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私の好きな作家さんの話_くろば・U先生

※この記事は一応くろば・U先生を知らない方向けにも書いているのですが,ターゲットとしてはステラのまほうを読んでいる方やきらら系の作品が好きな方を対象としています。

創作をしている者は多かれ少なかれ,先人の作家さんたちの影響を受けていることが少なくないでしょう。私も創作を始めるきっかけになった作家さんがいます。

私が創作を始めるきっかけになったのは,くろば・U先生です(リンクからくろば・U先生のX(Twitter)に飛べます)。まんがタイムきららMAXで連載されていた,同人ゲーム部でゲーム制作をする少女を描いたステラのまほうという作品が有名です(現在は完結済)。創作ならではの葛藤・産みの苦しみ・他者比較なども描かれており,創作経験のある方に刺さる作品かと。

ただし刺さるという表現通り,心をだいぶ抉られる可能性があるので,メンタルが弱っているときは注意ですが(私も心をえぐられた人のひとりです)。

その他,一般向や成人向の同人誌・商業誌,アンソロジーの執筆を手がけています。詳しい業績等はこちらの個人サイトにあるようです。


私がくろば・U先生の描かれる作品にインスピレーションを受けたのは,先生の描かれる思春期の少女たちのほの暗い感傷の描写に,当時同じように闇を抱えていた自分の心が引き込まれたからです。

くろば・U先生の描かれる少女の葛藤嫉妬コンプレックスから生まれる人間関係の軋轢の描写に引き込まれ,受験で気分が沈みがちだったときも心を支えてもらっていました。

とにかく,人間という面倒くさい生き物を描くのが非常に上手な方なんですよね。特に負の感情(あまりこの表現は好きではないのですが)の描き方が秀逸で,私の二次創作観や性癖に多大なる影響を及ぼしました。

今回は私が創作するきっかけになったくろば・U先生の作品の出会いとのめり込んでいく過程,そしてどんなところに惹かれたのか書いていきます。いわゆる,推しの布教に近いかもしれませんね。

出会い_何気なく読んでいたアンソロ

私がくろば・U先生の作品に出会ったのはステラのまほう……ではなく,きんいろモザイクという作品のアンソロジーに描かれた短編でした。

くろば・U先生の作品との出会いは,他の方とは違うかもしれません。故に,今回はくろば・U先生の代表作であるステラのまほうにはあまり触れません。

きんいろモザイクはいわゆる日常系と呼ばれる類いの作品で,中学生の頃に大宮忍という女の子がホームステイ先で出会った女の子,アリス・カータレットが忍の通う高校に留学するという,コメディタッチで描かれた漫画です。

この作品も非常に好きで,特に若干毒味を含むことのあるキャラたちのやりとりが見ていて楽しいのですが,その話はまた今度。今はくろば・U先生についての記事なので。

コメディ原作のアンソロジーなので,基本的にはそれに準拠した雰囲気の作品が多かったです。どの作品もクスッと笑える作品から,百合っぽい雰囲気の作品,そしてミステリアスな雰囲気の作品まで,満足感のあるラインナップでした。

しかしくろば・U先生の作品にそんなバリエーションに富んだ作品群の中でも,私の中ではひときわ光を放っているように見えました。内容は他の作品と比べて圧倒的に""ですが(以下,手元にアンソロがないので記憶を頼りに書いていきます)。

他の作品では基本的に主人公であるアリスと忍が仲良くしているのですが,くろば・U先生の作品では,金髪好きな忍が他の金髪の子(カレン)にうつつを抜かしているのを見てアリスが嫉妬してしまい,忍の気を引きたいがために(ウィックですが)金髪を黒髪に染めてしまうという内容になっています。

しかし,突然髪色を変えたアリスに忍は驚いたものの,忍はカレンに夢中になりっぱなし。アリスに構ってくれません。

なんで見てくれないの?」と嫉妬を爆発させそうになったアリスは忍にモヤモヤした気持ちを抱いてしまう――というのがざっとした内容です。

原作でもアリスは忍のことが大大大好きで,他のキャラに忍がうつつを抜かしているとすねちゃうタイプの,ちょっぴり面倒くさい女の子です(焼きもちさんなアリスも非常にかわいくて好きです)。

くろば・U先生はそんな原作内でのアリスの描写もバッチリ拾ってくれてかつ,アリスの嫉妬心が遺憾なく描写されていて,当時衝撃を受けた私は何度も何度も,くろば・U先生の作品を読み返していました。

自分の中にある,明るくてほのぼのとした日常系作品という観念を根底から覆されるような経験でした。そして,もっとくろば・U先生の話をもっと読みたいと,そのころからきらら系のアンソロジーを漁るようになっていきました。

いま手元にアンソロジーを置いていないのですべての作品を挙げられるわけではないのですが,ご注文はうさぎですか?(通称ごちうさ)のアンソロジーも当時衝撃を受けた作品の一つです(他の作者陣も錚々たる方々ばかりです)。

