『悲しみの秘義』若松英輔(20)【書けない履歴書】

 割合とあっさりと書かれているが、とても大切なことが書かれている。

 僕が履歴書を最後に書いたのは、就職活動の頃だから、もう30年以上も前のことである。「履歴書の書き方」マニュアルみたいな本を読んで、不合格を重ねる中で、だんだんと内容が変わり、盛られ、本当の自分を見せるのではなく、本当の自分を隠すために履歴書をせっせと作っていたことを思い出す。

 今は、履歴書を読んで採用する側になった。自分の経験があるから、履歴書は基本的にアテにしていない。オンラインやリアルで、そこに書いていない「人となり」を聞き出そうとする。もちろん、彼らも「嘘」ではなく、必死に考えて書いているのだが、話しをしているうちにだんだんと「人となり」が見えてくるから不思議だ。

 「履歴書を書くとは、そこに書き得ないことを想い起こす営みだといってよい」と若松さんは書いている。

 あっさりと読んでしまう章だが、意外と深い。

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