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【19】 音楽制作

10年長く生きている先輩なだけあって、Nさんは全てに余裕を感じた。私はそのとき初めてホテルに入ったけれど、Nさんは自然な流れを乱すことなく、ずっとスマートにエスコートしてくれた。

これまで人の前で裸になるのはSくんだけだったし(それでも全裸になることはほとんどなかった気がする)すぐ脱ぐことに抵抗があるくらいにはウブだったので、シャワーは別々で浴びさせてもらった。鏡張りの天井を仰向けで見たときの、私に覆い被さるNさんの体の細さが印象に残ってる。本人はガリガリ体型を嫌っていたが、藤原基央(バンプ)的な線の細さは、私の目には長所としてしか映らなかった。
今になって振り返ってみても、一番からだの相性は良かった思う。焦らす触りかたも、ゆっくりな動きも、話し方を含め声や雰囲気まで、全部にめちゃくちゃ興奮した。その日に初めて朝帰りをしたのだった。

きっと女遊びもたくさんしてきただろうし、かっこいいからモテるだろうし、私はワンナイトの遊びに違いない!と思っていた。それでも充分に幸せだったのだが、Nさんからの連絡やお誘いはその後も続き、告白めいたことはなしにして、いつの間にか恋人になっていた。

「病院で知り合った人」という紹介から、最初は母に警戒されたけれど、人当たりよく、手土産片手にしっかりと挨拶をするNさんを見て安心したのだろう、母にも、飼っていた犬にもしっかり好かれていた。Nさんとのお付き合いは、まず2年ほど続く。

Nさんは、まえに夢中になった雑記サイト「夜」の彼女と同じように、知らないコンテンツをたくさん知っており、その全てがかっこよくお洒落に見えて、すぐに影響されていった。
Blanky Jet City、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、THE YELLOW MONKEYなど、当時の私の年齢では馴染まない世代の音楽を聴くようになり、そして岡崎京子の漫画を読みはじめたのも、彼の本棚に置いてあったのがキッカケだった。なかでも「うたかたの日々」は私もNさんもお気に入りで、そこの登場人物の名前からとった「Nicollacolin」というユニットネームを使って、一緒に作った曲をYoutubeにアップロードしたりした。

NさんはDTMを触るのが趣味だったが、音感や理論の知識は全くなく(昔やってたバンドは、楽器が弾けないからという理由でボーカルをしていて、確かに歌がめちゃくちゃ上手だった!)既存の曲をサンプリングしたりマッシュアップしたりして遊んでいたらしい。そこへ音感持ちの私がやってきたので、お互いの足りない部分を補いあって、曲を完成させることができた。
とはいえ作曲は私も苦手だったので、好きな曲を耳コピし、Midiキーボードで打ちこみ、アレンジを加えてマスタリングする、という二次創作の形だった。彼のアカウントでアップロードされたNicollacolinの作品は、残念なことにもう消されてしまっているが、そのとき知ったMGMTと80kidzの音楽は気に入って、その後もよく聴いたのだった。

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