ドラマ『侵入者たちの晩餐』感想
新年3日に日テレでやっていた脚本バカリズムの2時間ドラマ。
普通番宣のビジュアルに載せるキャッチコピーって内容をギュッと15文字程度にまとめたものになるところを、「バカリズム脚本のサスペンスドラマ。」にしてるところからして制作陣の彼への信頼がすごい。たしか『ブラッシュアップライフ』も「主演、安藤サクラ!脚本、バカリズム!」だったよな。ここさえアピールすればあとは観てくれるというブランディング戦略。
で結論から言うとさすがのバカリズムらしさ満載で面白かった!ほんの少し違和感を残しながら進む展開がやがてすべての伏線になっており、後半で細かく細かく回収していく様はかつての内田けんじ監督作品のよう。
まず彼女たちが侵入者たちになる導入の部分が実にスムーズ。
低賃金に対する不満、経営者だけが裕福になっていることへの怒り、犯罪行為に対する罪悪感など普通の人が当然持つべき感覚を備えているという描写がいちいち納得がいくもので、仲間のふとした思いつきに乗ってしまう心理がとてもよくわかる。そして彼女たちが持つ罪悪感をきれいにトリミングしていく。まるで鼠小僧次郎吉のように、これは世直しであるかのように自分を騙していく。
それでいて都内在住30代バツイチ女性が陥っているワーキングプアの現状を残酷なほどに映しており現代の世相に対する批判にもなっている。
そりゃあんなご飯を食べながらあんなインスタ見せられたら、あんな気になるのも無理がないのである。
そこからどんどん予想とは違う展開へ雪崩れ込んでいくのだが、章を分けてグイグイ進んでいくのでまあ観やすい。視点を変えていくパルプフィクションスタイルも堂に入っている。一瞬映る小道具や長めに残すカメラワークがすべて後で効いてくる演出もさすが。個人的には開けるよの声が大きい件とソファの下だけ掃除しなかった件の伏線回収は、いやお見事!という感じ。逆に脱税の件は予想できた分そこまで驚きはしなかった。
ブラッシュアップライフの時もキレキレだったスタイリングやカラーコーディネートは今回も素晴らしく、富裕層宅がメインセットなので視覚的にも楽しめた。あんな家でフワちゃんのバラエティ番組見てるのとか笑ってしまった。
というわけで総じて楽しく観たのだが、ここで冒頭で言ったバカリズム脚本というブランディングが我々視聴者の意識の邪魔をする。
つまり、彼の作品であればコメディであり、胸糞悪いことは起きないというバイアスをかけて観てしまうため、サスペンスドラマと言われてもあんまりハラハラしないのである。非常に見応えがありよくできた話なのだが、サスペンスになり切らないのだ。
だから次は配信か映画で、地上波ではできない作品が観たい。今回ので言えば殺人自体は実際に起きちゃうとか、結局あの社長はいろいろ手を回して無罪放免で逃げ切るとか、解決しないモヤモヤや後味の悪さが欲しくなってくる。作品の方向性はこのまま変えずに、地上波ではできない描写が散りばめられているのが理想的なんだけど、そういうのやってくれないかなぁ。
…というのは常に高水準の作品を提供してくれる彼ならではの贅沢な不満だね。マジ歌も毎回エグい完成度だし、単独ライブは言うに及ばず、IPPONとか審査員が意図的に忖度して優勝者を持ち回りにさせているのではと思ってしまうくらい体感的には毎回優勝だからね。ほんと、凄すぎる。これからも身体に気を付けて良い作品を創り続けてください。