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【イベント・レポート】広告小学校 - 白熱した「学び合い」への誘い -

「広告小学校」は、CMづくりを題材にしたオリジナルの教育プログラムです。その狙いは、アクティブ・ラーニングによって、子どもたちのコミュニケーション力(伝え合う力)を育成すること。
そして、2018年8月25日、アドミュージアム東京「クリエイティブ・キッチン」では、高校生向けの「広告小学校」特別授業を開催しました。

クリエイティブ・キッチンが目指すもの

クリエイティブ・キッチンでは、「Open・Join・Share」をキーワードに、さまざまなプログラムを実施しています。今回は、次世代育成を目的としたアクティブ・ラーニングのプログラムとして、高校生向け「広告小学校」特別授業を開催しました。

「広告小学校」本来のプログラムは、複数回に分けて同じクラスのメンバーと学ぶものです。しかし、今回の参加者は、皆が違う高校に通う初対面の生徒たち。クリエイティブ・キッチンでの「CMづくり」を通じて、どんな化学反応が起こるのでしょうか。

今回の特別授業で参加者を迎えた講師の皆さん。左から牧口征弘さん(電通・経営企画局局長)、大熊雅士先生(小金井市教育委員会教育長、今回の授業のメイン講師)、阪中真理さん(電通・総務局社会貢献部部長)、田中 元さん(電通・第2CRプランニング局クリエイティブディレクター/アートディレクター)。

広告小学校とは?
株式会社電通の社会貢献活動「広告小学校」は、子どもたちがコミュニケーション力の基礎となる「発想力」「判断力」「表現力」「グループによる課題解決力」を培うプロジェクトです。2006年の開始以来、カリキュラムを提供した学校は、全国・海外317校、約4万2千人の児童・生徒たちが体験(2018年3月現在)。「広告小学校」という名前ですが、実際は小学校だけではなく中学・高校・大学の授業にも取り入れられています。
これまで、キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、メセナアワード優秀賞など、数々の賞を受賞しています。

▼広告小学校公式サイト

「東京のよさ」を伝える15秒CMをつくる

「広告小学校」の授業プログラムでは、グループで15秒のCMをつくり、自ら演じて発表することが最終課題。グループでの話し合いの中でコミュニケーション力を養いながら、今回、生徒たちは「東京のよさ」を伝えることに挑戦します。講師陣によれば、「『東京』というテーマは範囲が広く難しい」そうですが、高校生たちはどのようなCMを見せてくれるのでしょうか。

特別授業の流れ

授業は次のような展開で進んでいきます。

【イントロダクション】
 1)アドミュージアム東京の展示見学で、広告の持つ役割や表現の手法を学ぶ。
【コンセプトを決める】
 2)班(グループ)に分かれた後、まずは個人で「東京の魅力」を付箋に書きだし、次にそれを班で「人」「文化」「歴史」などに分類しながら取捨選択していく。
 3)その中で、訴求すべき「東京の魅力」を班で共有し、発表するCMのコンセプトを決める。
【つくったCMを発表する】
 4)コンセプトをどう表現すればいいのかを班で話し合い、15秒CMを考え、それを演じる練習をする。
 5)自分たちの15秒CMを全員の前で発表する。

特に、「コンセプトを決める」段階は、この授業のポイントとなっています。牧口さんは、「『これだ!』というコンセプトが見つかれば、表現の仕方は無限に考えられる。いかに絞ったコンセプトを生み出すことができるかが、広告小学校の学びの要です」と話してくれました。

コミュニケーションが生まれる授業

「広告小学校」の目的は、職業体験的な広告のつくり方や、知識としての広告を学ぶことではありません。授業を担当した大熊先生は、スタート早々、4名ずつ5つの班に分かれた生徒たちに「『考え方』を考える時間だよ」と伝えます。

