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キャリアを積む理由

支店長「小鳥谷さん、勉強してる(よね)?」

私「あっ……えーと、はい、少しずつ……」

上司のプレッシャーはやはり重い。




キャリアウーマンという言葉は死語になりつつあるくらいキャリアを積んだ女性が珍しくなくなってきました。

女性の社会進出はまだまだ発展途上だと思いますが、妊娠出産を経てどうキャリアを積むかという話題が当たり前になってきたことに社会の変化を感じます。

同時に、別にみんながみんなキャリアを積みたい訳ではないという価値観も認めてほしいなぁと思うのです。
キャリアを求めない価値観もまた多様性の一つではないのか?と。

ていうか多様性って便利な言葉だよね。
なんでも多様性と言うのはいかがなものかと思う反面、便利だからつい使っちゃう。



私はキャリア志向ではありません。
責任ある仕事をしたいとか、今の職場でやりたい事があるとか、将来こんな仕事をしたいとかそういった志はありません。
マミートラックで全然構いません。

本音は働きたくない。
そもそも知らない人と話すのがストレス。
でもお金は欲しい。
5億円欲しい。非課税で。

贅沢をしたい訳ではないが、明日の食べ物に困る生活はしたくない。
子どもに「塾に行きたい」とか「県外の大学に行きたい」って言われたら「いいよ」って言えるくらいの収入は欲しい。

だから仕事はお金を貰うため。
その代わり貰う分は真面目に働く。
真面目に仕事をする姿勢さえあればどこの部署に行っても居場所はあるだろう。

就職した時からそんな調子だったので、昇進にも全く興味がありませんでした。
私の職場は、試験を受けて合格すると役職が上がります。
私にとってのキャリアを積むとは、仕事の経験や実績を増やすと同時に試験の合格を指します。
コネも社内政治も関係なし、試験に受かりさえすれば立場が上がるので20代で管理職になる人もいます。
が、この試験がなかなか難しい。


私「私、終身名誉平社員でいいんだけど」

同期「わかる」

私「むしろスーパー平社員がかっこいい」
  (知識も経験も実力も管理職級なのに
  試験だけやる気がないベテラン平社員)

同期「わかる」


仲のいい同期とよくそんな話をしていました。
昇進はしたい人がすればいい、年下の上司に指示されることに何の抵抗もないよね、と。
下っ端の仕事で全然甘んじていられる。

そんな意識が低い社会人だったのですが育休のブランクを経て会社に戻り、色々カルチャーショックを受けることになりました。

簡単に言うと周りからかけられる言葉が違うのです。例えば↓

「すみません、◯◯の件なんですけど今いいですか?」
「来月休みたいとこあるなら先に取っちゃっていいですよ、言ったもん勝ちですよ」
「お世話になりました、助かりました」

普通の会社なら当たり前な会話かもしれませんが、これらの言葉を私が入社したての頃に変換すると

「おい、アレどうなってる?」
「この日休んでええぞ」(休みの日を選べない)
「おう」

すごいですね。
一言で言うと"ぞんざい"です。
復帰してから真っ先に思ったのは

ああ、敬意を払われてる


です。
私がいない間に若い子が随分入って、知らない間に私が先輩の立場になりました。
私より若い上司も増え、時短勤務の私に残業をさせないよう配慮もされています。

すごい。
平社員なのに気を遣ってもらえる。
私が周りに気を遣うのはずっと当たり前だけど、逆はなかったのに。
なんていうか、人権がある。

年齢が近い育休明けの先輩ママSさんにトイレで会った際、思わずこぼしてしまいました。

私「Sさん、私復帰してからというもの
  周りからの扱いが丁寧なことに
  ビビってるんですけど」

Sさん「そう!わかる!違うよね!?
    前はこっちの都合なんてお構いなしで
    すごい雑な扱いされてきたのにね!」

私「なんでですかね?」

Sさん「うーん……やっぱり年齢?」

私「大した実績もないのに?
  ヒラなのに?」

Sさん「あとやっぱり上の世代が抜けて
    価値観は変わってきてるよね
    若手への接し方が見直されてる」

私「試験受かったことないのに人権もらった
  気分です」

Sさん「年を重ねるのも悪くないね」


そんな会話をして、精神的にすごく働きやすくなったなぁと思っていたのですがだんだんモヤモヤした気持ちが生まれてきました。

結局、年齢だけに気を遣われているのです。

専門知識は大してないけどいつ話しかけても大体笑顔で応える、想定外の事態には激弱なアラフォー時短勤務平社員。
に対して、上司はもれなく敬語で話しかけてきます。
もう雑に扱っていい若手ではないからです。
(※そもそも若手を雑に扱ってはいけません)

なんか情けないなぁ。



って漠然と感じるようになりました。

ずーっと下っ端でいいと思ってたけど、年相応の肩書きを持つことも年長者の仕事かもしれない。
(気付くのが遅い)
年下の上司に気を遣われるのが申し訳ない。

ちゃんと勉強しようかなぁ。

そんなことを思い始めたときに、冒頭の支店長からのプレッシャーです。

「勉強してる?」

そう、試験に一度も受かっていない人は毎年偉い人からのプレッシャーを受け続けなければいけないのです。
知ったこっちゃねぇよと鼻くそ飛ばせる鋼メンタルな人もいるけど私は豆腐メンタルです。
豆腐が飛び散るたびに拾い集めて生きてきました。

一回受かればこのプレッシャーも受けなくていい。

よし、40歳までに受かろう。
年相応の立場になろう。
そんな理由でキャリアを積んでもいいでしょ。


今の私は両津勘吉なので恩田すみれを目指そうと思います。

受かったらすみれさん
受かったらすみれさん……
私は深津絵里
私は深津絵里……


あ、なんかやる気出てきたかも。



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