んで、再生を押した。そして前を向くとそのランドセルがあった。
「あ!」
思わず僕は大きな声を出したけど、彼女らは見向きもせずに話に花を咲かせていた。僕はまた目を凝らして折れ線グラフを見てみた。アーティスト名が変わっていた。僕の聞いたことないようなアーティストになっていた。調べてみると、動画投稿サイトでオリジナルソングを作っている男性がでてきた。彼の折れ線グラフは3年後に大幅に上がっている。毎度違うアーティストを折れ線グラフにしているのだろうか。真相は謎のままだったけど、やっぱり声はかけなかった。

水曜になった。残念だけど今日は遅番のため八時ではない。だからあのランドセルを見ることは出来ない。明日に期待しよう。

木曜日になった。僕は労働しに行くというよりも、ランドセルを見に行った。明らかに挙動不審に周りを見渡して赤色のランドセルを探した。中々見つからない。僕は気を取り直して音楽を再生させた。この前と同じく、前を向くとまた赤いランドセルがあった。さっきまでなかったはずなのだ。アーティスト名には先程再生した僕の大好きなアーティスト名が書いてあった。彼の折れ線グラフは去年を境にして一気に右肩上がりになっている。そう、去年彼は大ブレイクを果たしたのだ。今年のグラフも去年と同じくらいをキープし、来年になると少し下がっている。
そうかこれはアーティストの人気度を表しているのだ。来年、彼らは下火になってしまうのだ。
僕の名前がこのランドセルにも出てほしいものだ。

金曜日になった。特に予定はないけれど、ランドセル見たさに朝八時に散歩へと出かけた。
音楽をかけて歩いていると、赤色ランドセルの少女がやはり突然現れた。
そこには僕の名前が書かれていた。
「え!」
僕の折れ線グラフは酷いもので、ずっと最底辺にあった。しかし、再来年になって一気に上がっている。縦になっているレベルだ。
てことはつまり、再来年僕は…。






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