電通秘伝の「100本ノック」

生徒たちに与えられた課題は、「東京のよさを紹介するCMをつくろう」というものです。そこで、まず登場したのが「100本ノック」と呼ばれる、広告づくりのワザ。生徒たちは、紹介したい「東京の魅力」をひたすら付箋に書いていきます。大人でも「1つのテーマに対して、100通りの考えを書け」といわれると思考が止まりますが、それに挑戦する中で発想が広がっていきます。

次に、自分が考えた「東京の魅力」を、班のメンバーと共有します。大熊先生が、「相手が“なぜそれを書いたのか”をインタビューしてみよう」というと、自然と会話が生まれます。この課題にチャレンジしていく中で、チームができ上がっていく姿が印象的でした。

実は、ここで苦戦する生徒たちもちらほら。田中さんは、「普通の授業では1つの正解を発表したらおしまいだけど、ここでは何通りもの正解がある。だから難しいんです」と語りました。

チームとして動くこと

メンバー同士で「東京の魅力」を出し終えたら、班で発表すべきものを絞り込みます。そうして、班のコンセプトが決まっていきます。たとえば、東京の持つ魅力として、「スカイツリー」「東京タワー」「浅草寺」といった名所が出てくれば、コンセプトは「たくさんの名所がある街」といった具合です。

ここからが、各班とも頭を悩ませる時間です。「自分の書いたものを採用したい」「みんなが出してくれた意見を無視できない」……。クリエイティブ・キッチンのいたるところから、真剣に議論する生徒たちの声が聞かれました。初対面の相手と何かをつくりあげる作業は、生徒たちに「心を開いて相手を認めること」、「グループの中で自分の役割を果たすこと」を教えてくれることになります。

このように、広告小学校の授業では、「決まった答えのない課題」に取り組むことで、グループで試行錯誤し、課題解決力やコミュニケーション力が育成されます。同時に、今回の取り組みでは、初対面の人たちと、お互いの個性を見極め、認め、個性を活かすCMを生み出さなければなりません。これらは、本格的なアクティブ・ラーニングの学びに他ならないのです。

各班の「東京紹介15秒CM」

1時間の作業と議論を終えると、いよいよ各班が考えたCMの発表タイム。
自分たちで演じるCMの発表は、広告小学校専用につくられた舞台である「テレビ枠」の中で行われます。このようなちょっとした仕掛けがあるだけで、生徒たちは、のびのびと役に入りきり演じることができるようになるそうです。

①1班「君の舞台はここにある」

「たくさんの人が集まる街」をコンセプトにした1班。旅行者が東京で人と出会い、自分のやりたいことを探すストーリー。観光地でのセルフィー、伝統的な歌舞伎鑑賞など、異なる感覚を持つ一人一人の琴線に触れる場面を切り抜いて、東京の魅力を表現しました。

最後は、「君の舞台はここにある」のキャッチコピーと同時に、お手製の紙ふぶきが舞う演出。講評では、「コミュニケーションは相手が存在していることが前提。『君の~』と結ぶのは、非常に素晴らしかった」と牧口さん。

②5班「それが世界一の街」

5班は「世界一」をコンセプトに選択。たくさんの世界一がある東京だけに、話し合いがなかなかまとまらず、どうなることかと思われました。発表では、計画的な都市設計、国内外の文化の共存、そして、どんな人やモノでも受け入れてしまう度量の広さを表現して、東京の魅力を伝えました。

発表後、大熊先生、田中さんはじめ多くの参加者から「『世界一』のコンセプトに真っ向から向き合い、それを15秒の中でコンパクトに表現した意欲作」という評価をもらい、生徒たちの満足げな表情が印象的でした。

③4班「肌で感じに来てね!」

観光名所もあるし、ビジネスの中心地でもある。東京の持つ「ギャップ」をコンセプトに話し合いを進めた4班 。日本人の礼儀正しいゆっくりとしたイメージと、ビジネスパーソンのスピーディーで時間に厳しいイメージのギャップを、東京の魅力と考え、それを表現。「実際に来てみないと分からないギャップの街」という東京のリアルを、「肌で感じに来てね!」と締めくくりました。

