日記#10 『舐めてる』

「お前、それは社会を舐めてるよ」
そう言ったのはバイト先の人だった。
「いつか必ず痛い目見るよ」
近くにいたもう一人の先輩もそう言った。
僕が少し未来への展望を語っただけでこれだ。
「いやでも…」
僕が何とか話の続きを言おうとするが、遮られてしまう。
「まぁいいんじゃない? 痛い目見た方がいいんだよ」
嫌味ったらしくそう言われた。
僕の言い分も聞かずになんだ。分かってるよ難しいことくらい。分かってるよ甘えてることくらい。分かってるよ考えが足りてないことくらい。
でも僕の僕だけの人生、好きにさせてくれよ。僕だけしか僕の人生は走れないのだ。そもそもお前らなんかに走らせてたまるものか。
でも僕はそう思っていながら何も言えなかった。言う必要もないのかもしれないけど、言えなかった。「でも僕の人生なんです」なんて言えなかった。僕に勇気が、自信が、希望があればもっと変わっていたかもしれない。そもそも「舐めてる」なんて言われていなかったのかもしれない。悔しかった。でもその人たちの言うこともその通りだと思う。実際に僕の考え方は甘いし、難しいし、考えは足りてない。二人の言う通りなのだ。
帰りの電車でずっとその言葉が反芻していた。僕は社会を舐めてるらしい。でも舐めたまま成功し続けたらいいのだ。僕が成功すれば、僕のささやかな復讐は完遂されるわけだ。散々バカにされてきた小説家になりたいという夢だが、僕がバカにしてきたヤツらを見返すのだ。
でもそんな思いで書いた物語が果たして売れるだろうか。僕はそうは思わない。その復讐心を忘れてはならない。だけどあくまで僕が読んでほしいターゲットはいつだって別にいるはずだ。僕は僕の物語で読んでくれた人達にささやかな変化をもたらしたい。世界を変えるのは難しい。だけど人一人を変えるのはそんなに難しくない。変わったその一人がまたもう一人を変えて、世界を変えるのだ。

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