この作品では,リゼ(紫髪の子)に憧れるシャロ(金髪の子)のクッキー作りをシャロの幼なじみである千夜(袴を着ている和風の子)がお手伝いするお話です。千夜はシャロのことが大好きなのですが,リゼのために頑張るシャロをみてモヤモヤとした気持ちを抱えつつも,親友の健気な姿を応援するという内容になっています(うろ覚えなところもありますが,大体こんな感じだったかと)。

自分の気持ちを押し殺しながらも最後はシャロを送り出す千夜のはかなげな姿がとても好きで,それまで好きだった千夜✕シャロの百合カップリングへの熱がますます熱くなり,初めての同人誌も千夜シャロで書きました。そのときも,くろば・U先生の描く二人の関係性をかなり参考にした覚えがあります。

こんな感じでくろば・U先生が描かれているアンソロジーを収集し,それだけでは飽き足りなくなった私は同人誌にも手を出し始めます。

小説を書き始めるきっかけ_同人誌との出会い

同人誌を集めていくうちにとらのあなで見つけたとある作品の同人誌が,後に私が二次創作小説を書き始めるきっかけになりました。

この作品は、「どうしてわたしが美術科に!?(通称どうびじゅ)」という作品の二次創作です。入試で普通科を志願していたはずの桃音(ピンク髪の子)が出願ミスで美術科に入学してしまい、アートの知識ゼロの状態でクラスメイトたちと放課後美術室で課題や補習に取り組むという内容の、コメディタッチ風のお話。

くろば・U先生はこの作品のファンらしく、単行本2巻では直々に推薦コメントを書かれていました。どうびじゅ作者である相崎うたう先生とのインタビュー記事も非常に興味深いので、興味のある方はぜひ一読してみてください。


さて,先ほど取り上げた同人誌の内容についてですが,美術科に入学してから桃音が少しずつなじみ始めてきたところで,彼女が改めて進路に悩むといった内容のお話になっています。

その中で、放課後居残り常連の黄奈子(表紙の黄土色の髪の子)は、桃音に美術科にいてほしいと思う反面、それは彼女の進路を縛ることになるのではないか――自分勝手で傲慢な願いなのではないか――と葛藤します。

一方で桃音も黄奈子と離れるのは嫌で、でも高校を卒業してから美術の仕事に就く覚悟があるかというとそうではないと、彼女もまたジレンマに心をすり減らしていきます。

進路という学生の前に立ちはだかる大きな壁を前に、二人が葛藤する姿を描いた物語なのですが、葛藤の根底には互いに離れたくない、離れたらダメになってしまうという、いわゆる共依存の関係が描かれていて、二人は関係性という鎖にがんじがらめにされてしまうのです。

私はこの作品を読むまで、共依存という言葉の示すものがわかりませんでした。初見だったときは、依存という言葉のイメージに引っ張られて、あまり良くない状況なのではないかと思いました。

しかし、何度も何度も読み返すうちに、排他的な世界の中で二人しか見えない世界に私はある種の美しさを見出してしまったのです。

私たちは、親密な仲の人(友人や恋人)との距離感に悩んだことは少なくないと思います。人間関係というのは良くも悪くも無常です。私たちを取り巻く関係が変わるように、人間関係というのも少しずつ変化していく。

しかし我々は、変化というものを忌み嫌うようにプログラムされているので、ときに相手を束縛したい、離したくないという感情を抱くこともあります。いわゆる嫉妬、独占欲、拗らせるとヤンデレやメンヘラといったものです。

もちろん現実世界であれば、相手に危害を与える、あるいはお互いのためにならない依存関係は解消されるべきなのかもしれません。

しかし、フィクションの世界ではたびたび、狭い鳥籠の中で互いしか見えていない姿が美しく描写されている。むしろそれこそが真実の愛だと言わんばかりに、肯定的に描かれていることさえもあります。

私はこういう、閉鎖的な人間関係の中で互いを愛し合う女の子同士の恋愛に惹かれて百合マンガを読み漁っていましたが、このくろば・U先生の本のおかげで、自分が無意識に追い求めていたものの正体がわかったような気がしたのです。

そして、心の中に密かに灯っていた火が強く燃え上がりました。自分も、くろば・U先生のようなお話を書きたいと――

ちょうど運よく(?)ぎっくり腰で寝たきりだったことに加え、受験勉強のストレスが積もりに積もりまくっていたこともあって、私はスマホの初期アプリのメモ帳にどうびじゅの二次創作を書き始めました。

ただくろば・U先生の解釈をなぞらえるのではなく、自分なりの考えも頑張って組み込みながら、夢中になってふリック入力をしていたのを覚えています。そうしてできた処女作がこちら。

少し話が逸れてきてしまったので、この作品の詳しい説明はしません。かくして私は、くろば・U先生の描かれる少女たちのセンチメンタルな物語に魅せられて、筆を取るのに至るのでした。

くろば・U先生の魅力

くろば・U先生の作品の魅力を言語化するのは中々難しいです。

くろば・U先生はシリアスな物語だけでなく、コメディチックなお話も多く描かれています(実際、けいおんのアンソロやステラのまほうには、そういった要素が散りばめられています)。

