『悲しみの秘義』若松英輔(25)【色なき色】
非常に「力強い」章である。
前章【彼女】で若松さんは、『悲しみの秘義』を書く本質を語ったと僕は思っている。読んだ人は、それぞれの【彼女】を思い浮かべ、若松さんの『悲しみの秘義』への理解をより深めたはずだ。
【色なき色】は逆説的なタイトルであるが、何となく分かる気がする。しかし、それは気がする、だけで、本当に「色が消えていく」経験をしたと言う若松さんのリアリティとは違う。若松さんの言葉にはリアリティがある。だから、しっかりと読者に響くのだ。
「色なき色」の世界では、従来の価値が逆転する。
(中略)
別れは、新しき出会いの始まりになる。
どん底を見ると、世界観が変わる。そして、どうしようもない悲しみを経験した時、人は「色なき色」「声なき声」などを感じるのだ。そこから「力強さ」が生まれる。僕もそう信じたい。