牧口さんは「ストリートビューなどで、行かなくても何があるのか分かる技術も増えてきましたが、それだけだと、音や匂い、空気の流れなんかは立体的につかめない。そこで、『感じに来て!』と伝えるのは、非常によかった」とのコメントを贈りました。

④3班「よろずやTokyo!」

「東京にある個性豊かな街」をコンセプトにした3班。発表したCMは、主人公が東京の名所を回りながら、その街に住む人々に出会うストーリー。主演の生徒は、原宿では英語で答え、上野を紹介されると中国語であいさつ。秋葉原では、「ありがとニャン」と猫の手ポーズも交えて、東京が持つ地域的、文化的な多様性を、その魅力として表現しました。
実は、コンセプトを決める段階で、話し合いが進まなかった3班。しかし、キャッチフレーズにもなった「よろずや」というキーワードを見つけたことで、全体にまとまりが生まれました。

牧口さんは、「話し合いでも、CMでも、キーワードが見つかるとフワッと一歩浮いてまとまることがある。広がったものをどう集約するか、よい体験ができたのではないか」とコメントしました。

⑤2班「カルチャービュッフェTOKYO」

3班と同じく「東京のいろいろな街」に注目した2班。人気の場所をレストランメニューに見立て、「私は渋谷、原宿、秋葉原!」と、皆が思い思いの「料理」を皿に盛ります。最後は、画用紙いっぱいに東京の名所、名物が所狭しと描かれたカラフルなボードを見せてフェードアウト。「カルチャービュッフェTOKYO」というコンセプトをつくり、明るく、華やかに表現しました。

コンセプト決めの段階で、話し合いが最もスムーズに進んでいた2班。「画用紙1枚にうまくまとめられていて、魅力がとても分かりやすかった」と他の参加者や大熊先生。牧口さんは、「『カルチャービュッフェ』という言葉を発見できたことが成功のカギでしたね」と述べました。

まとめ:チームにおける個人の役割~田中さん&牧口さん講評


すべての班の発表を終えると、講評の時間。講師を代表して電通・第2CRプランニング局クリエーティブディレクター/アートディレクターの田中元さん、電通・経営企画局局長の牧口征弘さんが、次のように語りました。

田中さん:一人一人の個性が光る場所

「初めて高校生向けに広告小学校をやってみましたが、さすが、短時間にもかかわらず形にできるなと感心しました。今日学んだのは、自分のアイデアを信じるだけでなく、できないこと、分からないことは他の人の力を借りることが大切だということ。話し合いでは力を出せなかった人も、舞台に立てば自分の力を発揮できたということもあったと思います。一つ一つの班を思い返すと、それぞれが他の人とは違う自分の能力を発揮できていたのがよかったですね」と田中さん。

牧口さん:自分の意見が消えた先にあるもの

牧口さんは、「東京というのは難しいテーマです。いろいろなアイデアが出ますが、15秒で表現するには、それを捨てないといけない。グループだと、自分のアイデアが最終的には消えてしまうこともある。でも、それが大切なんです。『伝わる』と『伝える』は決定的に違います。『伝える』のは好き勝手にできますが、『伝わる』ようにするには、取捨選択の苦しさが必要なんですね」とまとめてくれました。

広告を通して学ぶ「皆で何かをつくるということ」

「単なる職業体験ではない」というのが広告小学校。何を表現するのかというコンセプトを決める、そのために、さまざまなシンキングツールを使う、そして、参加者がチーム一丸となって15秒の世界をつくり上げる。これらは、特定の職業にかかわらず、普遍性の高い実社会を学ぶ活動ではないでしょうか。学校では、取捨選択を迫られることも、初対面でアイデアをぶつけ合う機会もほとんどありません。

「はじめまして」からスタートし、数時間で即興劇まで行う経験は、知識を問うテストでは測れない成長を子どもたちに与えてくれたことでしょう。
今後も、アドミュージアム東京では、広告の持つ教育ツールとしての可能性にも着目し、次世代育成のアクティブ・ラーニングに努めていきます。

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