魔法の笛
ある国の古いお城の、隠し部屋の、隠し戸棚から一冊の古い本が見つかった。
その本には昔、魔法の笛と言われる笛が存在したとの記述があった。
先祖の城主が魔法使いに作らせた魔法の笛。その音色は人の心を操るとある。どれほど魅惑の音色だったのだろう。
世界は我が一族の手にあると結ばれていたが、そのあとの数ページは破られていた。
御伽噺じゃあるまいし、本気にする者は無い。だが、わざわざ人目を避けるように隠されていたのが、不思議と言えば不思議。
魔法の笛以外の記述は、概ね歴史に沿っている。魔法の笛だけの記述が、ファンタジーと言うのも腑に落ちないではないか。
この話はしばらくの間、ネットで話題になったようだが、すぐに忘れられてしまった。
それから半年後、その魔法の笛と思われる物が見つかったようだと、小さな記事が週刊紙に載ったが、覚えておられるだろうか。気づく人は多くはなかったかもしれない。
その笛は日本で見つかった。例の古い書物に記された紋章と同一の刻印があったのだ。
この笛の魔力は残ってはいなかった、もしかしたら初めから無かったのか。
その笛がどのような運命、経路を辿ったのか不明だが、多分ドラマチックな物語が一つや二つはあったかもしれない。いや、あったと思いたい。
その笛、何と、大阪で豆腐ラッパとして使われていたのだ。勿論、今は使われてはいないが、大切に保管されていたそうだ。
豆腐ラッパを知らない方も多いだろうが、少なくとも魂を奪われるような音色では無い。
結局、人の心を支配し、使い方によっては、世界を思うがままに動かす事ができると言う夢のような話に、城主は夢の代価を魔法使いに払っただけの話かもしれない。
それとも、あれ程厳重に保管されていたのは自分の恥を隠す為だったのか。
私は信じている。その笛は、昔の音色も魔力も失われてしまったが、ほんの少しの巡り合わせ、すれ違いの為にその力を発揮できなかっただけだと。
しかし、魔法の笛のその末路が、豆腐屋のラッパであった事に深い感慨を覚えるのは私だけだろうか。
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たらはかにさんの、
毎週ショートショートnote の今週のお題、『笛注意報』を考えていて思いついた話です。