Phrase Plus 4 『断崖絶壁ロックンロール』

「お前、そろそろ諦めたらどうだ? 才能ねぇよ」
と言われてしまった。
うるせぇなとなんとか言い返して俺はスタジオを出た。ここのスタジオは高い。1時間5000円もする。それをわざわざ払って、なんで諦めろなんて言われなきゃならないんだよ。
俺は30を越えてもなお、音楽活動をしていた。ギターを掻き鳴らし、自分の思いの丈を叫んでいた。だけど、そろそろ限界なのかもしれない。俺の周りの同級生は結婚をし子どもを産んで、いい一軒家に住んでいる。規則正しく労働と休暇を繰り返し、幸せな日常を送っている。
しかし俺はどうだ? 金もないし貯金なんてゼロに近い。それに結婚相手もいなければボロボロのアパートに住んでる。情けねぇ。10年以上前の頃は、すぐに売れて大物になってやるなんて息巻いてた。今となっちゃあ老いぼれで、当たり前のように若人に抜かされている。若さには勝てねぇ、そう零して、ライブ会場を後にする。
本当にこれが望んでいたものか? もちろん違う。スターになって、俺の音楽を世界中に聴かせて…。俺はのし上がっていくはずだったのに。

スタジオの近くにあるコンビニで煙草を買い、近くの公園で吸った。ベンチにはこの前俺が失くしたであろう、百円ライターがあった。俺の好きな赤色のやつだ。この公園はあまりに寂れていて、寄ってくる子どもなんて居なかった。俺としては好都合だ。今の時代、路上でタバコを吸おうもんなら罰金だ。俺らはタバコで税金を払ってるっていうのに、どうして罰金なんだ。むしろ、五年間吸い続けたら賞金をくれたっていいと思うが。納税してる訳だし。
いよいよ現実的に未来を考えてみよう。
今の俺は何をすれば未来が光り輝くのだろう。もう手遅れだろうか?
30を越えても音楽に執着してるなんてダメなんだろうか。俺には分からないけど、一般常識からは離れているんだろうと思う。
タバコの2本目に火をつけ、紫煙を吐いた。その煙は俺の周りをずっと漂っていた。

何をするにも金がいる。それはそうだ、生きていくにも、音楽やるにも。
家に帰って、気分をリフレッシュさせるために銭湯へと行った。昔からある銭湯で、週末になればかなりの人数が来たりする。湯船に浸かり、ぼんやりとテレビを見ていた。ここの利点は風呂にテレビがついている点だ。テレビにはあのアイドルの裏側というドキュメンタリー番組が放送されていた。歌も上手くて笑顔が素敵なあのアイドルの並大抵ではない努力に焦点を当てた番組だ。食事に制限をかけ、自分の休みもなくダンスや歌の練習をこなしている彼女はその仕事にやりがいを感じているの締めくくった。
脱衣場で彼女と俺を比較した。俺は才能もないうえに努力すら怠っている。そんな人間が成功するわけがない。俺は鬱々とした気分を引っ提げて、帰路に着いた。スマホになんて気にもかけていなかったから、仲間からの着信に気づかなかった。
『あいつも悪気があって、ああ言ったんじゃないと思う。戻って来いよ。飲み行こう』
俺は適当に『ああ』とだけ返して寝た。

こうして死んでいくのだ。それはロックか?

















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