NovelJam2024とはどうだったのか〜その1日目〜
…という記事を終了早々に書こうと思ったんですよ。いや本当に。
ですが、具体的に何を書こうかと考えてみたら、なんか「これ書いていいのか?」と思っちゃうネタしかなかったんですね。まあ、無理に書かなくてもいいわな。わざわざ敵を作る必要もないし。さて、懸案の公募でも考えますか。積読も溜まっちゃったしね。
おばあちゃんは言っていた。
原稿の安請け合いだけはするなと。
夢におばあちゃんが出て来た。
「わかっとらんじゃないか!」
嘘です。おばあちゃん、物心つく頃には亡くなってました。そんなことじゃないんだ。とにかく「書け!」と。いや、命令形ではないんですが。書きませんかと。言われましてですね。
いやね、そもそもわし、ハイハイって手を上げたわけじゃないんですよ。最初は編集者を探してくれって話だったんよ。そう言われましてもね、いませんよ、編集者なんて。ここをどこだと思ってるんだ。新潟だぞ。たぶんヤマダマコトさんも探してたと思うんですが、ヤマダさんの人脈で見つからないものが、わしに見つかるはずがないじゃないですか。で、結局、じゃあ来てよってことになってしまったわけだ。
「いや、編集なんてやったことないですけど」
「『新潟SFアンソロジー』作ってるじゃないですか。大丈夫です」
このレベルですからね。編集の技能も機敏も経験値もあったものじゃない。何をどうすればいいのかさえわからない。そしてその状態のまま終わった3日間。何を書くことがございましょう!
前置きが長い!
とりあえずですね、あんなことがあった、こんなこともあった、そんなことはなかった、という話をします。雑にします。書き飛ばします。推敲なんかしません。もう記憶の一部は怪しくなってきてるし、既に無かったこととして改竄されている部分もあると思うので、あまり真に受けたりはしないように。人間てのはそういうものだよ。
(この文章はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係がありません)←予防線
【当日まで】
編集についての本を読みました。Amazonで取り寄せました。2冊も読みました。何の参考にもなりませんでした。メルカリで売ってやるわ!売れるかよそんな本!
わし「なんやかや言って、要は人間VS人間の部分が一番大事なんじゃねえの?」
もう一人のわし「それが思うようにちゃんと出来たら誰も苦労しねえじゃん」
などと考えていると、新潟会場の個別テーマが「阿賀北の歴史」と発表される(阿賀北というのはざっくり新潟の県北地域のことです)
知 ら ね え よ !
んもう、完全にわしの守備範囲外じゃん。どうすんだよ。どうにもならねえよ。にっちもさっちもだよ。ブルドッグだよ(時々よくわからないことを言いますがスルーしましょう)。よし、校正だけはちゃんとしよう。そうしよう。
【1日目】
やってまいりました、1日目・2日目の会場聖籠町図書館へ。知っている道ですら迷う、知らない土地に至っては迷子になる確率が大谷翔平の盗塁成功率をも凌ぐと言われているわしにしては珍しく、あたりを一周しただけでたどり着きました。
平家建ての窓が多くて明るい雰囲気の、新しい図書館であります。会場は館内の外れにある、鉄扉の閉じられた会議室。中に入ると…
(あれ?)
なんだこの既視感は。平均年齢が低い。圧倒的に低い。ああ、そうだ。阿賀北ノベルジャムの雰囲気だ。阿賀北ノベルジャムは某大学が主催していたのですが昨年で撤退終了、どうやらそこに関わっていた人達がスライドで運営にあたっているようなのです。よく知りませんが、たぶんそうなのです。すなわち、
場違いな感じAGAIN!
