『悲しみの秘義』若松英輔(1)【はじめに】
勤務先が9月本決算のため、経理部は10月が一年で最も忙しい。一応、私は経理責任者ではあるのだが、中小企業かつ常態的な人員不足なのでメンバーと一緒に本決算処理に明け暮れている。毎年のように会計処理の見直し、税制改正があり、なかなか円滑に事は進まない。ここ数日は23時過ぎに帰宅し、本日(10月19日)も土曜日だが出社する。
五十代半ばになり、元々睡眠時間は短いものの、無理の利かない年齢なので、心身ともに疲れ果てている、というのが実情である。
風呂から上がると日付は変わっており、早くベッドに入りたいのだが、疲れているのに、ストンと眠れない。
そんな時に手にするのが、若松英輔さんの『悲しみの秘義』(文春文庫)である。26編のエッセイで構成されている良書で、一晩に一編と決めて読むのだが、読み終えると、仕事で埋め尽くされた頭と心が静かに優しく癒される。
自分の心を落ち着ける意味でも、日々、感じたことを書くことにしようと思う。これから、出社なので手短に「はじめに」について。
「人は、自分の心の声が聞こえなくなると他者からの声も聞こえなくなる」「祈ることと、願うことは違う」 「人生はしばしば、文字にできるような言葉では語らない」
わずか5頁であるが、「はじめに」に著者の強い思いが詰まっている。責任ばかり重くなり、慢性的な人手不足に悩んでいる自分を「悲劇の主人公」のように思っていないだろうか? 難しい顔をしてしんどそうに働いている上司を見て、部下はどんな気持ちで働ているのだろうか? 忙しいことのせいにして、大切なものをないがしろにしていないか? 若松さんの思いを読みながら、自分を少し客観視することで、息苦しさからほんの少し解放されて、心が穏やかになる。
さて、そろそろ家を出る時間だ。
今日は肩の力を抜き、強い責任感を持って出社してくれるメンバーに感謝して、一日過ごそう。「おはよう」「ありがとう」。当たり前を大切に。