にっちもさっちも
小綺麗な部屋。
ここは準備室というか、楽屋と言うか。
若い女が二人、静かに時を過ごしている。
片方の柔らかい眼差しの女が、燃える瞳を持つ女に話しかける。
「この冬は、いつもと違って心が騒ぐ」
燃える瞳は少し意地悪な気持ちで、こう言った。
「あなた、冬彦に恋をしてるでしょ?」
「何でわかるの?」
柔らかい眼差しは狼狽える。
「あなたの前任者にした事を、冬彦はあなたにもしたって事よ」
そして、更に続ける。
「彼は自分の舞台、出演時間を延ばしたいのよ。少しでも長くね。そのために、あなたの出番を削る事なんて、なんとも思わないヤツよ」
「それでも、構わない。彼が喜んでくれるなら、嬉しい」
柔らかい眼差しの女は、健気だ。
「冗談じゃ無い、私の出番までおかしくなるわ、あなただけの問題じゃ無い」
燃える瞳の女は声を荒げる。
その時ドアが開き一人の男が入って来た。
「おいおい、外まで聞こえているよ」
涼しい目を持つ男は、二人の女に向かって囁いた。
「冬彦が春子の出番を削るなら、私が冬彦の出番を削ればいいのかな」
落ち着いた声。どこか哀愁が漂う男だ。
夏子は憤る。
「秋彦には何もできないわ!何もかもがメチャクチャだわ!こうなったら私がフルで出演するまでよ。人の事気にするの、もう止める。広いステージで、プリマドンナとして私一人が喝采をあびるのよ」
燃える瞳を持つ女、夏子は両手を広げて軽やかに舞う。
「そして、プリンシパルは私だ」
いつから居たのか、鋭い眼差しの冬彦が口をはさみ、連続ターンを姿よく決める。
「夏子、君と私だけで二つの演目を分け合おう。中途半端は要らないさ」
夏子と冬彦は手を取り見つめ合う。
最近の気候の激しい変動は、この四人の力関係が原因らしい。困ったものだ。
春子よ、秋彦よ、
このままで良いのか?
これからの君達に期待する。
+•+•+•+•+•+•+•+
—ヴィヴァルディに捧ぐ—
記
地球温暖化で日本の四季は、夏と冬が長く春と秋は知らぬ間に終わっている事を踏まえて。
めい