これで萬歳淳一さんいなかったら帰ってましたねわし。萬歳さんは参加者として、あるいはディレクターとして阿賀北ノベルジャムにずっと関わって来た方で、『新潟SFアンソロジー』にも寄稿をいただいている縁浅からぬ人なのです。今回わしにコンタクトを取ってきたのも何を隠そう萬歳さんなのです。
「いや、わざわざどうも猫太さん」と、萬歳さん。今回は同じチームなのです。そして同じテーブルの島に座っている青年…が、たぶんもう一人の著者豆さん…だと思うのですが…
「あ、よろしくお願いします」と、わし。
「お願いします」と、青年。
「……」
(あれ、こっちから名乗った方がよかったかな…)
いやね、基本人見知りなんですよわし。普通なら、大学生?とか学部は何?とかこの辺に住んでるの?とかプリキュアは誰が好き?とか訊くじゃないですか。そうらしいじゃないですか。訊かないんですよ。知らなくてもいいかなと思っちゃうんですよ。萬歳さんが先手を打って「彼、オタクですから話が合うと思いますよ。あ、あまり昔の特撮とかは知らないかもだけど」とネタを振ってくれましたが、実際彼の開いたPCの周りには平成ライダーのデフォルメフィギュアがずらっと並べてあるのですが、そこで話が盛り上がるわけでもなく。
(この感触、どこかで…)
あれだ。書いた脚本がらみで現役の高校生と現場で一緒だった時に、まったく誰ともまともにコミュニケーショが取れない、取らせてもらえない空気。必殺技をもってしても貫通不能な無敵のバリヤー感。同じだ。
これがZ世代…!
いやいや、しかしわしは編集である。彼の作品をブラッシュアップする使命を帯びて戦う男燃えるロマンなのである。ちょっと気が引けるなどと控えめだけどいい人みたいなことを言っている場合ではないのだ。とりあえずわしは彼に対抗すべく、持参したステイゴールドのぬいぐるみをPCの横に置いた。
さてここで、取ってつけたように新潟会場のメンバーを紹介しよう(敬省略)
【チームA】
編集 げんなり
げんなりさんはネットでは旧知の仲であり、阿賀北ノベルジャムに参加した際にはチームの編集者であり、わしと同じく『新潟SFアンソロジー』作成委員会のメンバーでもある。その作品に対する的確な視点は敏腕の形容詞が相応しい。今回はオンライン参加。
著者 あめつき
到着するなり早速自己紹介とご挨拶に来てくださった一流社会人。見習え、わし。萬歳さんと同じ職場の方。私が声をかけましたと萬歳さんは言っていたが、本人は「楽しい文芸サークルか何かだと思っていた。騙されました」とのことだった。騙したんだと思います。
著者 高松凛太郎
前回の阿賀北ノベルジャム参加者。若い。考えてみたら一言も喋ってない、と思う。とはいえ、あめつきさんとはいろいろ相談していたから、Z世代がどうこうではなく、気兼ねなく話せないのはわしの問題なのである。おそらく彼等の世代が共通項として帯びている雰囲気とわしの性格的資質との間には謎の排斥力が働いているのだ。
【チームB】
編集 小林猫太
わし。
著者 萬歳淳一
前述の通り、阿賀北ノベルジャムといえばこの人、萬歳淳一といえば阿賀北ノベルジャム。その正体は新潟市で評判の産科医。
著者 豆
間違いなく敢えて名は秘す某大学生。なぜなら2日目・3日目の現場ディレクションをしていた敢えて名は秘す某大学の松本先生と就職の話をしていたから。特撮オタク、らしい。今回、初めて小説を書きます。
さあみなさん、張り切ってまいりましょう!