ですので今回は、くろば・U先生の同人誌とアンソロジーかつ、シリアスな雰囲気のお話に絞ったときの、作品の魅力について自分なりに感じたことを書きたいと思います。

思春期特有の負の感情の描写

くろば・U先生の描かれる女の子の大半が女子高生です(まんがタイムきららで描かれる女の子の多くが女子高生ということが起因しているのもあります)。

一般的にこの時期は身体や心の成長からメンタルが不安定になりやすく、特に周囲との比較や、人間関係における葛藤でネガティブな感情を抱きやすくなるといわれています。

前者の比較から生まれてしまうネガティブな感情を描いた作品は、こみっくがーるずの二次創作同人誌や、先ほどのどうびじゅの後に出されたこの同人誌がが当てはまるでしょう。
【こみっくがーるずの方】

https://www.pixiv.net/artworks/72247932

【どうびじゅの方】
https://www.pixiv.net/artworks/78525721

私自身は嫉妬を必ずしも悪いものとは捉えておらず、むしろ自然に湧き出てくるものだと思っています。実際海外では嫉妬を、克己心に近いような良性の妬みと、相手を貶めようとする意図がある悪性の妬みに分別する分け方が感情心理学においては主流になりつつあります。

とはいえ嫉妬心の自覚が相手への罪悪感が生まれてさらに落ち込み、ネガティブ感情を解消するためにまた妬んでしまうという負のループがあることは否定できません。

そしてくろば・U先生の作品は、自分よりも才能や境遇に恵まれた相手に対し、溜め込んでいた感情を爆発させてしまい、対人関係に亀裂を生み、そこからどう立ち直って行くのかという過程が描かれています。

この思春期の心の変化からくる羨望や葛藤の巧みな描写は、くろば・U先生自身の経験に基づいたものでもあるそうです。そこでの経験が、連載作品のステラのまほうにも遺憾無く活かされています。

また、これまでの同人誌紹介の中でも書いたように、くろば・U先生のお話、とりわけ百合マンガという観点からは、自分の欲求と相手の欲求との間で板挟みになり苦しむ姿の描写にも目を見張るものがあります。

きんモザのアンソロジーの例でいうと、忍に振り向いてほしいがあまり、忍の好きな要素かつアリスのアイデンティティでもあった金髪を自ら消してしまうという皮肉な展開を描いています(結局振り向いてもらえなかったのですから、余計に悲しいです)。

また、きんモザの同人誌に「とうえいダイアリ」というものがあるのですが、こちらでもアリス(と同じく片想いの綾)の遠回りな気持ちの伝え方のせいで、結局忍にわかってもらえないという展開が描かれています。

ごちうさのアンソロジーだと、千夜がシャロのクッキー作りを見守るのですが、シャロが思いを寄せているのは千夜ではなくずっと憧れていたリゼ。千夜はそのことを知りつつも、大好きな友人のことを想い、自分の気持ちを押し殺してまでシャロのことを送り出すのです。この、幸せと悲しさが入りまじった千夜の表情が非常に印象に残っています。

このようにくろば・U先生の百合における感情描写は読者の胸を容赦なく締め付けてくるのですが、切ない恋愛ものが好きな私は感銘を受けました。実らない恋は美しいと想えるようになったのも、くろば・U先生の影響があります。

転落からのハッピーエンドへの収束

そしてさらにすごいのが、非常に重苦しく、もはや修復不可能なのではと思わせた上で、きちんとハッピーエンドにもっていくところです(アンソロでは紙面の都合上、必ずしもそうならない場合があります)。

この傾向が顕著に見られるのが、どうびじゅ以降の同人誌(2017年以降の同人誌)なのですが、原作の設定や雰囲気を加味した上でよりを戻す展開が組み込まれているのです。

私の所感として、ハッピーエンドを書くのははバッドエンドを書くのよりも数倍難しいのですが、くろば・U先生はそれをも容易くやってのけてくる。プロの作家としての技量にただただ圧倒されるばかりです。

最近私のダークな雰囲気の作品は大抵バッドエンド、よくてもメリバで終わることが多いのですが、ちゃんとハッピーエンドになるお話も書いてみたいものです。

おわりに

以上、私がかねてよりずっと語りたかったくろば・U先生の紹介でした。拙い言葉ではありますが、くろば・Uとともにたどるこれまでの創作人生をテーマに、今回の記事を書き記した次第です。この記事をきっかけに、くろば・U先生に興味を持ってくだされば、これ以上嬉しいことはありません。

最後に、今回の記事で紹介しきれなかったくろば・U先生の短編集について取り上げたいと思います。かなりえっちな描写を含むので注意です。


こちらは若干コマの情報量が多く、人によっては読みづらいと思うかもしれませんが、濃厚かつ非常にドス黒い百合を味わえますので、興味のある方はぜひ。ただし読むタイミングにはお気をつけを。

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