桜の木を折る時
先輩が卒業した。共に撮った写真を見返すと、色々と馬鹿をした日々が脳裏に蘇った。そして学校に登校する度、彼らの不在を僕はどうにも心に蟠りを感じてしまうのだ。僕が最上級生となっている、この事実も認めることが中々出来ずにいた。先輩と共にいるのは、甘えられたし何かと楽であった。先輩は僕には無いものを持っていて、違った面白さがあったのだ。
僕はいよいよ大学に受験だ。僕にその困難な茨の道を駆け抜けて行くことは可能だろうか。僕はこの空中に浮かんだ心情をどうすればいいのか分からず、まだ宙に浮かばせたままでいる。周りのみんなは徐々に受け入れ始め、がっちりとそれらを掴んでいた。教室を見渡せば僕だけだった。だから、どうにも授業には身に入らない。
他人の事を考えている暇なんてない、これからは自分自身との戦いだろう。と心を奮い立たせてはいるけれど、「それはそうなんだけどさ」と言い訳がましく、もう居ない先輩の背中を見つめている自分がいる。
春休みも終わって先生たちも真面目な顔して受験について熱く語っている。言われなくたって分かってるんだ、やらなきゃいけないって。クラスメイト達がどこの大学を志望したいのかを大声で話していた。未だに過去に縋りついているのはどうやら僕だけみたいだった。
このままじゃまずい。僕は先輩ともう一度だけ遊んで、勉強にだけ集中しようと連絡をとった。先輩は新しい環境に順応するのに大変だろうに、快諾してくれた。
久々に会った先輩は僕の思っていたあの先輩とはかけ離れていた。黒くて綺麗だった髪を、地面のような色にして、話す内容も大きく変わってしまった。
僕は虚しい気持ちを抱えて先輩と別れた。そしてもう会うことはないのだろうなと何となく感じた。
先輩が変わってしまったのだろうか、それとも僕だけが変われなかっただけなのだろうか。分からない。僕も大学に入ったらこんな風になってしまうのだろうか。
僕は一人、体育の授業を抜け出して校庭の桜に近づいた。桜は綺麗だけれど、見る度に悲しくなってしまう。僕は垂れていた桜の木の枝を折って、何分か見つめた後に地面に放り投げた。
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