…という雰囲気ではないな、うん。場所が図書館内ってこともあるんでしょうが、基本ひじょーに静かです。休日出勤している役場の税務課みたいな感じです。休日出勤している役場の税務課に行ったことないですけど。
で、開会式です。ここで全体テーマが「3」と告げられます。「3」ねえ…会場テーマを邪魔しないフレキシブルなテーマではあるんでしょうが…この後に行われるプロット発表会ではあちこちで何度も同じ囁きが聞こえて来ることになるのです。
「…で、今の話のどこに3があるんだ?」
なんやかや言いながら、みんなある程度内容を考えてきてるんですよ。だってテーマ知ってから入稿まで実質1日半くらいしかないんですよ? 当日発表テーマなんかもう詐欺的詭弁を弄してどこかにねじ込むしかないじゃないですか。わしはそんなことしませんけどね。
でもって、あれがああしたりそれがそうしたらしまして、チーム名はチームAが「阿賀北の嗚咽」(どういうことだよ)、わしらが「阿賀北屋」と決まりました。わしの「越後書造株式会社」「純米吟醸越乃文売」「潟決闘2024」は採用されませんでした。ガタケットを「潟決闘」とした時点で勝った!と思いましたが、世の中そんなに甘くありません。
…おい、もう3400字だぞ。まだチーム名が決まっただけじゃないか。どうすんだよこのレポート。
というわけでたった今、タイトルに「〜その1日目〜」を追加しました。取り急ぎ1日目を終わらせます。おばあちゃんは正しかった。嘘だけど。
しばらくして萬歳さんが「こんな話を書こうと思うんですけど」と話し出す。
『三尾の鯱鉾』
米沢藩出身でありながら、のちの新発田で産婆学校を設立した実在の人物田村謙斎の生涯を描き、平和を願う彼の想いを新発田城の三尾の鯱鉾に準え、戊辰戦争での裏切り者扱いをされている新発田の誇りを取り戻す話。
「その方、検索してもヒットしませんね」
「ええ、ほとんど知られていないんですよ。私は仕事柄知っているのですが」
素 晴 ら し い !
一般には知られていない歴史上の偉人にスポットを当てる、まさに歴史小説の王道!しかも著者にはその道の専門知識が!
素晴らしすぎてわしの出る幕があろうとは思えません!
そして豆さんは。
「歴史よくわかんないんで、未来の話にします。未来から見たら、現在が歴史じゃないですか」
Z世代おそるべし!
もう詐欺だの詭弁どころの話ではない、コペルニクスがムーンサルトで着地するような転回!
「で、新発田城を爆破します」
は?
なんでも未来の新発田市は巨大ショッピングモールを中心に発展していて、その建設のための陰謀で新発田城を爆破、主人公であるモールの新入社員がその陰謀を暴く話だというのです。
おいおい、大丈夫か。
案の定、萬歳さんが遠回しに新発田市の市民感情に懸念を呈しました。「新発田の人達が大切にしているものだからねえ」
よし、ここが編集の腕の見せ所だ!
「NERVみたく、実は地下都市に移設しましたってことにすればいいんじゃね?」
それも考えたんですけどね、と豆さん。とにかく、爆破したいのである。精神的テロリストなのである。参加者のみなさんはわかるでしょうが、プロット発表会で豆さんは楽しそうに言いましたよね。
「新発田城を爆破します!」
そんなに爆破したいのなら仕方ないじゃないか。わしは知らん。考えてみたら、わしは日頃から言ってるじゃないか。小説は何を書いてもいいのだと。リアリティというのは内容のことではない、語りのことだと。
よし、やってみるがいい。
やれるものならな!
あめつきさんがやって来た。
「げんなりさんと親しいんですよね?」
「ええ」
「連絡取れないんですけど、どうしたらいいですかね。メールは入れたんですが」
「Xは常に見ています。Xを使ってください」
げんなりさんチームの人とまともに話したの、たぶんこれだけです。
ちなみにあめつきさんが書くのは、戦国時代この地域で活躍したエキセントリックな武将の話だそうです。なんだか前田慶次と被ってるような気がしますが。だが、それがいい。
高松さんは蕗谷虹児の『花嫁人形』の歌詞を核にした、見るからに、いや、聞くからに文芸的な趣の作品になる模様。
真 面 目 で す ね !
いや違うって。わしが普段まともじゃねえ話ばっかり書いてるんだって。と気づいたら、俄然豆さんへの期待度が上がった、と言えなくもないわしであった。
そんなこんなで、1日目は解散の時間だ。なにせ図書館が5時に閉館なので、他会場みたいに夜中まで作業は出来ないのだ。
わしはほぼ何もしていないまま、新発田駅前のビジネスホテルに向かうのであった。
もちろん、途中で道に迷った。
新発田さあ、幹線道路が真っ直ぐじゃねえから、どっちの方向に走ってるのかすぐにわからなくなるんだよ。平安京とかを見習えよ。
(〜その2日目〜に続く)